10年以内にブラックホールの爆発が観測されるかもしれない!宇宙の謎に迫る大チャンス
ブラックホール群のイメージ図  / Image credit:<a href="https://esahubble.org/images/heic2103c/" target="_blank" rel="noreferrer noopener">ESA/Hubble, N. Bartmann</a>

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 物理学者たちは長年、ブラックホールは寿命の終わりに爆発を起こし、その爆発は10万年に一度くらいしか起こらないと信じてきた。

 だが、マサチューセッツ大学アマースト校の研究チームが発表した最新の研究によると、原始ブラックホールの爆発が今後10年以内に観測される確率は90%以上もあるという。

 そしてそれは、すでに稼働中の宇宙望遠鏡や地上のガンマ線観測装置によって観測可能だという。

 もしその爆発が観測されれば、ブラックホールの最後の姿をとらえる初の瞬間となり、宇宙の謎に迫る歴史的な発見となるかもしれない。

 この研究は『Physical Review Letters[https://doi.org/10.1103/nwgd-g3zl].』(2025年9月10日付)誌に掲載された。

原始ブラックホールとは何か

 今回の研究で注目されているのは、「原始ブラックホール(PBH)」と呼ばれる、宇宙誕生直後に形成されたと考えられている極小のブラックホールだ。

 PBHは、星の死によってできる通常のブラックホールとは異なり、ビッグバンの直後に宇宙の密度が極端に高かった領域から自然に生まれた可能性がある。

 その質量は小惑星程度で、太陽のような恒星から生まれるブラックホールよりはるかに軽い。

 質量が小さい分、寿命もはるかに短いと考えられており、宇宙誕生から現在に至るまでの間に、すでに多くのPBHが蒸発して消滅した可能性があるという。

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ブラックホールはなぜ最後に爆発するのか

 ブラックホールが寿命を迎えると、最後に莫大なエネルギーを放出して爆発的な現象を引き起こすと考えられている。そこから放たれる強烈なガンマ線の閃光こそが、私たちが遠くの宇宙から観測できる“痕跡”だ。

 ではなぜ、ブラックホールが最終的に爆発するのか。その理論の根拠となっているのが、「ホーキング放射」という考え方である。

 1974年、イギリスの物理学者スティーヴン・ホーキング博士は、ブラックホールが時間とともにエネルギーを放出し、最終的には蒸発して消滅するという理論を提唱した。

 ホーキング放射とは、ブラックホールの周囲で起こる量子の効果によって、わずかではあるがエネルギーが外に漏れ出していく現象だ。

 空間のゆらぎによって粒子と反粒子のペアが生まれ、その一方がブラックホールに吸い込まれ、もう一方が宇宙空間に逃れる。

その結果、その分だけブラックホールのエネルギー(質量)が失われる。

 この現象が長い時間をかけて繰り返されることで、ブラックホールはゆっくりと質量を失い、いずれは完全に消滅するとされている。

質量の小さい原始ブラックホールで起きる理由

 ただし、この過程のスピードはブラックホールの質量によって大きく異なる。

 質量が大きければ放射は極めて弱く、ほとんど変化は見られない。だが、質量が小さいブラックホールでは、放射の強さが急速に増していく。

 原始ブラックホール(PBH)のように極めて軽いブラックホールでは、終末期に温度が急激に上昇し、粒子の放出が暴走的に加速する。

 その結果、残されたわずかな質量が一気にエネルギーへと変換され、爆発的な放射が発生するのだ。

  こうした現象は、PBHのように小さな質量のブラックホールだからこそ起きるものだ。だからこそ研究者たちは、PBHに注目しているのである。

 もしPBHの爆発が1万光年離れた位置で起きていれば、それは1万年前に起きた現象を、今、私たちが目にしているということになる。

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10年以内に観測できる確率は90%以上

 今回のマサチューセッツ大学アマースト校の研究では、原始ブラックホールの爆発が今後10年以内に観測される可能性が90%以上あると予測されている。

 とはいえ、これは「ブラックホールの爆発が未来に起こる」という意味ではない。

 天文学では、私たちが観測できるのは常に“過去の出来事”である。

 たとえば、地球から1万光年離れた場所で爆発が起きたとすると、そのとき放たれた光が地球に届くまでには1万年かかるため、私たちはその光を1万年後に見ることになる。

 原始ブラックホールの爆発によって放たれる高エネルギーのガンマ線も同様で、爆発自体はすでに宇宙のどこかで起きていたものだ。

 その光がようやく地球に届き、私たちがそれを検出するタイミングが、これから10年以内に訪れる可能性があるというのが、この研究の示唆するところだ。

 爆発の兆候を捉えるための観測装置や手法はすでに整っており、もし運よくその光が私たちの視野に届けば、原始ブラックホールの存在を裏付ける大発見につながる。

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宇宙を構成する粒子が観測できる可能性

 もし原始ブラックホールの爆発を実際に観測できれば、それは宇宙物理学にとって計り知れない価値を持つ発見となる。

 なぜなら、その爆発によって放たれる放射の中には、この宇宙に存在するあらゆる種類の素粒子が含まれている可能性があるからだ。

 ホーキング放射の理論では、ブラックホールが蒸発する最終段階で極めて高温になり、ありとあらゆる粒子を放出するようになる。

 これは、電子や中性子のような既知の粒子だけでなく、暗黒物質(ダークマター)の候補とされる未知の粒子、さらには現在の物理学がまったく予測していないような「未知の未知」の粒子までを含む可能性があるという。

 研究チームは、「もしこの爆発を観測できれば、宇宙を構成するすべての粒子を記録した“完全なカタログ”が手に入るかもしれない」と述べている。

 これはつまり、「宇宙は何でできているのか?」という根源的な問いに対する答えを得るチャンスでもある。

 こうした粒子の検出は、現代物理学の根幹である標準模型を超える新たな理論の検証にもつながる。暗黒物質の正体や、重力と量子力学を統一する理論への手がかりにもなりうるのだ。

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原始ブラックホールの寿命はもっと長いかもしれない

 通常の理論では、原始ブラックホール(PBH)のような極小のブラックホールは、ホーキング放射によってとっくに蒸発しきっているはずだと考えられていた。なぜなら、質量が小さいほど放射が強くなり、寿命が短くなるからだ。

 しかし今回、マサチューセッツ大学アマースト校の研究チームは、PBHの寿命がこれまでの理論よりも長くなる可能性を示す新たな仮説を提案した。

 それが、「ダークQED(dark-QED toy model)」と呼ばれる理論で、私たちが知る量子電磁力学(QED)に似た、未知の力の存在を仮定している。

 このモデルでは、「ダーク電子(dark electron)」という、通常の電子よりも重い仮想的な粒子が存在するとされる。

 もしPBHがこの“暗黒電子”を取り込んで微弱な電荷を帯びていた場合、ホーキング放射の進行が一時的に止まり、ブラックホールの蒸発が遅れるという。

 つまり本来なら、すでに宇宙の歴史の中で消滅していたはずのPBHが、こうした暗黒電荷の作用によって現在もなお宇宙のどこかに残っている可能性があるというのだ。

 これが研究チームの予測する「今になってPBHが爆発を迎えるかもしれない」理由である。

 研究に携わった、マサチューセッツ大学アマースト校物理学部のマイケル・ベイカー助教授は、「もし原始ブラックホールが小さな“暗黒電荷”を持っていれば、寿命が延び、現代の私たちがその最期の爆発を観測できるチャンスが生まれる」と語っている。

 この仮説に基づくと、PBHの爆発は10万年に一度という稀な現象ではなく、10年に一度の頻度で起こる可能性があるという。

 すでに観測体制が整っている今、その瞬間をとらえる準備はできている。 

References: Umass[https://www.umass.edu/news/article/exploding-black-hole-could-reveal-foundations-universe] / Sciencedaily[https://www.sciencedaily.com/releases/2025/09/250911073145.htm]

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