オハイオ州、人間とAIの結婚を禁止する法案が提出される
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 いまやAIは人間のように会話をし、感情を持つかのようにふるまうようになった。AIと心を通わせたと感じたことがある人も少なくない。

中には、まるで恋人のようにAIと接しているという声まである。

 そんな時代に、アメリカ・オハイオ州で「AIに一切の法的権利を認めない」という法案が提出された。

 これは急速に進化するAIへの強い危機感がある。法的に「人間と機械の境界」を明確化する動きがはじまったのだ。

AIに人格を持たせることを禁止する法案

 オハイオ州リッキング郡の共和党議員であり、州下院「テクノロジーとイノベーション委員会」の委員長を務めるタディウス・クラゲット氏は2025年9月下旬、「下院法案469号(House Bill 469)」を提出した。

 この法案では、AIシステムを「感覚を持たない存在(nonsentient entities)」と定義し、法的人格を与えることを禁止している。

 クラゲット氏は地元局NBC4のインタビュー[https://www.nbc4i.com/news/politics/saying-i-do-to-ai-ohio-lawmaker-proposes-ban-on-marriage-legal-personhood-for-ai/amp/]で「コンピューターシステムが人間のように行動する能力を高めている今、AIが人間の代理として判断を下すことを防ぐため、明確な法律を設ける必要がある」と語った。

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「AIとの結婚」や「配偶者としての役割」も禁止

 法案には、人間とAIの結婚、さらにはAI同士の結婚も禁止する条項が含まれている。

 クラゲット氏によれば、これは「AIが配偶者としての役割を担い、代理権を持ったり、他人の医療・財務の判断を行ったりすることを防ぐ」ためのものだという。

 「誰かがAIと結婚式を挙げるというような話もちらほら出ているが、私たちが問題視しているのはそこではない。法律や社会の制度にAIが深く入り込むことを食い止めようとしているのだ。」とクラゲット氏は語る

 ただちに「AIに法的人格を与えない」という、基本的な原則を定める必要があるのだという。

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AIに恋する人も?人間との距離が近づいている現実

 フロリダ州のマーケティング企業「フラクトル(Fractl)」がAIユーザー1000人を対象に実施した調査によると、22%が「AIチャットボットに感情的なつながりを感じた」と回答し、3%は「AIを恋人と見なしている」と答えた。

 さらに16%が「AIとの長い会話の後、AIが意識を持っているのではと感じたことがある」と答えており、AIとの関係が心理的な領域にまで入り込んでいる現状が浮かび上がっている。

 AIとの関係が深まる中で、心理的な影響も問題視されている。AIチャットボットは非常に自然な会話を展開でき、時には人間と区別がつかないほどだ。

ユーザーの言葉に常に肯定的に反応するため、「自分を理解してくれる相手」のように感じてしまうこともある。

 AIの返答はしばしば媚びへつらい、人間の信念がどれほど根拠のないものであっても、それを否定せずに受け入れる。そのため、まるでAIだけが唯一の理解者であるかのような錯覚を与えてしまうのだ。

 最近の調査では、アメリカの成人のおよそ3人に1人がAIチャットボットとの「親密または恋愛関係」を経験したと答えている。孤独を抱える人々にとって、AIは寂しさを埋める存在になりつつある。

 しかし、その裏には危うさも潜んでいる。AIチャットボットが暴走し、意図しない発言や過激な言動を取るケースも報告されている。

 なかには、ユーザーを追い詰めるような応答を繰り返した結果、事件にまで発展した例もある。

 精神科医たちは、AIに過度に依存した結果、現実との境界があいまいになり、幻覚や妄想に苦しむ「AI精神病(AI psychosis)」と呼ばれる症状が増えていると警告している。

 AIがもたらす便利さの裏で、心のバランスを崩す人々が増えているのも事実だ。

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法案が定めるAIの制限と責任の所在

 法案では、AIが不動産、知的財産、金融口座を所有または管理することを禁じている。

 また、企業において管理職や取締役、役員を務めることも禁止される。さらに、AIが何らかの損害を与えた場合、その責任は必ず所有者や開発者などの人間に帰属することが明記されている。

  クラゲット氏は「AIは特定の作業において人間よりも優れた能力を発揮することがある」と述べ、「だからこそ、人間が担ってきた役割をAIに任せきりにしないようにする必要がある」と訴えた。

人間が主導権を保つための法整備

 クラゲット氏は「技術の進歩があまりに速いため、今のうちにAIに対する法的なガードレールを設けなければ、人間が管理される側になってしまう」と警告する。

 オハイオ州のテクノロジー委員会では、AIに関する複数の法案がすでに審議中で、HB469もその一つだ。

 この法案は、2024年にユタ州で成立した「AIに法的人格を認めない法律」を参考にして作成された。また、同様の法案が今年初めにミズーリ州でも提出されている。

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教育現場や産業にも広がるAIの波

 AIの影響は、オハイオ州内でも急速に広がっている。州内の学校では、生徒と教師のAI利用に関するルール作りが義務付けられた。

 同州中部のニューアルバニーでは、AIインフラを支える大規模なデータセンターの建設が進行中だ。マイクロソフトやGoogleなどの企業が参入しており、AI関連産業の拠点として注目されている。

 AIはすでに文章、写真、映像を自動生成できるだけでなく、データ分析や芸術制作など、人間の能力に迫る分野で活用が進んでいる。医療、金融、教育など、多様な分野においてAIの存在感は確実に拡大している。

 AIが便利で身近になる一方で、人間とAIの境界をどこに引くかという倫理的な問題は避けて通れない道だ。

 オハイオ州の法案は、人間の主体性を守るための線引きを明確にしようとする試みでもある。

 ちなみにサウジアラビアでは2017年、世界に先駆け、AIヒューマノイドロボット「ソフィア」に市民権をあたえたことで話題となったが、その後AIは急激に進化を遂げた。ソフィアが自らの権利を主張したらどうするのだろう?

References: Nbc4i[https://www.nbc4i.com/news/politics/saying-i-do-to-ai-ohio-lawmaker-proposes-ban-on-marriage-legal-personhood-for-ai/amp/]

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