世界最古のミイラはエジプトではなく、1万年以上前の東南アジアと中国で作られていた
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 ミイラといえば、古代エジプトや南米が思い浮かぶかもしれない。だが今回、東南アジアや中国南部の遺跡から、1万年以上前の人骨に人為的なミイラ化の痕跡が確認された。

これは、これまで知られていたどの事例よりも古く、世界最古のミイラと見なされる可能性がある。

 では、なぜこれまで見落とされてきたのか?その理由は、これらの古代文化で使われていたミイラ化の方法が、エジプトとはまったく異なっていたからだ。

 死者の遺体は長時間にわたり焚き火の煙にさらされ、じわじわと乾燥されていた。これは「燻す(いぶす)」という行為に近く、現在もニューギニアなどで見られる風習と共通している。

 今回の発見は、人類の死者への向き合い方と精神文化の歴史を大きく塗り替える手がかりとなる。

この研究成果は『Proceedings of the National Academy of Sciences[https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2515103122]』誌(2025年9月15日付)に発表された。

エジプトや南米よりもはるかに古い、1万年以上前の埋葬文化

 オーストラリア国立大学の考古学者、シャオチュン・ホン博士らの研究チームは、東南アジアおよび中国南部の11の遺跡から発掘された人骨に注目した。

 これらはベトナム北部、インドネシア、中国南部に点在する遺跡で、時代はおよそ4,000年前から1万2,000年前にさかのぼる。

 これまで、最古のミイラは約7,000年以上前の南米チリのチンチョーロ族のものとされており、古代エジプトのものは5,600年前とされている。

 だが今回の発見は、それらより数千年も古い。しかも、単なる自然な乾燥ではなく、人の手によって加工された痕跡が確認されたことで、ミイラ化の意図があったと見られている。

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煙で乾燥、屈葬、切断痕、意図的なミイラ処置

 これまで中国や東南アジアの見落とされてきた最大の理由は、使われていたミイラ化の技術が、現代人のイメージとは大きく異なっていたからだ。

 研究チームは、人骨の一部に高温処理や煤(すす)の付着、部位ごとの異なる熱変化を発見した。さらに、骨には鋭利な道具で切られたような痕も見つかっている。

 分析には、骨に500度以上の高温が加わった痕跡を検出できるX線回折(XRD)と、比較的低温による変化を捉えるフーリエ変換赤外分光法(FTIR)が用いられた。その結果、64サンプル中の約84%に熱による加工の形跡があった。

 また、多くの遺体は胎児のように体を丸めた屈葬の姿勢で、しっかりと縛られた状態で埋葬されていた。これらの特徴は偶然ではなく、何らかの意図をもって行われたと考えられている。

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現代のニューギニア高地に残る風習との共通点

 このミイラ化の手法は、現在もパプアニューギニアのダニ族などに見られる「煙による死者の保存」と非常によく似ている。

 ダニ族の文化では、死者の体を縛り、数週間から数カ月にわたり焚き火の煙で乾燥させ、その後は屋外に展示して先祖と共に過ごす。

 研究チームは、このような風習が1万年以上前の東南アジアにも存在し、長い時間をかけて継承されてきた可能性があると指摘している。

 これにより、パプア、オーストラリア、そしてアジア大陸をまたいだ文化的つながりが浮かび上がってくる。

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ミイラは死者とのつながりを保つための「橋」だった

 死者を単に処理するのではなく、保存し、共同体とのつながりを保とうとする精神性が、煙を使ったミイラ化の背景にある。

 今回の研究は、縄文時代の日本や東北アジア、西オセアニアにも同様の文化的痕跡があった可能性を示しており、今後の比較研究によってさらに広い範囲での共通性が見つかるかもしれない。

 研究者たちは、「煙で保存された遺体は、時間や記憶を越えて祖先とつながる手段として重要な役割を果たしていた」と述べている。

References: Oldest Human Mummies Discovered, And They're Not What We Expected[https://www.sciencealert.com/oldest-human-mummies-discovered-and-theyre-not-what-we-expected]

本記事は、海外メディアの記事を参考に、日本の読者に適した形で補足を加えて再編集しています。

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