
地下を流れる溶岩によって削り出された地下トンネル「溶岩洞」が地球上に存在することは以前から知られていたが、新たな研究で、金星にも同じような構造が存在する可能性が示された。
イタリアのパドヴァ大学の研究によると、火山地帯に点在する謎の穴や斜面に沿った地形が、地下の巨大な空洞の存在を強く示しているという。
この研究成果は『欧州惑星科学会議 Europlanet Science Congress[https://meetingorganizer.copernicus.org/EPSC-DPS2025/EPSC-DPS2025-686.html]』で(2025年9月に発表された。
地下に存在するトンネル状の空間「溶岩洞」が金星にも
これまで地球では、火山活動によって流れ出た溶岩が地下を通り抜けることで、トンネル状の空間「溶岩洞[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BA%B6%E5%B2%A9%E6%B4%9E]」が形成されることが知られていた。この構造は月や火星でも確認されており、宇宙空間では比較的一般的な現象とされている。
しかし金星については、これまでその存在は理論上の仮説にとどまっており、はっきりとした証拠はなかった。
だが今回、イタリアのパドヴァ大学に所属するバルバラ・デ・トッフォリ氏率いる研究チームは、観測データとモデリングの解析により、金星にも溶岩洞が存在する可能性を強く示す新たな証拠を提示した。
チームは金星の火山地帯を調査し、衛星からの地形データを用いて、地表に無数の穴(ピット)が斜面に沿って連なっている様子を確認したのだ。
地球の溶岩洞とそっくりな構造を持つ金星の穴
金星の穴は、斜面に沿って並んでおり、その配置は地球の溶岩洞と非常によく似ていた。
地球では、火山から噴出した溶岩が地下を流れたのち、冷え固まった外殻の中を溶岩が流れ去ることで空洞が残る。その天井が崩れると、地表に穴が現れる。こうして形成された陥没穴は、溶岩洞の存在を示す手がかりとなっている。
研究チームは、金星で発見された穴の形状をデジタルモデルで再現し、地球の溶岩洞と構造的な比較を行った。
その結果、金星の穴は地球と同様、地下に形成された溶岩洞の天井が崩れてできた陥没穴である可能性が極めて高いことが明らかになった。
つまり金星にも、地球と同じように溶岩によって地下にトンネル状の空洞が作られたと考えられる。
地球と同じ重力なのに、月より大きな溶岩洞?
ここで不思議なのは、金星の重力は地球とほぼ同じであるにもかかわらず、形成される溶岩洞が月や火星よりも大きい可能性があるという点だ。
一般的に、重力が強いほど地下空間の壁や天井が崩れやすく、溶岩洞は小さくなりがちだ。
一方、月や火星のような低重力環境では、崩落のリスクが少なく、より広くて長い溶岩洞ができやすい。
にもかかわらず、金星では地球以上、月に匹敵する規模の空洞が存在する可能性がある。これは重力だけでは説明できない現象であり、別の要因が作用していると考えられる。
過酷な環境が「巨大な空洞」を守っている?
研究チームによれば、この謎を解く鍵は、金星の極限的な環境そのものにあるという。
金星の地表は平均約470℃の高温に達し、大気圧は地球の約90倍にもなる。
大気の96%以上が二酸化炭素で構成され、空には硫酸の雲が漂うなど、まさに灼熱と高圧の惑星である。
このような環境では、地球や火星で見られるような風化・侵食・崩壊といった地質的プロセスが抑制されやすい。
つまり、一度形成された溶岩洞の構造が、地球よりも長期間安定して保たれる可能性があるという。
また、金星の溶岩は地球のものより粘性が低かった可能性があり、広がりやすく平坦な洞窟を作るのに適していたという仮説もある。
金星探査の拠点になる日が来るか?
金星の溶岩洞が実際に存在することが確認されれば、将来的に金星への探査が進められる際、このような地下空間が、過酷な環境から探査機器や人間を守る「シェルター」としての役割を果たす可能性がある。
現時点では、金星の過酷な環境に耐えられる探査機はごく限られており、地下構造の詳細な調査はまだ難しい。
しかし、こうした研究が、今後の金星探査計画や技術開発に活かされていくことになるだろう。
References: Copernicus.org[https://meetingorganizer.copernicus.org/EPSC-DPS2025/EPSC-DPS2025-686.html]