顔のわずかな動きから、頭の中で何を考えているかを読み取る技術が開発された。ポルトガルの研究チームが、機械学習を用いてマウスの表情と脳の活動を照合することで、思考中の戦略を正確に推定することに成功したのだ。
この技術は、脳に触れたり傷つけたりせずに思考を読み取る手法として注目されている
一方で、思考を外部から読み取られてしまうという事実は、心の中を勝手にのぞかれてしまうかもしれないという不安を呼び起こしている。
この研究成果は『Nature Neuroscience[https://www.nature.com/articles/s41593-025-02071-5]』誌(2025年9月30日付)に発表された。
マウスの思考を読み取る実験
ポルトガル・リスボンにあるシャンパリモー財団の研究チームは、2本の給水ノズルのうち、どちらから甘い水が出るかをマウスに見つけさせる実験を行った。
報酬となる甘い水はときどきノズルの位置が切り替わるため、マウスはそのつど自分の考え方を変えて、うまく正解にたどりつく必要がある。
筆頭著者で、フランス国立科学研究センター(CNRS)とエクス=マルセイユ大学に所属するファニー・カゼット博士は、「マウスはこの課題に対していくつかの異なる考え方を使っていて、その行動を見れば、どんなやり方を選んでいるかがわかります」と説明している。
これまでの研究では、マウスが実際に選んだ考え方だけが脳に表れると考えられていた。だが、今回の実験で、使っていないやり方の情報まで同時に脳に現れていることが明らかとなった。
この結果から、「考え方の違いが顔の動きにも出ているのではないか」という新しい疑問が生まれた。
顔の動きで脳内の思考がわかることが判明
研究チームは、マウスの顔の細かな動きと、脳の神経細胞の活動を同時に記録し、そのデータを機械学習で分析した。
機械学習とは、コンピューターが大量のデータから自動的にパターンやルールを学び、予測や判断ができるようになる仕組みのことだ。
すると、マウスの顔の動きだけからでも、頭の中でどんな思考をしていたのかが、かなり正確に読み取れることがわかった。
シャンパリモー財団の主任研究員ザカリー・メイネン博士は、「マウスが何を考えていたかという情報は、数十個の神経細胞の記録と同じくらい、顔の動きからも得られました」と話す。
つまり、これまでなら脳に電極を差し込まなければ得られなかった情報が、顔の動きだけでわかる可能性があるのだ。
しかも、マウスごとに顔の動きが大きく違うわけでもなかった。
共著者のエクス=マルセイユ大学とミネ・サン=テティエンヌ工科大学に所属するダビデ・レアト博士は、「違うマウスでも、同じような考え方をしているときには、似たような顔の動きが見られました」と語っている。
考え方と顔の動きのつながりには、感情と同じようにある程度決まったパターンがあるのかもしれないという。
心のプライバシーを守るためのルールも必要
今回の成果は、脳を傷つけず、非侵襲的(ひしんしゅうてき)に中の情報を読み取れる方法として、脳科学や医療研究の世界で大きな注目を集めている。
神経の病気や心の状態を調べるための新しいツールとなる可能性もある。
ただし、心の中が映像から簡単に読めるようになればなるほど、それをどう使うかという問題も出てくる。
メイネン博士は、「思考の内容にこれほど簡単にアクセスできるなら、心のプライバシーを守るためのルールを考える必要がある」と語っている。
同じく主任研究員のアルフォンソ・レナート博士も、「映像はただの行動記録ではなく、脳の働きを映し出す窓になるかもしれない。それは科学にとって夢のような話だが、社会で使うには慎重な対応が求められる」としている。
研究チームは、こうした技術が研究室の外で広く使われる前に、ルールや倫理についての議論が必要だと訴えている。
References: Nature[https://www.nature.com/articles/s41593-025-02071-5] / Machine learning enables ‘mind reading’ in mice through subtle facial movements[https://interestingengineering.com/science/machine-learning-thought-maps-mouse-study]











