
インド北部ウッタラーカンド州で、ちょっとしたトイレ休憩が命がけのサバイバルに一変した。
川で用を足そうとした男性だが、急激な増水によりあっという間に水の中へ。
現地では豪雨による地滑りや洪水が続発しており、今回の出来事はその危険性を物語る象徴的な出来事として話題になった。
また、川でトイレというインドならではの生活習慣にも関心が集まった。
川でトイレ中、増水に襲われた男性、電柱によじ登る
ウッタラーカンド州デヘラドゥーン県にあるタクルプルという小さな村で、男性が、川辺にトイレのため出かけたところ、突如として水かさが急上昇。瞬く間に流れに取り囲まれてしまった。
逃げ道が絶たれた彼は、近くにあった電柱によじ登り、必死に助けを待つことにした。川の流れは荒々しく、地上に留まっていたら命を落としていた可能性もあったという。
救助隊に無事保護される
この緊迫した瞬間はSNSに投稿され、瞬く間に注目を集めた。
投稿者はインドの気象・洪水研究者であり技術専門家のナヴィーン・レッディ氏だ。彼は動画の出所を「カピル」という人物とし、増水した川がトンス川であることを明かしている。
トンス川はヤムナ川の最大支流で、ヒマラヤ山脈のバンダルプンチ氷河を水源とし、デヘラドゥーン県カルシ付近でヤムナ川に合流する。
今回のような増水は、狭い範囲に短時間で大量の雨が降る現象「爆発的降雨(クラウドバースト)」によって引き起こされたものとみられる。
現場に急行した国家災害対応部隊(NDRF)の隊員たちは、電柱にしがみつく男性を無事に地上へと救出。住民たちからは安堵の声が上がった。
救出された男性の健康状態は安定していると報告されており、奇跡的な生還劇となった。
ウッタラーカンド州で続く異常気象
この出来事が起きた背景には、ウッタラーカンド州全体で続いている異常気象がある。
特にチモーリ県では、2025年9月11日の朝に発生した地滑りと洪水によって、4つの村(クンタリ・ラガパリ、クンタリ・ラガサルパニ、セラ、ドゥルマ)で合計40棟以上の住宅と15の家畜小屋が倒壊。死者2名、行方不明者6名、負傷者12名という深刻な被害が報告されている。
さらに、豪雨によって道路や橋も破壊され、被災地では孤立状態に陥る村も出ている。州の緊急対応センター(SEOC)は、リシケーシュのインド医学研究所(AIIMS)に重傷者を空輸搬送するなど、対応を強化している。
なぜ川でトイレ?インド農村のトイレ事情
今回の出来事でもう1つ注目を集めたのは、「なぜ川でトイレをしていたのか」という点だ。
実はインドの農村部、とくに山岳地帯では、家庭内にトイレがない家が今も少なくない。
インド政府は2014年から「クリーン・インディア政策[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E6%94%BF%E7%AD%96]」という全国的な衛生改善キャンペーンを展開し、農村部へのトイレ普及を推進してきた。
この取り組みにより多くの家庭にトイレが整備されたが、ウッタラーカンド州のような山間部ではインフラ整備が遅れており、川辺や森など、人目につきにくい場所で排泄を行う慣習がいまだに残っている。
また、トイレがあっても「屋内で排泄するのは不浄だ」とする宗教的・文化的な考えから、あえて屋外で用を足す人もいる。
単なる設備不足だけでなく、生活文化や信仰とも深く関係している問題でもあるようだ。
衛生面や安全性の観点からも、屋外排泄はさまざまなリスクを伴う。