
インフルエンザのやっかいな点のひとつは、症状が出る前にすでに感染していることだ。潜伏期間は1日から3日ほどあり、自分でも気が付かないうちに、他者にウイルスを広めてしまっている可能性がある。
そんな無自覚の感染拡大を防ぐために、噛んで味を確かめることで、発症前のインフルエンザ感染を検知できるガムがドイツで開発された。
使用されているのは、香辛料の一種でハーブとしてよく知られる「タイム」に含まれる成分と同じ構造を持つ化合物だ。
感染している場合、このガムを噛むと、タイム特有のスパイシーな味と香りが口の中に突然広がる。逆に、感染していなければこの味は感じられないという。
この研究成果は『ACS Central Science[https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acscentsci.5c01179]』誌(2025年10月1日付)に発表された
発症前の感染を見逃してしまう現在の検査キットの限界
現在市販されているインフルエンザの簡易検査キットは、COVID-19の抗原検査と同様に自宅で簡単に使用でき、両方のウイルスを同時に調べられるタイプも登場している。
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しかしこうした検査キットは、発熱や咳などの症状が現れた後でなければ正しく反応しない。つまり、感染していても症状が出ていない段階では、検査では陰性となる可能性が高い。
発症前の段階でウイルスを検出できる高感度の検査法も存在するが、それらは高価で、結果が出るまでに時間もかかるため、日常的な使用には向かない。
特に感染の広がりを未然に防ぎたい医療や介護の現場では、もっと即時性と手軽さを兼ね備えた方法が求められている。
ガムを噛んで味を確認、発症前の手軽な検査が可能に
そこで登場したのが、噛んでその味を確認するだけで、症状が出る前に感染しているかどうかを確かめることができるガムだ。
ドイツのヴュルツブルク大学のロレンツ・マイネル教授らの研究チームでは、「ノイラミニダーゼ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%9F%E3%83%8B%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%BC]」というインフルエンザウイルスに含まれる酵素に注目した。
この酵素は、H1N1型などの型名にある「N」の部分であり、ウイルスが細胞に感染する際に使われる。
研究チームは、このノイラミニダーゼを用いて、タイムに含まれる香り成分「チモール(thymol)[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%AB]」と同じ構造を持つ化合物をガムに組み込んだ。
チモールは、抗菌・抗真菌作用を持つフェノール系の香気成分で、うがい薬や歯磨き粉、食品添加物などにも使用されてきた実績がある。
風味が強く、微量でも味覚として認識されやすいのが特徴だ。
インフルエンザに感染していない場合、チモールはガム内部に封じ込められており、味はしない。
しかし、感染している人がガムを噛むと、発症前でも、口腔内に存在するウイルスのネウラミニダーゼが活性化し、チモールの結合を切断し、成分が放出されることで、タイム特有の香りと味が舌に届く。これが、感染のサインとなる。
感染者の唾液を使った実験で効果を確認
研究チームは、インフルエンザに感染した患者から採取した唾液を使って実験を行ったところ、30分以内に味覚変化が起きることを確認した。
これは、ウイルスのノイラミニダーゼ酵素が働いている唾液環境でチモールが放出されたことを示している。
今後2年以内には、唾液ではなく、実際に人を対象とした臨床試験が開始される予定で、実用化に向けた準備が進められている。
この技術は、感染リスクの高い医療機関や福祉施設、学校や職場などにおいて、日常的に使える早期検出ツールとしての活用が期待されている。
検査キットで陰性と出たのに実は感染していた、なんてケースはよくあったが、このガムを噛むだけで、発症前の感染が発見できるのなら、感染拡大予防に大きな効果が期待できるかもしれない。
追記:2025/10/08:誤字を訂正して再送します。
References: ACS[https://www.acs.org/pressroom/presspacs/2025/october/a-step-toward-diagnosing-the-flu-with-your-tongue.html] / Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1099648]