
恐竜の卵がいつ産み落とされたのか。科学者たちは、その正確な「時間」を、化石そのものから直接読み取ることに初めて成功した。
中国・湖北地質科学研究所の研究チームは、卵の化石に含まれる原子の変化を利用して年代を算出する新しい測定法を開発。これにより、恐竜の卵化石の「直接年代測定」が世界で初めて実現した。
これまで卵の化石の年代は、周囲の火山灰や岩石の年代をもとに間接的に推定するしかなかった。しかし、この新しい手法を使えば、卵そのものが形成された時期を明らかにできる。
この成果は、恐竜の進化や絶滅、そして白亜紀の地球環境の変化を、これまでより正確にたどる手がかりになると期待されている。
この研究成果は学術誌『Frontiers in Earth Science[https://www.frontiersin.org/journals/earth-science/articles/10.3389/feart.2025.1638838/full]』(2025年9月11日付)に掲載された。
卵の化石そのものから「産み落とされた年代」を測定
今回の研究が行われたのは、中国湖北省西部、雲陽県にある雲陽盆地、青竜山恐竜卵化石群国家級自然保護区だ。
ここは恐竜の卵化石の保護と研究を目的に設立された中国初の自然保護区で、これまでに3000個を超える卵化石が見つかっている。
その多くは礫岩(れきがん)やシルト岩などの中に埋まり、ほぼ原形を保って保存されている。
湖北地質科学研究所の研究チームは、ここで採取した内部が方解石で満たされたデンドロオリチス科(Dendroolithidae)の一種「プラコオリトゥス・トゥミアオリンゲンシス(Placoolithus tumiaolingensis)」の卵化石を分析した。
研究チームはこの卵殻にレーザーを照射し、炭酸塩鉱物を微粒子化し、その成分に含まれるウランと鉛の原子数を質量分析計で測定した。
ウランは一定の速度で鉛に変化する性質を持っており、鉛の蓄積量から時間の経過を算出できる。この手法は「炭酸塩ウラン・鉛年代測定法」と呼ばれ、地球化学で最も精密な年代測定のひとつである。
約8500万年前に産み落とされた卵であることが判明
分析の結果、この卵化石は約8500万年前、白亜紀後期に産み落とされたことがわかった。誤差はわずか170万年ほどである。
これは従来の推定よりもはるかに正確な年代であり、卵化石そのものを直接測定した世界初の成果となった。
これまで恐竜の卵化石の年代は、近くの火山灰層や鉱物の年代をもとに「おおよそ」で推定するしかなかった。しかし、そうした層は卵より前後に形成された可能性があり、正確な年代を特定することは難しかった。
今回の方法によって、恐竜が実際に卵を産み落とした時期を明確に示すことができたのだ。
寒冷化が恐竜の卵の進化に影響した可能性
この年代は、地球がゆるやかに寒冷化へ向かっていた時期だ。約9400万年前から9000万年前にあたる白亜紀後期の地質時代の一つ、チューロニアン期に入ると、地球の平均気温が低下し始めていた。
湖北地質科学研究所のビ・ジャオ博士は、デンドロオリチス科の卵が持つ多孔質の殻構造は、気温の低下に対応するための進化だった可能性があると語る。
「この特殊な殻の構造は、冷涼な気候に適応するための工夫だったのかもしれません。世界のほかの地域でも、同じ時期に新しい卵のタイプが出現しています。」
博士はさらに、この恐竜の卵を産んだ種が寒冷化に適応しきれずに絶滅した可能性についても指摘している。
化石が教えてくれる地球の記憶
今回の研究は、恐竜の卵化石を「時間を記録した鉱物」として分析し、化石そのものからいつの出来事なのかを直接読み取ることに成功した点で画期的である。
これにより、恐竜の進化や絶滅、そして当時の気候変化をより正確な時間軸で追跡できるようになった。
ビ・ジャオ博士は「私たちは化石を、過去を語る証人として新たに理解できるようになりました。
References: Frontiersin[https://www.frontiersin.org/journals/earth-science/articles/10.3389/feart.2025.1638838/full] / Scitechdaily[https://scitechdaily.com/an-atomic-clock-for-fossils-scientists-directly-date-dinosaur-eggs-for-the-first-time/] / Sciencedaily[https://www.sciencedaily.com/releases/2025/09/250911073141.htm]