
今年もやってきたイグノーベル賞の季節。なんと2025年も、日本の研究チームが受賞したというニュースが飛び込んで来た。
受賞した研究は、以前カラパイアで紹介した「シマウシ」だ。つまり、牛にシマウマのようなペイントを施すと虫よけ効果があるという、あの研究である。
今回の受賞で、日本は19年連続という快挙を打ち立てた。イグノーベル賞が始まってから34年。そのうちなんと28回で、日本の研究者が受賞しているんだそうだ。
この賞、どうやらかなり日本人向きであることが、毎年のように証明される事態になっているみたいだ。
牛をシマウマ模様にすると虫が寄って来ない
今回イグノーベル賞を受賞したのは、愛知県農業総合試験場や京都大学の11人の研究グループだ。
研究論文は2019年10月3日付で学術誌『PLoS ONE[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0223447]』に掲載されている。カラパイアでも記事にしているが、ざっとおさらいしてみよう。
この研究を一言でいうと、牛にシマウマのような縞模様を描いたところ、牛の血を吸うアブなどの害虫の攻撃を受ける回数が50%も減った、というものだ。
この結果を受けて、山形県の畜産業者が検証実験に参加。シマウシにはほとんど虫が近寄らなかったという結果が出たという。
牛にとっては、虫に刺されることによる痛みやかゆみは、大きなストレスになっているんだそうだ。
確かに動画などで牛たちの様子を見てみると、ひっきりなしに尻尾をパタパタと振ったり、頭を動かしたりしていると思う。
あれは血を吸いに寄って来る虫から逃れる行動で、四六時中パタパタしていると、牛たちにとってもストレスだし、体力だって消耗する。
シマウシ模様にしてしまえばこのストレスが減るため、体重も増加するし乳牛の乳量だって増える。殺虫剤への依存やコスト軽減できると、酪農家にとっても良いことずくめなのだ。
ではなぜ、シマウシには虫が寄って来ないのだろうか?
吸血性のハエは、動物の体表の光の反射を頼りに近づくため、身体にコントラストの強い縞模様があると、視覚が攪乱されて距離感がわからなくなるらしい。
いわば「だまし絵」のような効果で、ハエたちが牛の体表に着地するための最終アプローチの精度を奪うんだとか。
下の画像は「a:白の塗料で縞を描いた牛」「b:黒の塗料で縞を描いた牛」「c:何も塗っていない牛」。結果、明らかに「a」の牛だけ、虫が寄り付かなかったそうだ。
イグノーベル賞と日本人は相性がいい?
本家のノーベル賞に先立って行われるイグノーベル賞の発表は、34回中28回、19年連続で日本人が受賞していることもあり、毎年の風物詩になってきた気がする。
これまでに日本人が受賞した研究をリストにすると、ざっくりこんな感じらしい。
1992年:足の臭いでカメムシを呼び寄せる研究(医学賞)
1995年:鳩にピカソとモネを区別させる研究(心理学賞)
1996年:0.3mm以下のミニ化石を大量に発見(生物多様性賞)
1997年:ガムの味が脳波にどう影響するかを調査(生物学賞)
1997年:「たまごっち」が労働時間に与えた影響の研究(経済学賞)
1999年:夫の下着に吹きかける「浮気検出スプレー」の開発(化学賞)
2002年:犬語翻訳機「バウリンガル」の発明(平和賞)
2003年:鳩が寄りつかない銅像を調査しカラス除け合金を開発(化学賞)
2004年:カラオケの発明で人々に「寛容になる手段」を提供(平和賞)
2005年:131種のカエルが出す「ストレスの臭い」を分類(生物学賞)
2005年:34年間の全食事を撮影し体調との関係を分析(栄養学賞)
2007年:牛糞からバニラの香りの成分「バニリン」を抽出(化学賞)
2008年:粘菌がパズルを解く能力を持つことを発見(認知科学賞)
2009年:パンダの糞の細菌で生ゴミを90%以上減量化(生物学賞)
2010年:粘菌を使って最適な鉄道の最適なルートを設計(交通計画賞)
2011年:空気中のワサビ濃度で人を起こす「わさび警報装置」(化学賞)
2012年:発話を妨げる装置「スピーチジャマー」を発明(音響学賞)
2013年:タマネギが「涙」を誘う仕組みを解明(化学賞)
2013年:心臓移植後に聞かせる音楽で生存期間に差が出る(医学賞)
2014年:バナナの皮で滑るときの摩擦を測定(物理学賞)
2015年:キスの生物医学的利点についての研究(医学賞)
2016年:「股のぞき効果」を実証(知覚賞)
2017年:洞窟に住む昆虫における雄雌の生殖器の逆転(生物学賞)
2018年:胃カメラを自ら飲み込み、体内映像を撮影(医学教育賞)
2019年:典型的な5歳児の唾液量の測定(化学賞)
2020年:ヘリウムを吸い込むとワニの鳴き声も高くなる(音響賞)
2021年:歩行者が人混みでなぜ衝突するかを研究(動力学賞)
2022年:ノブを回す際に指を最も効率的に使う方法の発見(工学賞)
2023年:通電した箸とストローによる味覚の変化(栄養学賞)
2024年:哺乳類の一部がお尻で呼吸できることを証明(生理学賞)
2025年:牛にシマ模様を描くと吸血バエの攻撃が減ることを実証(生物学賞)
なぜ日本人はこの賞の常連になっているのだろうか。
日本人の中には、一つのことをとことん追求する、マニアックな一面を持っている人が一定数以上いるからかもしれない。
さらに「才能の無駄遣い」が、誉め言葉になるような文化的背景もあるかもしれない。
そもそもイグノーベル賞とは、「人々を笑わせ考えさせた研究」に与えられる賞である。冗談やおふざけではなく、みんな「真剣に」研究に取り組んだ結果が評価されているわけだ。
日本人の持つこういった傾向が、イグノーベル賞を日本人向きの賞にしているのかもしれない。
人間がシマウマ模様を描いても蚊が寄って来ないわけではない
ちなみに今年、日本人以外ではどんな研究がイグノーベル賞を取ったかというと、こんな感じだったようだ。
平和賞(オランダ・イギリス・ドイツ)
飲酒は外国語能力を向上させる場合があることを証明
栄養賞(ナイジェリア・トーゴ・イタリア・フランス)
トーゴのトカゲがピザをどの程度好んで食べるかの研究
物理学賞(イタリア・スペイン・ドイツ・、オーストリア)
パスタソースで不快感の元となるダマの形成に関する研究
心理学賞(ポーランド・オーストラリア・カナダ)
「あなたは賢い」と言われた時、ナルシスト的反応を示すかどうかを調べる研究
この発表を受けて、インターネットではさまざまな意見が飛び交っていた。
- イグノーベル賞ってもっとバカげたものだと思ってたけど、これは普通に面白そうだな
- イグノーベル賞は「科学者が科学者をちょっと茶化す」ものなんだ。誰かを馬鹿にするんじゃなくて、一見おかしな発見を祝う場なんだよ
- 「お酒を飲むと外国語が話しやすくなる」って研究は試してみたいな
- 外国語を話そうとすると不安やパニックになる人が多いんだ。完璧にしようと考えすぎる人もいる。アルコールは抑制を弱めるから、自己妨害を乗り越える助けになるんだよ
- 縦縞は見た目にスリム効果があるから、牛もきっと喜んでるな
- これは思いつかなかったなあ。どうやって牛にシマウマ柄を描こうって発想になったんだろ
- アフリカでは、牛のお尻に「目玉」を描いて捕食者を追い払った研究があったな。実際しばらくは効いたらしいけど、ライオンは最終的に見破ったらしい
- ちょっと、自分に縞模様を描いて蚊に刺されないか試してみるわ
- 効果があったらぜひ教えてくれ
- 塗料のせいじゃなくて?
- シマウマ柄の毛布でも検証してる。
塗料のせいじゃないんだよ- 検証済みだ。効果があるのは「コントラストの強い縞模様」だけなんだ
- ペンキの匂いをハエが嫌ってるんだろ
- 科学者は馬鹿じゃないからね。当然この仮説も検証済みで、除外されているよ
- 牛に効くなら、人間にも効くのかな?ストライプのシャツとか
- 牛に縞を描くために税金を使うのは賛成だな。なんか平和でいいじゃん
- よし、俺もこの研究に1000万ドルの政府助成金を申請しよう
- どうやってハエの数を数えるんだ?どれくらいの時間観察するんだ?バカみたいに聞こえるけど、本当に知りたい。そして、その作業をやった人に感謝したいね
海外ではどうやら、体表に塗った塗料のニオイや成分のせいで虫が寄って来ないと勘違いしている人が多いようだ。
また、人間もシマウマ模様にしたら虫が寄って来ないのか?という疑問に対し、研究の筆頭著者で、現在農研機構の研究員をしている兒嶋朋貴さんは、次のように答えているという。
アブはわかりませんが、蚊は黒い色に寄って来る習性があるので、白黒のストライプでは防げない可能性が高いと思います
そろそろようやく夏も終わる気配だが、来年の夏はシマウマ柄で蚊を撃退!とちょっと期待してしまった人、残念ながら逆効果の可能性が高いようだ。
References: Improbable[https://improbable.com/the-35th-first-annual-ig-nobel-prize-ceremony/] / Japanese Researchers Win Lg Nobel Prize for Painting Cows with Zebra-Like Stripes[https://www.odditycentral.com/news/japanese-researchers-win-lg-nobel-prize-for-painting-cows-with-zebra-like-stripes.html]