
南米、ペルーにあるアンデス山脈の雲霧林で、これまで知られていなかった小型の有袋類が新たに発見された。
身体の色は赤褐色で、目の周りにある黒い縁取りのような模様が特徴的なこの動物は、その後の調査でオポッサムの仲間、フクロネズミ科の新種であることが判明した。
研究チームはこの生き物を「マルモサ・チャチャポヤ(Marmosa chachapoya)」と命名し、2025年6月、学術誌『American Museum Novitates[https://digitallibrary.amnh.org/items/d9c5cb69-0350-4fdf-b35f-5119604c9824]』に発表した。
リスを見つけるはずが、珍しい有袋類を発見
2018年、カリフォルニア州立工科大学フンボルト校の研究チームは、ペルーのアンデス山脈の東側の標高2,664mの地点で、未知の生物を発見した。
この場所はユネスコ世界遺産のリオ・アビセオ国立公園の中で、研究者チームはもともとは新種のげっ歯類、リス科を探していた。
だが、彼らが見つけたのは、頭から尻尾の先までの長さが約25cm、体長はわずか10cmの小さな有袋類だった。
当時、主任研究者である同校の生物科学教授シルビア・パヴァン博士は、まだ知られていないげっ歯類であるリス科の一種を探していた。
だが代わりに発見したのは、彼女がこれまで見たこともないオポッサムの仲間だったのだ。
パヴァン博士は当時の状況についてこう説明している。
これが珍しいものだということはすぐにわかりました。標本はたった1つ存在するものの、この種については、ほとんど何もわかっていませんでした(シルビア・パヴァン博士)
新種であることが確認され、マルモサ・チャチャポヤと命名
研究チームはこの生き物が新種であることを確認するため、数年をかけてDNAの分析と身体的特徴の調査を実施した。
発見された個体は若い成獣とみられ、目の周りにははっきりした黒い縁取り上の模様があって、赤褐色の体毛とのコントラストが際立っていた。
こうした見た目や、細長い鼻や繊細な体躯といった身体的特徴、それにDNAの情報を手掛かりに、広範囲にわたる調査を行った結果、この個体が新種であることが確かめられた。
そして、インカ帝国やヨーロッパ人による植民地化以前に、このエリアに居住していたチャチャポヤ文明に敬意を表し、この種を「マルモサ・チャチャポヤ(Marmosa chachapoya)」と命名した。
マルモサ・チャチャポヤはフクロネズミ科、マルモサ属に分類される。
下は近縁種のMarmosa zeledoni(マルモサ・ゼレドン)。
同じエリアには他にも多様な新種が存在する可能性
マルモサ属(Marmosa)はフクロネズミ科に属する「マウスオポッサム」と総称されるグループのひとつで、現在20~30種ほどが知られている。
中南米に広く分布し、夜行性で木登りが得意な小型の有袋類である。主に昆虫や果物を食べるが、小型の脊椎動物や鳥の卵なども摂取する雑食性を示す。
マルモサ属のメスには他のオポッサムに見られるような完全な育児嚢はなく、乳頭が腹部に露出している。子は乳頭にしがみついて母親の腹部で育ち、そのまま母親と移動する。
新種につけられた「チャチャポヤ」という名前には、現地の言葉で雲、あるいは霧の民という意味があるそうだ。その名の通り、発見された一帯には雲霧林、つまり湿度の高い樹林帯が広がっているという。
研究チームはこの新種の生息域が、マラニョン川とワジャガ川の間の東アンデス斜面に沿って広がっている可能性があると考えているという。
実はマルモサ ・チャチャポヤは 、今回の調査で発見された唯一の新種ではなかった。チームは同じ地域で、半水生の齧歯類を含む新種を複数発見しているのだ。
これら複数の発見は、生物多様性と保全活動にとって特に重要であり、この地域の生物多様性について未知の部分がいかに多いかを浮き彫りにしています。
今回の発見は、この地域には科学的にまだ知られていない多くの種が生息する可能性を示唆しており、その多くは保護がなければ絶滅の危機に瀕する恐れがあるのです。
リオ・アビセオのような地域での科学的探査と保全活動の重要性を、改めて認識させてくれる発見でした
パヴァン博士はこのように語っている。マルモサ ・チャチャポヤの発見は、改めてこの地域が未探索の生物多様性の宝庫であることを示すとともに、保全と調査の重要性を強く訴える結果となった。
References: New Mammal Species Discovered in Peruvian Andes[https://now.humboldt.edu/news/new-mammal-species-discovered-peruvian-andes]