
長いあいだ活動を弱めていた太陽に、予想外の変化が起きている。過去の観測から、太陽はこれからしばらく静穏な時期に入ると考えられていた。
ところが、2008年を境に黒点の数や太陽風、磁場の強さが増えはじめ、現在もその傾向が続いているという。
NASAの最新研究[https://www.nasa.gov/science-research/heliophysics/nasa-analysis-shows-suns-activity-ramping-up/]によれば、この変化は一時的な揺らぎではなく、太陽が再び活動を強めている兆候かもしれないという。
「太陽の不気味な目覚め」は地球、そして我々の生活にどう影響を及ぼすのだろう?
この研究は『The Astrophysical Journal Letters[https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/adf3a6]』誌(2025年9月8日付)に発表された。
静穏な時期に入るはずだった太陽に異変
1980年代に入ってから、科学者たちは太陽の表面活動が徐々に弱まっていることに気づきはじめた。黒点は減少し、太陽風や磁場の変動も穏やかになっていった。
そして2008年、太陽の活動は観測史上もっとも弱い状態にまで低下した。
この記録的な静けさを受け、専門家たちは「太陽はこのまま、何十年にもわたる長期の静穏な時期に入るだろう」と予測した。
実際に、過去には同様の静穏期が長く続いたことがある。たとえば17世紀の「マウンダー極小期[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E6%A5%B5%E5%B0%8F%E6%9C%9F](1645年~1715年)」や、18世紀末から始まった「ダルトン極小期[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%B3%E6%A5%B5%E5%B0%8F%E6%9C%9F](1790年~1830年)」では、黒点がほとんど見られなくなった。
ところが、その予測は見事に裏切られることになる。
2008年後半から、静かに燃えていた焚き火が突然パチパチと音を立てて炎と火花を散らすように、太陽は突如として活動を強めはじめたのだ。
2009年に入ると、プラズマや磁場に関するさまざまな観測値が上昇し、黒点の数も予測を上回る勢いで増えていった。
「すべてのデータが太陽は長期の低活動期に向かっていると示していた。
「太陽はゆっくりと目を覚ましつつあるように見える」とも……。
太陽には周期があるが、完全には読めない
太陽はおおよそ11年ごとに、活動の強い時期(太陽極大期)と弱い時期(太陽極小期)を繰り返している。これが「太陽活動周期[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E9%99%BD%E6%B4%BB%E5%8B%95%E5%91%A8%E6%9C%9F]」と呼ばれるものである。
科学者たちはこの周期を観測しながら、太陽の変化を予測してきた。
この11年周期は、黒点や太陽フレアの数など、目に見える活動の変化を表しているが、実は太陽の磁場そのものも深く関わっている。
太陽の磁場は約11年ごとに反転しており、元の極性に戻るには2回の反転が必要になる。つまり、太陽には22年周期の「ヘールサイクル(Hale cycle)」と呼ばれる磁場のリズムも存在している。
今回のように、活動が長期的に弱まっていくと予測されていたにもかかわらず、急に反転して活発になるといった現象もある。太陽がなぜそのような変化を見せるのか、明確なメカニズムはまだ解明されていない。
「太陽がなぜダルトン極小期[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%B3%E6%A5%B5%E5%B0%8F%E6%9C%9F]に入り、1790年から40年もの間、極端に静かな状態になったのか、今でもわかっていない。長期的な傾向は非常に読みづらい」と、ジャシンスキー博士は語っている。
太陽の活発化が地球に与える影響とは
太陽の活動が活発になると、その影響は地球にも及ぶ。
太陽から放出される大量のエネルギー粒子、いわゆる太陽フレアやコロナ質量放出(プラズマの塊が放出され、大気の外側が吹き飛ばされる現象)は、地球の磁場を乱し、通信やGPS、電力インフラに障害を起こすことがある。
また、宇宙空間では、人工衛星の機器がダメージを受けたり、宇宙飛行士が高い放射線にさらされたりするリスクも高まる。
特に現在NASAが進めている「アルテミス計画」では、月面での人類活動を想定しており、太陽の動向を常に把握することが安全性の確保に欠かせない。
新たな観測ミッションで太陽の変化を追う
NASAは太陽の監視体制を強化するため、今後複数の新しい宇宙ミッションを予定している。2025年9月23日以降に、「IMAP(Interstellar Mapping and Acceleration Probe)[https://en.wikipedia.org/wiki/Interstellar_Mapping_and_Acceleration_Probe]」と「キャラザーズ・ジオコロナ観測所[https://en.wikipedia.org/wiki/Carruthers_Geocorona_Observatory]」の打ち上げが控えている。
また、アメリカ海洋大気庁(NOAA)は「SWFO-L1(Space Weather Follow On-Lagrange 1[https://en.wikipedia.org/wiki/Space_Weather_Follow_On-Lagrange_1])」という衛星を使って、太陽風や宇宙天気のリアルタイム監視を行う計画だ。
今回の研究では、NASAのデータベース「OMNIWeb Plus[https://omniweb.gsfc.nasa.gov/]」に蓄積された長期観測データが活用された。
とくに、1990年代から稼働を続ける「ACE[https://ja.wikipedia.org/wiki/ACE_(%E6%8E%A2%E6%9F%BB%E6%A9%9F)]」と「WIND[https://ja.wikipedia.org/wiki/WIND_(%E6%8E%A2%E6%9F%BB%E6%A9%9F)]」という探査機から得られた観測データが、太陽の変化を明らかにする大きな手がかりとなった。
太陽の変化は、地球上のテクノロジーやライフライン、そして未来の宇宙探査にまで影響を及ぼす。
だからこそ、私たちは太陽「常に変化し続ける天体」として見つめ続ける必要があるのかもしれない。
References: Iopscience.iop.org[https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/adf3a6] / NASA[https://www.nasa.gov/science-research/heliophysics/nasa-analysis-shows-suns-activity-ramping-up/]