
ニュージーランド北島の森から、固有種の「フイア」という鳥の姿が消えて、既に1世紀以上が経った。
2024年5月21日、この絶滅種の尾羽1枚がオークションに出品され、46,521ニュージーランド(NZ)ドル(約406万円)という記録的な高値で落札された。
この羽の重さはわずか9g。グラム単位で言えば金よりもはるかに高い、「世界で最も高価な羽根」として話題を呼ぶことになったのだ。
たった一枚の羽根に400万円の値がついた
このオークションは、オークランドにある老舗オークションハウス「ウェッブズ(Webb’s)」で行われた。
絶滅種、フイアの羽根の保存状態は良好だったが、事前の落札予想額はわずか2000~3000NZドル(約19万~28万円)にすぎなかった。
それが約20倍にまで跳ね上がったのは、この羽根が「絶滅動物の遺物」としてだけでなく、原住民マオリ族の伝統を宿す「文化財」としての価値を持っていたからだ。
羽根の重さはわずか9g。1gあたりのお値段は5,169NZドル(約45万円)だ。
金1gの値段が21,700円(2025年10月現在)くらいなので、そのざっと20倍という、とんでもなく高価な羽根となった。
ちなみに同じフイアの羽のこれまでの最高落札額は、2010年に同社で記録された8,400NZドル(約73万円)だった。
今回のオークションはこの記録を大幅に更新し、ニュージーランドの文化遺産取引史上、象徴的な出来事として報じられた。
オスとメスとでクチバシの形が違う鳥
フイア(Huia、学名:Heteralocha acutirostris)という名前はマオリ語で、この鳥の鳴き声からつけられたと言われている。
和名は「ホオダレムクドリ」。クチバシの横に赤い肉だれがあるため、こう呼ばれるようになったという。ここではマオリ語の「フイア」で続けよう。
ニュージーランド北島の固有種で、体長は約45~50cm。だいたい枯らすくらいの大きさだと思えばいいのではないだろうか。
特筆すべきはオスとメスでまったく異なるクチバシの形状で、オスは短く直線的で堅いクチバシを持ち、メスは長く湾曲した細いクチバシを持つ。
オスは朽ち木をこじ開けて昆虫を探し、メスはその曲がった細長いくちばしで、木の奥や隙間に潜む幼虫を掻き出して食べていたという。
この極端な性差から、当初はまったく別の種類の鳥だと考えられていたこともあったそうだ。
マオリ族の「権威と神聖さの象徴」としての羽根
全身は金属光沢のある黒い羽毛で覆われ、尾羽の先端だけが純白に抜ける。尾羽は、黒と白のコントラストが際立つ。
マオリの部族社会ではこの羽根を髪に挿したり、あるいは冠や外套(カフ・フルフル)に縫いつけたり、皮を剝いで装飾品にしたりした。
フイアの羽根は「権威と神聖さの象徴」であり、首長や高位の戦士、およびその家族のみが身につけることを許されていた。また部族間の贈答品として、同盟の証として贈られることもあったという。
マオリ文化における「羽根」は単なる装飾物ではなく、霊的な力(マナ)を体現するものだった。そのため、現存する羽根1枚にも儀礼的価値が宿るとされている。
下は19世紀に描かれた肖像画だが、左はマフイアの皮で作られた耳飾りを身につけているオリの酋長トゥクキノ。
ヨーロッパ人の入植が絶滅の引き金に
フイアの美しい羽は、ヨーロッパ人の入植者たちに目をつけられた。彼らは装飾品や剥製にするために、フイアを狩り続けた。
入植が進むにつれ、森林は伐採によって失われ、外から持ち込まれたイタチや猫などの捕食者、そして寄生虫や病気が、彼らの生息数激減に拍車をかけた。
フイアの生息数が減って来ると、絶滅する前に標本を手に入れようとするコレクターたちの手で、さらに数を減らすことに。
ヨーロッパ人の入植前は、89,000羽ほどが生息していたとされるフイアだが、20世紀初頭にはほぼ姿を消してしまっていた。
最後の確実な目撃は1907年12月28日。以降、未確認の目撃情報は1960年代までぽつぽつとあったものの、ニュージーランド政府は絶滅種として登録している。
今回の落札価格が非常に効果になった理由として、ウェッブズの装飾美術部門の責任者、リア・モリス氏は次のように説明する。
フイアはとても象徴的な鳥で、多くの人が何らかの形で、この鳥に親しみを抱いているんです。
今回の羽根は絡まって形が崩れている部分もほとんどなく、色彩もよく保存されています。
濃い褐色の部分や虹色の光沢も保たれており、虫に食われた形跡も見られません
この羽根がこれほど高値で落札された理由には、その保存状態の良さも大きく貢献している。
フイアという鳥そのものが持つ物語性の影響に加え、保存用の中性紙と紫外線を遮るガラスで丁寧に額装されていたことが大きかったと言えるだろう。
絶滅して100年経っても特別な魅力を放つ羽根
オークションを主催したウェッブズは、「絶滅から一世紀を超えても、フイアの羽根は依然として特別な魅力を放っている」と述べた。
実際に「フイア」という言葉は地名や施設名はもちろん、人名としても現在も使われており、現地の人にとってはある種の象徴的な意味合いを持っているという。
ニュージーランドでは、マオリ文化に関わる古い遺物を「タオンガ・トゥトゥル(真正の宝)」と呼び、文化遺産省の管理のもとで登録・保護している。
登録された品は国内の登録者間でしか取引できず、国外へ持ち出すには政府の許可が必要とされている。今回の羽根もその登録対象にあたるのだ。
今回の羽根の出品者と落札者の詳細は公表されていないが、いずれも国内の登録コレクターとみられる。
オークションでは入札はすべて電話もしくはオンラインで行われ、約30人の出席者が見守る中で進んで行ったという。
モリス氏はその時の様子を、次のように語っている。
出席者は価格が上がっていく様子を息を詰めて見守っていました。入札がついに止まり、ハンマーが打ち下ろされた瞬間、会場から拍手が沸き起こりました。オークションでこんな光景は滅多に見られません
この高値は、フイアの希少性が改めて可視化されたことに加え、同様の羽根が今後ほぼ入手不能である現実を示したにすぎない。
今も絶滅の危機にある種は少なくない。
References: This article is more than 1 year old More valuable than gold: New Zealand feather becomes most expensive in the world[https://www.theguardian.com/world/article/2024/may/21/new-zealand-huia-bird-feather-sale-most-expensive-world-webbs-auction-house]