
アフリカ、ケニアで、井戸に落ちて母親とはぐれてしまった象の赤ちゃんと、生後1週間で森の中にひとりぼっちでいたところを救助されたバッファローの赤ちゃんの間に特別な友情が芽生えた。
2頭はケニアの動物救助施設「レテティ・エレファント・サンクチュアリ」に保護されたが、年も境遇も近かったことからすぐに意気投合。
まるで兄弟のようにじゃれ合い、寄り添って眠る日々を送っている。これは、種も習性も違う2頭がお互いを必要とし、唯一無二の親友となるまでの物語だ。
孤児となった2頭の赤ちゃんが出会う
2025年2月、ケニア中部で、ゾウの赤ちゃん「キマニ」が井戸に落ちて動けなくなっているところを救助隊が発見した。幸いにも無傷で助け出されたが、母親や群れの行方を追うことができなかった。
キマニは、ケニア北部にある動物保護施設「レテティ・エレファント・サンクチュアリ[https://www.reteti.org/](Reteti Elephant Sanctuary)」に搬送され、保護されることとなった。
ここでは、親を失った野生動物の赤ちゃんたちに、食事や住居、安全な環境が提供されている。
それから2週間後、施設のすぐ東にあるケニア山のふもと、キリシアの森林地帯で、生後わずか1週間ほどのバッファローの赤ちゃん「シーライ」が発見された。
森の中で1頭きりだったシーライに、地元の人々は「このままでは野生で生き延びられない」と判断し、サンクチュアリに助けを求めた。
なお、シーライは「バッファロー」として紹介されているが、正確にはアフリカスイギュウ(Syncerus caffer)という野生のウシ科動物で、ケニアをはじめとするアフリカ各地に広く生息している。
成長すると、大きく湾曲した特徴的な角を持つようになるが、シーライはまだ赤ちゃんなため角は未発達で、外見では判別しにくい。
辛い過去を持つ2頭、種を超えて特別な絆を結ぶ
シーライが施設に到着すると、キマニとすぐに打ち解けた。
「当時、キマニと同じ年頃のゾウの赤ちゃんは他にいなかったんです」と、レテティ・エレファント・サンクチュアリの共同設立者であるケイティ・ロウ氏は語る。
「だから、この2頭の赤ちゃんはすぐに互いを見つけ、遊び相手になったんです」
こうして始まった2頭の友情は、毎日の生活の中でますます深まっていった。
現在、キマニとシーライは朝日とともに散歩に出かけ、お気に入りの飼育員たちと一緒に泥浴びを楽しむ。
そして3時間ごとに巨大なミルクボトルでミルクを飲むのが日課だ。
彼らの世話をしているのは、地元の先住民族、サンブル族[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%AB%E6%97%8F]の青年たちだ。動物と共に生きてきた伝統があり、敬意を込めて接している。
共に遊び、共に眠り、安心を分かち合う
ロウ氏によれば、キマニはよく自分から遊びに誘い、鼻でシーライをやさしくつつくという。
2頭は土の上で転がり合い、食事の合間にはじゃれ合い、疲れたらそのまま体を寄せ合って眠る。
「彼らはとても無邪気に一緒に遊び、共に近くで眠ります。お互いの存在が安心材料なんです。」とロウ氏は語る。
毎日繰り返されるこの穏やかな時間が、2頭にとって何よりの安心と癒やしになっているのだろう。
母を失った幼い子供同士が支え合い、孤独を癒やしながら、なんとか前に進もうと日々を生きていくその姿に、思わず胸が熱くなる。
いつかは野生へ
レテティ・エレファント・サンクチュアリの目的は、保護された動物たちを最終的に自然に帰すことだ。
もちろん、ゾウとバッファローが野生で一緒に遊び、眠ることは通常あり得ない。種も違えば、生活様式も異なるからだ。
それでも、キマニとシーライの間に育まれたこの絆は、特別なものだと施設の人々は感じている。
「彼らはお互いの愛情と友情を求め合っています」とロウ氏は語る。
いつか野生に戻っても、幼いころ、共に支え合ってきた大切な親友がいたことが心の支えとなり、勇気の源になるかもしれない。
実際、過去にはジンバブエで保護された孤児のゾウ「ンゾウ」が、バッファローの群れと共に暮らし、最終的にはそのリーダーにまでなったという記録もある。
異なる種であっても、共に過ごした時間が深い絆を育むことはあるのだ。