
通勤ラッシュや渋滞をさらりとかわし、道路と空を行き来できればどんなにいいか。SFの定番にもかかわらず、ずっと「未来」や「空想」扱いだった空飛ぶクルマ。
以来、自動車デザイナーやエンジニアたちも、その夢の実現に向けて奮闘中。2025年現在、それらは徐々にリアルなものになろうとしている。
車と飛行機の中間みたいな空飛ぶクルマ、中でも特に話題の7つを紹介していこう。
1. PAL‑V Liberty (PAL-Vリバティ)
オランダのエンジニアが設計したPAL‑V Liberty は、世界初の公道走行可能なジャイロプレーン(回転翼)ベース。2人乗りの空飛ぶクルマだ。2012年ごろから開発が進められてきた。
折りたたみ式ローターと空気力学に基づいた三輪構成により、路上では最高速度160-170km/h、飛行時の最高速度180km/hを実現。ただし垂直離陸はしないので離陸に180m、着陸に30mの短滑走が必要になる。
航続距離(公表値)は約400-500 km。価格は5,300万円(29万9,000ユーロ)ほど。一般道路での走行性能を重視したタイプで、限定受注ながらも実際に販売されている点が強みだ。
2. Alef Model A (アレフ モデル A)
アメリカの新興企業Alef Aeronautics(アレフ エアロノーティクス)による、都市部向けのeVTOL(電動垂直離着陸機)の試作機。
2人乗りで、車とおなじ駐車スペースに駐機できるようなコンパクトさを想定している。
Model A の価格はおよそ4,500万円(30万ドル)。
一部でModel Aは「FAA(アメリカ連邦航空局)から特別耐空性証明が付与された世界初の機体」とも称されてるがそれが事実かどうかは不明だ。
ただFAAとのやり取りや、一部の試験許可は公開されており、2025年内の生産開始も予定されている。用途は小型を生かした都市モビリティのほか、捜索救助活動に用いられる可能性も。
3. Klein Vision AirCar (クラインヴィジョン エアカー)
2026年に量産開始と話題なのが、スロバキアに拠点を置くKlein Vision の「空飛ぶクルマ」だ。
2人乗りの変形タイプで、スポーツカーの機体が翼を展開。滑走して離陸する。
PAL‑V Liberty同様、ある程度の滑走路(過去には300mとの情報)を要するが、共同創業者の1人、アントン・ザジャック氏いわく、「土地所有者の許可さえあれば、どこでも離着陸可能」だそう。
2019年から実機での飛行試験を開始。2022年スロバキアの耐空証明を取得。変形や滑走の実証も行われている。ただ公表値には世代差や試験条件による幅がある。
車モードで幅2m、飛行モードで翼幅8.2m、全長5m。
路上での最高速度200km/h以上。最高飛行速度は250 km/h 程度。重量約1,100 kg。出力は量産を機にオプション3種となり、最上位クラスは340hpとのこと。
170時間以上の飛行時間を経ているため信頼度が高い、という好評価も。変形機構の安定が気になるが、短距離輸送にも役立ちそう。ただし価格は1億2,000万から1憶8,000万円(80万-120万ドル)と、かなりお高い。
4. Samson Sky Switchblade(サムソンスカイ スイッチブレード)
アメリカ発 Samson Sky のSwitchbladeは、飛行効率に重点を置いた「空飛ぶスポーツカー」とも呼ばれる実験用の機体。キットで提供される変形固定翼機であり、短時間で翼や尾翼が展開できる設計が公式でも示されている。
垂直離陸ではなく、滑走離陸型で、飛行時に翼を展開する。近年の情報によると飛行時の最高速度は257km/h。運転モードの際はすべての翼が折りたたまれ完全に収納され、一般車と同様になることから保険対象になるとのこと。
機体の空力設計は高速巡航を重視したもので、巡航性能の高さにも自信をのぞかせる。
また価格は約2,600万円(17万ドル)と安価。短時間で変形するギミックが魅力だが、あくまでも実験用機につきFAAの航空機承認が得られていない点、また開発継続中でスペックに幅があり、サポートなどが不明な点にも注意が必要だ。
5. AeroMobil 5.0 (エアロモービル 5.0)
スロバキアに本拠を置くAeroMobil社の空飛ぶクルマは、プレミアム志向で複数世代の進化と実証を重ねている。基本は変形固定翼だが、世代によっては、垂直離陸オプション、ハイブリッドエンジンなどを備えたものも。
バージョン5.0は、ドライバーとパイロットに比類なき柔軟性を提供する。飛行中は200km/h、路上では160km/h に達する。
飛行デモや航空ショーへの登場により、その運用上の信頼性が実証されている。価格は約1憶5,000万円(100万ドル)を優に超えると予想されるが、正式な量産価格は未公開だ。
6. XPENG X2 (エクスぺン X2)
X2は、中国のAI電気自動車メーカーXPENG(小鵬汽車:シャオペン) のグループ会社、XPENG AEROHT(広東匯天航空航天科技、略称 小鵬匯天:エアロエイチティ) による 2人用のeVTOL実証機。
市街地での短距離輸送を想定した設計がうかがえ、公開デモや試験飛行が実施されているものの、詳しいスペックはあまり明かされていない。
2025年4月、ポーランドで開催された発表イベントによると、この”空飛ぶクルマ”は操作プロセスの簡素化、ユーザーエクスペリエンスの向上で、個人飛行を容易にするという。
ただこの企業のeVTOLのうち2機は2025年9月16日に衝突事故を起こし、炎上している。
一方、X2に先立ち、世界最大のテクノロジー見本市CESで発表されたXPENG AEROHT 陸地航母(Land Aircraft Carrier) は、X2のような小型単体eVTOLの運用に合わせて開発された地上用プラットフォーム。
いわゆる空母や移動ヘリポートのような機能を果たす大型車両で、既に受注獲得済み。2026年に納入開始の見込みだ。
7. ASKA A5 (アスカ A5)
アメリカ・カリフォルニア州に本拠を置くASKAは、ファミリー向けや少数グループの実用を想定し4人乗りできるA5を開発中。2026年の実用化を目指す。
VTOL/STOL(垂直または短距離着陸)を目指すハイブリッド開発機で、バッテリーのほかに発電機の動力用のガソリンエンジンを搭載している。
2023年のCESで展示された実績があり、すでに資金調達も行われている。
飛行時の最高速度は約240km/h、飛行航続距離は約240から400kmほど。都市部と地方を行き来する空の旅を可能にする。
2025年時点で2028年の商用化目指し、アメリカのナンバーも取得済み。FAAの型式証明の取得手続き中だそう。
販売価格は約1憶2,000万円(78万9,000ドル)。すでに75億円(5,000万ドル)を超えるの予約注文を獲得するなど、市場の期待を担っており、安全性を始めとする数々の規制クリアが待たれている。
複数の技術的アプローチで着実に実用へ
かつて不可能といわれた空飛ぶクルマも、複数の技術的アプローチにより実証されるなど、着実に実用に向かっている。
今回紹介したものの多くは滑走が必要だったりと、eVTOLが基本の日本から見ると、選択肢は少なく思えるかもしれない。
でも世界規模なら、各国当局による認証はもちろん、立ちはだかる規制、インフラ整備が解決されてゆくことで、徐々に珍しいものではなくなってゆくかもしれないな。
とはいえ、夢の空飛ぶクルマを手に入れるには、まだ少し先の未来。そんな中、楽天をのぞけば「空飛ぶバイク」のドローン玩具がもう売られている。手のひらサイズの空の旅、まずはそこから始めてみるのも悪くないかもしれない。
楽天市場 : おもちゃ トランスフォームドローン 空を飛ぶバイク
References: Karapaia / Newatlas[https://newatlas.com/aircraft/klein-vision-aircar-flying-car-production/]