
2025年9月15日、アメリカのマサチューセッツ州サマービルで行われた「選挙」が大きな話題になっている。
所狭しと立っている選挙ポスター。
この選挙は、サマービルにあるバイクパス(歩行者・自転車共用の遊歩道)の「市長」を選出するためのものだ。
なぜこのような選挙が行われることになったのか?その経緯を詳しくお伝えしよう。
野良猫じゃないこと示すため「選挙風看板」でアピール
事の発端は、2024年の春のこと。地域の住人のマロリー・ビセットさんは、愛猫のベリーを自由に外に出していたのだが、ベリーのお気に入りの散歩コースがこのバイクパスだった。
そこでマロリーさんは、ベリーが野良猫ではないことを知ってもらおうと、ユーモラスな看板を作って立てることにした。
ベリーには飼い主がいて、きちんと世話され、愛されていること、そしてただの野良猫ではないことを、皆さんに知ってもらいたかったのです
マロリーさんが作った看板には、一言こう書かれていたという。
ベリーをバイクパスの市長に!
ちょっとまった!茶トラ猫が次期選挙に立候補
まるで選挙ポスターのようなこの看板は、近隣に住む他の猫の飼い主たちのユーモア精神に火をつけたようだった。
ほどなくして、ベリーの看板の近くにもうひとつ、別の猫の看板が立てられた。「オレンジ・キャット(茶トラ)」という猫が、現職であるベリーの対抗馬として次の選挙に立候補してきたのだ。
オレンジ・キャットの飼い主のジャネット・マクナマラさんは、立候補したきっかけについて次のように語っている。
ベリーは選挙を経ないでサマービル(のバイクパス)の市長になりました。これはまったくのでたらめだと思います。
オレンジ・キャットは、公正で自由な選挙を支持しているのです
市長の座をめぐる熾烈な2匹の戦いについて、地元の「有権者」の1人は、当時の様子をこう振り返る。
最初の対決は、サマービルの地域のDiscordに証拠写真がたくさん残っていますが、「現職」のベリー対オレンジ・キャットでした。
ベリーはいつも見かけますし、オレンジ・キャットもそれに近い頻度で見ます。そこへ他の候補が参入してきた頃、ベリーの看板が盗まれたんです
マロリーさんは看板を盗まれたのを機に、新たな選挙看板を作り直した。「ベリーを再び市長に!」と書かれた看板には、「猫を外に出そう」というメッセージが書かれている。
このメッセージは候補者自身、つまりベリーの立場からのもので、私たちは全ての猫が外に出るべきだと考えているわけではありません。
みんなが自分のコミュニティで楽しみたいのです。少しくらいのおふざけがあるのは良いことだと思います。
猫のダジャレや猫にまつわる政治的ユーモアを、みんなが面白がってくれているのだと思います
さらに数十匹の猫が立候補する事態に発展!
この「選挙」はだんだんエスカレートしていって、数十匹の猫たちが立候補する事態に。中には他のポストを求めて選挙戦を争う猫たちも現れた。
下の写真、向かって左は司法長官の座を狙う「ワシル」。右は首席補佐官に立候補した「ウィスカーズ」。それぞれの公約はこんな感じ。
小動物や鳥類、爬虫類まで公約を掲げて市長選に参戦
さらに犬やモルモット、蛇、カメ、オウムまでもがそれぞれの公約を掲げて市長に立候補してくるカオスな状態に。
カメの「ナギ」氏はかつて道端でゴミをかじってしまったことがあるそうで、当選した暁には、「廃棄物の管理に重点を置く政策を実現するとのこと。
候補者たちそれぞれが、ユニークな公約を掲げていて、「有権者」たちはポスターに書かれた文句を楽しみながら、自分の推し…もとい、誰に投票するかを楽しく迷っていたようだ。
公約の一部はこんな感じ。ダジャレが多いので伝わりにくいかもしれない。
- BMIなんて撤廃ニャ!
- 秘密文書公開を実現、黒塗りニャんてクソくらえ!
- みんニャにカリカリを!
- ニンゲンを思い通りに動かす
- 自転車道から自転車を締め出そう!
- バイクパス沿いにキャットニップを植えます
- わいは無邪気担当で行くニャ
- ペットの国民皆保険を実現
- 里親をもっと推進する
- 良好な猫づきあいを実現
- タキシードを標準装備に
- 昼寝の邪魔厳禁
この「選挙」には、リアルなサマービル市長のカティアナ・バランタイン氏も興味を示している。自身も今年再選を目指す彼女は、ベリーの支持に回ったそうだ。
バランタイン市長は取材に対し、このように語っていたという。
ベリー氏は、バイクパスの価値を守る実績のあるリーダーとして、私の支持を得ています。また、ネズミ対策への彼女の取り組みも高く評価しています
思わぬダークホースが現れる
ところがここで、思わぬダークホースが現れた。黒い背景にただ一言、「犯罪(CRIME)」と書かれたポスターが目を引く、9歳のミネルヴァ候補である。
このなんともシンプルで不穏なポスターは、多くの人の目を引いた。他の候補を支持していた有権者たちからも、ミネルヴァ候補を推す者が続出し始めたのだ。
ミネルヴァ候補の飼い主であるダニエル・エイブラハムさんは、このポスターについて次のように説明している。
ミネルヴァは私に、彼女に代わってただ一言だけ伝えてほしいと頼んで来たんです。ただ一言、「犯罪」と
この「選挙」は地元だけでなく、アメリカ全土の注目を浴びることとなった。
- ここで何が起きてるのか全然わからないけど、支持する
- 「デミャウクラシー(demeowcracy)」っぽいね
- いや「コミャオニズム(com-meownism)」かも
- 候補者たちに会える機会ってあるの?
- 個人的には候補者たちの討論会を見てみたいね
- フレイヤ支持なんだけど、ミネルヴァの「ハイかローか犯罪サイコロ」みたいなノリに心が揺らぐ
- 本命はマーフィーだけど、ミネルヴァにはなんか惹かれるんだよな…
- マイルズかジェリークイーン推し。「私は民主主義を信じない」って公約、大胆すぎて逆にありかも、はは
- ミネルヴァは犯罪をやる側なの?止める側なの?
- どっちも。猫政治家(pawlitician)にしては正直者だよ
- あれが一番笑った。「CRIME」って書いてあるだけの看板
- 正直、見た瞬間「最高!」ってなった。ミネルヴァの選挙戦略を物語ってるね
- こういうコミュニティの盛り上がりは大好きなんだけど、屋外猫の件はちょっと自分的には微妙な話題かな
- ああ~、僕はカナダ在住だから投票できない! できるならミネルヴァに投票するよ。自分はなすべきことがわかってるって顔してるもん!
- マサチューセッツどころかアメリカ在住でもないけど、これはすごく大事な選挙だと思うし、みんなの声が大事だよ
- 自分はCRIMEに一票
- サマービルの人たち、ほんとセンスいいよね。私には決められない! 良い候補が多すぎる
- 全員に投票しちゃダメ?
- だよね、全員が勝てないのが悲しいわ
「犯罪」を掲げたミネルヴァが当選、次期市長に
夏の間行われた選挙戦は終わりを迎え、有権者によるインターネット投票[https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSc5eK_JTSP3dASaJKHph920x99O463JYIN1HAO-Nj1ZWiMj0w/viewform?pli=1&pli=1&pli=1&fbclid=IwY2xjawMLcWBleHRuA2FlbQIxMABicmlkETBFTGx5V2JvUHRuWDhoempRAR5VSOxhm_NQ_ml7eQD_vxKMJdHrvMt1B2tQtww3bDrsf9cQnKZIuW5YkHj3MA_aem_EQiiinpnzpy1yXn26yAmKQ]は2025年9月5日に締め切られた。
そして厳正な開封作業が行われた結果、二代目のバイクパス市長はミネルヴァ候補に決定したことが発表された。
次の市長選挙がいつ行われるのかは定かではない。ベリーはリベンジを図るのか、オレンジ・キャットも三度目の正直を狙うのか。
いずれにせよ、猫(と犬や他の動物)たちのユーモラスな選挙看板は、当分の間サマービルの名物として、有権者たちを笑顔にし続けるに違いない。
一つひとつの看板は、こちらの動画で見られるので、有権者になった気分で眺めてみるのもいいかもしれない。