近接連星「Vサジタエ」に異変。新星爆発が数年以内に、超新星爆発も近い将来やってくる
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 地球から約1万光年の距離にある「Vサギタエ」は、ふたつの星が極端に近い距離で互いを回り合う「近接連星」と呼ばれる天体だ。

  一方は、進化の終末期にある恒星の残骸で、死にかけの星「白色矮星」。

もう一方は、今も燃え続ける元気な恒星である。

 この白色矮星が相棒からガスを激しく吸い取り、自分の表面にため込むことで、異常な明るさで輝いている。

 だが、死にかけの星が他の星の命を吸って光るその姿は、まさに最期の輝きだ。

 研究者たちは、数年以内に「新星爆発」が起き、その後「超新星爆発(スーパーノバ)」に至る可能性があると警告している。

 もしそれが現実になれば、星は昼間でも肉眼で見えるほどの光を放ち、宇宙にひとつの壮絶な終焉を刻むことになるかもしれない。

 この研究成果は学術誌『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society[https://academic.oup.com/mnras/advance-article/doi/10.1093/mnras/staf1284/8233646]』(2025年8月13日付)に掲載された。

元気な恒星と死にかけの恒星のペア、近接連星「Vサギタエ」

 Vサギタエ(V Sagittae)は、1902年に発見されて以来、天文学者たちを悩ませてきた謎の天体だ。

 地球から約1万光年離れた場所にあり、夏の星座「こと座」の方向に見える。

 Vサギタエ星は、「近接連星」と呼ばれ、ふたつの恒星が異常に近い距離で互いのまわりを回っている。周期はわずか12.3時間。地球の半日で1周してしまうほど密着している。

 このうち一方は「白色矮星」と呼ばれる高密度の小さな星だ。白色矮星は、かつて太陽のように輝いていた恒星が核融合を終え、重力で押し縮められた“終末期の姿”である。

 もう一方は、今もエネルギーを燃やし続ける若い恒星。このふたつの星の間には、命のバランスが崩れた、危うい関係が成立している。

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なぜこれほど明るく輝いているのか?123年越しの謎が解明

 Vサギタエがこれほどまでに明るく輝いている理由は、長らく謎のままだった。

 なぜ寿命を迎えたはずの星が、ここまで強い光を放っているのか?何がその内部で起きているのか?1902年の発見以来、123年もの間、天文学者たちは頭を悩ませ続けてきた。

 この謎をついに明らかにしたのが、フィンランド・トゥルク大学のパシ・ハカラ博士を中心とする、イギリス・サウサンプトン大学、スペイン・カナリア天体物理学研究所の国際研究チームだ。

 最新の観測データを分析した結果、 この異常な明るさの正体は死にかけの白色矮星が相棒の恒星からガスを吸い取って、燃え上がっていることが判明した。

死にかけの白色矮星が相棒のガスを吸い取り明るく輝く

 白色矮星は、すぐ隣を回る恒星からガスを吸い取っている。これは、白色矮星の重力が非常に強く、相棒の恒星の外側のガスを引き寄せてしまうからだ。

 だが、ガスはすぐに白色矮星へ吸収されるわけではない。ふたつの星は互いの重力に引かれつつ、高速で回転しているため、白色矮星まで届かないのだ。

 そのかわりに、ガスは白色矮星のまわりを渦巻くように回転しながら、「降着円盤」と呼ばれるドーナツ型の円盤を形成する。

 この円盤の中でガスは少しずつ内側に移動し、時間をかけて白色矮星の表面に落ちていくのだ。

 このとき、回転による摩擦や圧縮によってガスの温度は非常に高くなり、光やX線として莫大なエネルギーが放出される。

 それによって、Vサギタエ全体が異常な明るさで輝いているように見える。

 さらに、チリ・アタカマ砂漠にあるヨーロッパ南天天文台の「ベリー・ラージ・テレスコープ」による観測では、この活動によって星の周囲に巨大なガスのリング(ハロー)が形成されていることも明らかになった。

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新星爆発が数年以内に訪れる

 白色矮星の表面にガスがたまり続けると、ある臨界点を超えたところで突如、核融合反応が暴走する。このとき起きるのが「新星爆発(ノバ)」だ。

 新星爆発では白色矮星そのものは破壊されないが、その表面が一時的に激しく吹き飛び、星は何倍にも明るく輝く。

 天文学者たちは、Vサギタエでこの爆発が数年以内に起きる可能性が高いと予測している。

 もしそうなれば、Vサギタエは夜空に突然現れる“新しい星”のように輝き、地球からも肉眼ではっきりと観測できるようになるという。

 地球上からでも、暗い場所であれば星座のように簡単に見つけられる明るさになる可能性がある。

  新星爆発は白色矮星の「表面だけが爆発」し、星自体は生き残るため、爆発後も再びガスを吸収すれば、何度でも繰り返される可能性がある。

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その先には超新星爆発が待っている

 だが本当のクライマックスは、そのさらに先にある。

 白色矮星がガスを吸い込み続けると、やがてその質量は「チャンドラセカール限界[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%BB%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E9%99%90%E7%95%8C]」に近づいていく。

 チャンドラセカール限界とは、白色矮星が自分自身の重さに耐えられる限界点のことで、太陽の1.46倍程度の質量に達すると、星を内側から支えていた力が耐えきれなくなり、自分の重力で押しつぶされてしまうのだ。

 その結果、星は一気に重力崩壊を起こし、壮大な爆発を迎える。

 これが「超新星爆発(スーパーノバ)」だ。

新星爆発とは異なり、超新星では星そのものが完全に破壊され、消滅する。

 爆発時には満月に匹敵するほどの明るさとなり、地球上から昼間でも肉眼で見える可能性があるとされている。

 これは、私たちが一生のうちに目にするかもしれない、最も劇的な天文現象のひとつだ。

 スーパーノバとは文字どおり「星の死」を意味する現象であり、一度起きればその星は完全に消えてしまう。ノバとは異なり、同じ星で何度も起きることはない。

 観測では、Vサギタエの白色矮星はすでにこの限界に近づきつつあり、天文学的には近い将来、超新星爆発を引き起こす可能性があると考えられている。

 超新星爆発は近い将来と言われているが、新星爆発は数年以内とされている。もしかしたら私たちも生きているうちにみることができるかもしれない。

References: Academic.oup.com[https://academic.oup.com/mnras/advance-article/doi/10.1093/mnras/staf1284/8233646] / Southampton.ac.uk[https://www.southampton.ac.uk/news/2025/09/hungry-star-is-eating-its-cosmic-twin.page]

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