
何らかのアレルギーを持っているという現代人は意外と多い。ハウスダスト、猫、犬、花粉、ダニなど、空気中を漂う様々なアレルゲンは、くしゃみ、鼻水、目のかゆみ、悪化すると喘息などの症状を引き起こす。
そんな人々に朗報だ。アメリカ・コロラド大学ボルダー校の研究チームが、紫外線を使ってこれらの原因物質を無力化する新たな方法を発見したのだ。
アレルゲンの立体構造を光で変化させることで、免疫システムがそれを脅威と認識しなくなるという。
ただし、この方法は室内環境でのみ有効で、屋外での効果は期待できない。それでも、猫を室内で飼うことを夢見ながら猫アレルギーに苦しんできた人々にとっては、大きな希望となるかもしれない。
この研究成果は『ACS ES&T Air[https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsestair.5c00080]』(2025年8月14日付)に発表された。
アレルギー反応を引き起こすアレルゲンはタンパク質
アレルギー反応を引き起こす原因となる物質をアレルゲンという。
ハウスダスト、猫や犬のフケ、カビの胞子、植物の花粉、ダニの死骸やフンなど、空気中に漂うアレルゲンの正体は、いずれも特定のタンパク質である。
免疫システムはその立体的な形を認識し、抗体が結合することでアレルギー反応を引き起こす。
例えば猫の場合は「Fel d 1」、犬では「Can f 1」、カビでは「Asp f 1)」、植物ではイネ科の「Phl p 5」やシラカバの「Bet v 1」などが知られている。
これらのうち、猫・犬やダニ、カビ由来のタンパク質は室内で長期間蓄積し、時に数週間から数年も残存することがある。
一方、花粉は主に季節的に飛散し、屋外では持続的には残らないが、屋内に入り込むと長くとどまることもある。
安全性が確認されている紫外線でアレルゲンの形を変える
今回の研究は、この「空気中に漂うアレルゲンの立体構造を壊し、免疫がそれを“敵”と認識しなくなる」という発想に基づいている。
コロラド大学ボルダー校の研究チームが使用したのは「UV222」と呼ばれる特殊な波長の紫外線だ。
殺菌灯などで広く用いられる「UV254」は皮膚や目に有害だが、UV222は皮膚や眼球の奥まで浸透せず、安全に使用できることが過去の研究で確認されている。
今回の実験では10立方mのチャンバー(密閉実験装置)内に猫のフケやダニ、カビ、花粉など7種類のアレルゲンを噴霧し、UV222を照射した。
高感度の免疫測定法を用いてアレルゲンの変化を分析したところ、30分でアレルゲンの免疫反応性は平均20~25%減少した。
猫のFel d 1については、安定剤を加えない条件で40分後に61%もの低下が確認されたという。
これは紫外線がタンパク質を折り畳んで形を変え、抗体が結合できなくなるためだと考えられている。
免疫システムにとっては、もはや「敵ではない」状態になったのだ。
アレルギー対策の新しい選択肢となるか
現在、アレルギー対策としては抗ヒスタミン薬や吸入ステロイド薬などを使って症状を抑える薬物療法が中心である。
新しい治療薬も登場しているが、定期的な投与が必要で費用面の負担も大きい。加えて、カーペットを取り除き、寝具を熱湯で洗い、頻繁に掃除し、ペットを定期的に洗うといった生活環境の改善も行わなければならない。
しかし、これらはいずれも長期的な管理や大きな労力を必要とし、薬を使い続けることで体への負担が懸念されるケースもある。
2003年の研究では、猫アレルギー患者219人に徹底的な清掃を求めたが、8か月間続けられたのはわずか31人だった。
一方、UV222であれば光を数十分照射するだけで空気中のアレルゲンを減少させられる。
家庭はもちろん、学校や病院、食品工場、動物飼育施設などでも応用できる可能性がある。
ただし、この方法はあくまで室内環境の改善を目的とするものであり、屋外で飛散する花粉などには効果は及ばない。
そのため、花粉症のように外で曝露するケースでは、従来の薬物療法との併用が現実的になるだろう。
References: Pubs.acs.org[https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsestair.5c00080] / Colorado[https://www.colorado.edu/today/2025/09/15/new-way-fight-allergies-switch-light]