最後のつがいがハンターに打たれ絶滅した「オオウミガラス」メスの個体の行方が明らかに
<a href="https://commons.wikimedia.org/wiki/File:PinguinusImpennus.jpg" target="_blank">John James Audubon, Bird Artist of America. (1785-1851)</a>, Public domain, via Wikimedia Commons

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 1844年、アイスランド沖で最後のオオウミガラスのつがいがハンターに狙われ命を落とした。彼らの身体は標本や剝製にされ、鳥類の収集家や博物館を転々とすることに。

 2017年、研究者たちはベルギーでつがいの片割れ、オスの標本を確認した。だがその連れ合いであったメスの行方は杳(よう)として知れなかった。

 そして2025年9月、アメリカのオハイオ州にある博物館の片隅で、ひっそりと眠っていたメスの標本が発見された。

 博物館の誰もが、この標本が貴重なオオウミガラスの最後の一羽だったことに気がつかなかったという。

 この研究結果は、2025年9月19日付の学術誌『Zoological Journal of the Linnean Society[https://academic.oup.com/zoolinnean/article/205/1/zlaf097/8259557]』で報告された。

ハンターに殺されたオオウミガラスの「最後のつがい」

 ウミスズメ科に分類される「オオウミガラス(Pinguinus impennis)」は、北大西洋から北極圏近くの岩礁地帯に広く生息していた海鳥の一種である。

 オオウミガラスは、8世紀ごろから食用として、あるいは羽毛や脂肪を採取するために人間に乱獲され、その個体数が激減していった。

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 19世紀半ばには絶滅の危機に瀕し、最後の2羽のつがいが残されるのみとなった。だが、彼らの種としての終焉は唐突なものだった。

 記録によれば、1844年6月にアイスランド南西沖の小島エルディ島を訪れた3人のアイスランド人ハンターが、卵を1つ抱えたつがいを発見。

 飛べない鳥であるオオウミガラスは、ハンターたちから逃げることもできなかった。彼らは親鳥を難なく捕らえて絞殺し、卵を踏み潰したという。

 死骸はレイキャビクの薬屋に売却されたあと皮を剥がれ、デンマークへ送られたとされている。

 取り出された内臓は、ウイスキーの瓶に詰められてクジラの脂で封印され、標本として同じくデンマークに送られた。

 この内臓の標本は、コペンハーゲンにある自然史博物館に収蔵され、今日まで保管されてきた。

 だが、皮の方は剥製にされ、博物館や収集家の手を転々とするうちに、行方がわからなくなってしまったのだ。

 下はデンマークのコペンハーゲン自然史博物館に収蔵されている4体の標本のうちの1体と、最後のつがいの内臓標本。

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バラバラになってしまった標本の行方

 判明している数少ない記録によると、1845年にはコペンハーゲンの商人が、つがいの剥製標本を売却したという。

 そのうち1体は、1847年にベルギー王立自然科学研究所が購入したとされている。もう1体はアメリカに送られ、ロサンゼルスの自然史博物館に収蔵されていると考えられてきた。

 しかし確証はなく、特定する手段もなかったため、これらの標本は今まで顧みられることなく放置されて来た。

 オオウミガラスの剥製標本は、現在世界に78体前後残っているという。この中のどれかが、「最後のつがい」であることは確かだったのだが…。

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 2017年、バンガー大学とコペンハーゲン大学の博士課程に在籍していたジェシカ・トーマスさんは、この最後のつがいの運命に興味をそそられた。

 彼女は1万5,000年前のオオウミガラスの骨から、ミトコンドリアDNAを採取。人間による乱獲が始まる前は、彼らは個体数も多く、遺伝的にも多様な種であったことを示す証拠を発見していた。

私はすっかりこの鳥に夢中になりました。本当に魅力的な鳥で、素晴らしい物語を持っていたんです

 彼女はコペンハーゲン自然博物館を訪れると、170年ぶりにウイズキーに浸けられていた臓器標本の瓶を開けた。

 下の画像は特定に使われた内臓の部位。Aは食道で、向かって左がオス、右がメスのもの。Bは心臓で、上がメス、下がオスのもの。ジェシカさんが蓋を開たとき、「ウイスキーの良い香りがした」そうだ。

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DNAの照合で「最後のつがい」の剥製と臓器の同定に成功

 彼女はDNAの比較に着手し、同博物館にあるオスの臓器と、ベルギーの王立自然科学研究所に所蔵されていた剥製標本が同じ個体のものであることを特定した。

 しかし、これまで最後のつがいのメスのものだと思われていたロサンゼルスの標本も、他の博物館の標本も、コペンハーゲンのメスの臓器とは一致しなかった。

 彼女はこの成果を発表[https://www.mdpi.com/2073-4425/8/6/164]した後、研究をまとめた論文で博士号を取得したが、さらにメスの行方を探す研究を続け、歴史的な記録や文献を丹念に調査した。

 その結果、アメリカのオハイオ州にあるシンシナティ自然史科学博物館[https://www.cincymuseum.org/sciencemuseum/]が所蔵している剥製標本が、このメスのものではないかと推測。

 同博物館と協力して慎重に調査を進めた結果、この剥製と臓器のDNAが一致することを確認。「最後のメス」の剥製の行方がとうとう判明した瞬間だった。

 なお、同博物館の学芸員ヘザー・ファリントン氏によると、スタッフの誰も、この標本が最後のメスのものだとは思ってもいなかったのだという。

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実は元祖「ペンギン」はこの鳥だった!

 オオウミガラスは学名を「ピンギヌス・インペニス(Pinguinus impennis)」といい、チドリ目ウミスズメ科に属する大型の水鳥である。全長約80cm、体重約5kgにも達したという。

 主に北大西洋から北極周辺の海域に生息しており、更新世の化石からは、かつて地中海にもいたことがわかっている。

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 カラスと名は付くもののカラス科の鳥とは全く関係がない。白と黒のツートンカラーで、一見するとペンギンのようにも見えるが、クチバシや羽のつき方などを見ると違いがわかると思う。

 実は学名に「ピンギヌス」とあるように、「ペンギン」という言葉は、もともとはこのオオウミガラスを指すものだった。

 その語源にはいくつか説があって、有力なもののうちひとつは、ラテン語で「太った」を意味する「pinguis」から来ているとするもの。

 もうひとつは、ウェールズ語やブルトン語で「白い頭」を意味する「ペングィン(Pen-gwyn)」からきたというものだ。

 頭部にある白い斑点から、あるいは「ホワイトヘッド島」に生息していたからなど、こちらの由来にもいくつか議論があるようだ。

 後世になって、南半球でこの鳥に似た鳥類が発見されると、人々は彼らを「南極ペンギン」と呼ぶようになった。

 そしてオオウミガラスが絶滅した今、「ペンギン」と言うと、単に南半球に住むペンギンのことだけを指すようになったのだ。

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絶滅の原因は人間による組織的な狩猟

 オオウミガラスは、最盛期には数百万羽が生息していたと考えられているが、食料や羽毛をとるために人間によって狩り尽くされ、あっという間に激減した。

 なだらかな海岸線の、人間が上陸しやすい島に集団繁殖する習性と、飛べない大きな身体は、人間にとって「狩りやすさ」に直結したのだ。

 生息数が少なくなると、今度は貴重な標本として富裕層のコレクションの対象となり、さらに数を減らすことになる。

 今回消息のわかった最後のつがいも、コレクターへの販売を目的に捕獲されたと記録にある。

 絶滅が判明した後は、こういった標本はさらにその価値を高め、オークションでは高額で取引されるようになったという。

 下の写真は、ドイツ・フランクフルトのゼンケンベルク博物館に収蔵されているオオウミガラスの標本。卵はレプリカであり、このような形でコレクションされていたのだろう。

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 オオウミガラスの最後のつがいの行方は、これでようやく2体とも判明した。だがそれでこの鳥たちが生きて戻ってくるわけではない。

 我々にできるのは、彼らの記録を未来へと正しく手渡し、この教訓を今を生きる種の具体的な保全へとつなげる責任をしっかり負うことではないだろうか。

追記(2025/10/20) 風を封印と訂正して再送します。

References: The Mystery of What Happened to the Last Female Great Auk Is Finally Solved[https://explorersweb.com/the-mystery-of-what-happened-to-the-last-female-great-auk-is-finally-solved/] / Academic.oup.com[https://academic.oup.com/zoolinnean/article/205/1/zlaf097/8259557]

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