
2025年、韓国でちょっと奇妙な裁判が注目を集めている。訴えたのは「デジタルアバター」として活動しているバーチャルアイドルの「中の人」とその所属事務所。
訴えられた人物は、自身のSNSへの投稿で、バーチャルな彼らの「中の人」を侮蔑する発言を行ったされている。
裁判所はこの「名誉棄損」の訴えを認め、被告に損害賠償を支払うよう命令したが、賠償金が十分でないとして、原告側は上訴した。
今回の訴訟はデジタルアバターへの法的な定義や、今後繰り返されるであろう訴訟をめぐる、大きな転換点となったのかもしれない。
訴えを起こしたバーチャルアイドル「PLAVE」とは?
とりあえず、原告となったバーチャルアイドル「PLAVE(プレイブ)[https://plave-official.jp/]」を知らない人も多いと思うので、まずはどんなグループなのか紹介しておこう。
彼らは5人組のバーチャルK-POPボーイズグループだ。メンバーはイェジュン、ノア、ウノ、バンビ、ハミンの5人で、デビューは2023年3月というから、既に2年半ほどのキャリアがある。
メンバー全員がそれぞれ作詞作曲やダンスの振り付けなど、すべての過程を自分たちでプロデュースしている。
このPLAVEが他のグループと一線を画しているのは、彼らがデジタルアバターとして、あくまでもバーチャルな存在として活動している点にある。
ウェブトーンっぽいビジュアルから、「AIじゃないの?」と思っていた人もいたようだが、実はちゃんと「中の人」たちが存在する。
つまり完全にバーチャルな存在ではなく、実在する5人のアーティストのパフォーマンスをモーションキャプチャを用いてレンダリングし、アバターに表現させているのが、PLAVEというグループなのだ。
彼らはアバターを使ってライブを行い、ファンたちと交流し、定期的にライブ配信など、リアルなアイドルと変わらない活動を行っている。
こうした「血の通ったリアルな人間」としての深みが見られる点も、彼らの人気に拍車をかけているのだろう。
新曲が発売当日にMelonチャートで1位を記録したり、ソウル・ミュージック・アワードやMAMAアワードなど、韓国の主要音楽賞でノミネートを受けている。
バーチャルアイドルへの「名誉棄損」が法的に認められた
今回の事件の発端は2024年7月、被告人男性が自身のXを通じ、PLAVEを侮辱する投稿を複数回にわたって行ったことに始まる。
投稿自体は現在は削除されているが、内容はアバターの見た目への批判に加え、「中の人」にも言及するモノだったという。
- 典型的な韓国人男性の雰囲気に耐えられない
- 技術的な問題ではなく、出演者のスキル不足
- アバターが魅力的じゃないから、中の人も劣っているに違いない
これに対し、グループと所属事務所は「深刻な名誉棄損」だとして、この男性を訴えた。バーチャルな存在が生身の人間を訴えるという、前例のない訴訟に発展したのだ。
訴えの内容は、「被告の発言によってメンバーたちが精神的苦痛を受けた」として、メンバーそれぞれに対し、650万ウォン(約69万円)の損害賠償を求めるものだった。
被告人はこの訴えに対し、以下の主張で反論した。
PLAVEは実在の人物ではなく、架空のキャラクターであり、「中の人」の身元は公開されていない。そのためPLAVEとその「中の人」との間に同一性は認められない(被告人)
だが裁判所はこの主張を受け入れず、被告人を有罪とする判決を下した。その根拠として、判決文では以下の内容が述べられている。
侮辱罪が成立するには、被害者が特定される必要がある。しかし必ずしも氏名や団体の名称を明示しなければならないわけではない。
表現の内容と周囲の状況を総合した結果、被害者を知る人が、その表現が誰に対するものなのかを認識できる場合、特定性が認められる。
アバターはユーザーがデジタル空間で自分を表現するために使用する仮想の表現物で、刑法上侮辱罪は人の社会的評価という外部的名誉を保護法益としている(裁判所)
裁判所は、そのコメントの内容が誰を対象としているかを視聴者が認識している限り、被害者の本名などを公表する必要はないと判断した。
つまりPLAVEを通じて、そのパフォーマーである「中の人」たちが活動しているという事実は、既に不特定多数のファンなどに知られているため、バーチャルなメンバーと「中の人」との同一性は認められたという認識だ。
この判断に基づき、今回の被告による投稿は、メンバーの精神的な損害を引き起こす個人攻撃であると判断したのである。
賠償金額が妥当ではないとし上訴
ただし、賠償金については650万ウォン(69万円)という請求額は認められず、メンバー1人あたり10万ウォン(約1万円)とされた。
これに対し、PLAVEの所属事務所であるヴラスト(VLAST)は即座に上訴。
今回の訴訟を「今後のアバターに関する訴訟の判例となる重要なもの」と位置づけ、徹底抗戦する姿勢だ。
「デジタルアバター」を規定する法的な整備が求められる
ただし、今回のPLAVEの場合は、「見た目はアバターでも表現の担い手は実在のメンバーである」点が、裁判所の「自己表現」認定の土台となった点は注意が必要だろう。
判決文ではデジタルアバターなどバーチャルな存在について、次のように定義する趣旨の内容も述べられているという。
現実世界とデジタル空間が融合したメタバースの時代において、アバターは単なる仮想の画像以上のものである。
それはユーザーにとっての表現手段であり、アイデンティティであり、社会とのコミュニケーション手段でもある。
アバターに対する侮辱も、実際のユーザーの外部的名誉を侵害する可能性がある
生身の人間ではない「アバター」や「バーチャルアイドル」「バーチャル芸能人」の起用は、企業にとってのメリットが注目され、最近目立って増えてきているのは事実である。
ここでいうメリットとは、例えばスキャンダルや炎上のリスクが少ない点、加齢や結婚など、年齢によるキャラクターの変化が基本的に起こらない点などが挙げられる。
今後増えるであろうこうした存在に、法整備が追いついていない現状を考えると、今回の判決はアバターの法的な定義に対する大きな転換点となるかもしれない。
ところで彼らは2025年6月に日本デビューを果たし、11月には来日が決定しているそうだ。
日本でも人気上昇中とのことで、ファンに日本語でメッセージを送ってくれているので、良かったら見てみよう。
References: South Korean Man Gets Sued for Criticizing the Appearence of Digital Avatars[https://www.odditycentral.com/news/south-korean-man-gets-sued-for-criticizing-the-appearence-of-digital-avatars.html]