
宇宙の遥か彼方、77億光年離れた場所で、これまでに観測された中で最も強力な「奇妙な電波サークル(ORC)」が発見された。
ORC(Odd Radio Circle)は、2019年に初めて見つかったばかりの、円形の電波だけを放つ正体不明の構造体で、「不規則電波サークル」とも呼ばれており、これまでに確認されているのはほんの十数例しかない。
今回観測されたORCは、きわめて珍しい二重リング構造を持っており、これまでに発見された中で最も強い電波を放ち、最も遠い場所にあった。
ORCは銀河の衝突やブラックホールの爆発的な活動など、宇宙の極端な現象が関係している可能性があり、研究者たちはその解明に取り組んでいる。
この研究成果は『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society[https://academic.oup.com/mnras/article/543/2/1048/8267915]』誌(2025年10月2日付)に発表された。
宇宙の彼方で輝く謎の巨大な二重リング構造
ORC(奇妙な電波サークル・不規則電波サークル)は比較的新しい天文現象で、わずか6年前の2019年に南アフリカの電波望遠鏡(MeerKAT)が初めて観測した。
これまでの研究によると、 2024年時点で知られているORCの数は12~15個程度しかないという。
今回新たに発見されたORC「J131346.9+500320」は、2024年6月、インド・ムンバイ大学の天文学者アナンダ・ホタ博士と、市民科学プロジェクト「RAD@home」の参加者たちによって、オンラインのワークショップ中に特定されたものだ。
明るい電波のリングが2つ重なる珍しい構造を持ち、これまで観測された中でも最も強い電波を放っている。
この二重リングは、それぞれ直径約97万8000光年(天の川銀河の約10倍の大きさ)に広がっており、その外側には約260万光年にわたる淡いハロー(ぼんやりとした電波の輝き)が存在している。
ホタ博士は、「ORCは、これまでに観測された中でもっとも奇妙で美しい宇宙構造のひとつであり、銀河とブラックホールがどのように共進化してきたのかを探る手がかりになる可能性がある」と語っている。
ORCの正体は?ブラックホールとの関連
ORCは、深宇宙の銀河間空間に浮かぶ円形の電波構造で、可視光では見えず、電波のみを放っている。発見例はまだ数件しかなく、その正体はいまだ謎のままだ。
現在有力とされている仮説では、ORCの形成には超大質量ブラックホールの活動が関係しているとされる。
こうしたブラックホールは銀河の中心に位置し、物質を飲み込む際に両極からプラズマのジェットを放出したり、銀河全体に影響を及ぼすような極めて強力なガスの流れ(スーパーウィンド)を吹き出すことがある。
さらに、銀河同士が衝突してブラックホールが合体すると、莫大なエネルギーをともなう衝撃波が発生し、広大な電波構造が形成される可能性もある。
実際、多くのORCは銀河と関連しており、中心にブラックホールを持っていることが確認されている。
何が二重リングを生んだのか?
これまでに確認されている十数個のORCの中で、二重リングを持つものはわずか2例しかない。
「J131346.9+500320」はそのひとつであり、これほど明瞭な二重リング構造は極めて珍しい。
研究チームは、ORCの形成について、かつて超大質量ブラックホールが放出した電波ローブが、後に生じた銀河やブラックホールの合体、あるいはスーパーウィンドによる衝撃で再び活性化し、リング状に可視化された可能性を示している。
論文では、「銀河の合体やブラックホールの衝突、強力なスーパーウィンドによって大規模な衝撃が生じ、眠っていた電波ローブ[https://astro-dic.jp/radio-lobe/](電波が広がる領域)が圧縮され、粒子が再加速されることで、リングや破れた殻のような構造が現れることがある」と述べられている。
すでに活動を終えて見えなくなっていた古い電波ローブであっても、その後に発生した双方向のスーパーウィンドによって再び活性化し、巨大な二重リングが形成された可能性があるという。
観測された電波には「シンクロトロン放射[https://astro-dic.jp/synchrotron-radiation/](磁場中で加速された電子が発する電波)」の痕跡があり、これは過去のブラックホール活動の名残であると考えられている。
今回のORCは、そうした活動の“電波の化石”が、新たな衝撃や風によって再び輝きを取り戻した姿なのかもしれない。
他の銀河にもリング構造、ORCとのつながりが強まる
研究チームは、今回のORC「J131346.9+500320」に加えて、同様のリング構造を持つ2つの電波銀河も報告している。
ひとつは「RAD J122622.6+640622」で、これは曲がった電波ジェットの先に大きな円形の電波構造が広がっている。もうひとつは「RAD J142004.0+621715」で、こちらもジェットの末端にリング状の構造が確認されている。
これらの銀河は、超大質量ブラックホールの活動によって生じた電波ジェットと、その周囲との相互作用によってリング構造が形成されたと考えられている。
構造そのものはORCとよく似ており、ORCがブラックホール由来の電波構造の一種である可能性をさらに強める証拠となっている。
ポーランド国立核研究センターの天体物理学者プラティク・ダブハデ博士は次のように述べている。
ORCやリング状の電波構造は、ブラックホールのジェットや風と、銀河やその周囲の環境との相互作用によって生まれる、より広い“宇宙の電波構造の一族”に属していると考えられます
今回の発見が市民科学者の手によってなされたことは、機械学習が進んだ時代においても、人間の観察力がいかに重要であるかを改めて示すものです
References: Academic.oup.com[https://academic.oup.com/mnras/article/543/2/1048/8267915] / Ras.ac.uk[https://ras.ac.uk/news-and-press/research-highlights/most-powerful-odd-radio-circle-date-discovered]