「死者の指」と呼ばれる青く奇妙な果実がある。しかも食べられる
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 地球って面白い!遊び心なのか、意図的なものなのか、世にも奇妙な生物がたくさん存在。まるで内出血をしたかのような青紫色の指のような果実は、「死者の指」、あるいは「ブルーソーセージ・フルーツ」と呼ばれている。

 死者の指と言えば、クロサイワイタケ属のマメザヤタケが有名だが、こちらは臭くて苦くて硬いため、食用には適さない。

 だがこのアケビ科の「死者の指」はなんと果肉部分が食べられるのだ。不気味な見た目だが、果たしてお味はどうなのか?「食べられる死者の指」の正体に迫っていこう。

死者の指をぶら下げた奇妙な植物

この奇妙な植物の正体は、アケビ科の落葉低木で学名を、デカイスネア・ファルゲシイ(Decaisnea fargesii)という。

 秋になると、灰青色から青紫色をした細長い果実がぶら下がるように実る。

 太くてくびれがあり、先端がやや尖った形状は、どこからどう見ても“人の指”。しかも、血が内側に滞留しているかのような、死人の指のような不気味さだ。

 それゆえ、この果実は「死者の指(デッドマンズ・フィンガー)と呼ばれている。もうすこしかわいげのある呼び方なら「ブルーソーセージ・フルーツ」だ。

 ただし、1892年にフランスの植物学者アドリアン・ルネ・フランシェがこの植物を記載した当初は、「青い大きなイモムシ」と表現していた。

 彼に標本を提供したのは、四川省に滞在していたカトリック宣教師で植物収集家のポール・ギヨーム・ファルジュで、彼の名を冠して学名に「ファルゲシイ」と名付けられた。

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原産地はヒマラヤ周辺の山岳地帯

 デカイスネア・ファルゲシイは、現在も中国・四川省、チベット、ネパールの温帯~冷温帯地域に分布しており、標高900~3600mほどの山の斜面や谷沿いなどに自生している。

 現地では湿った林内に多く見られ、栽培にも耐寒性があり−20℃近い気温でも越冬可能とされる。

 高さは4m前後、最大で8mにも達することがあり、葉は羽状複葉で1枚の葉に10枚以上の小葉が左右に並ぶ構造をしている。

全体の葉の長さは90cmに達することもある。

 同じアケビ科に属する日本のアケビ(Akebia quinata)は、掌状複葉と呼ばれる“手のひら型”の葉を持つのに対し、デカイスネアの葉は“羽のように左右に広がる”のが特徴だ。

 ちょうどハロウィーンの時期に見ごろを迎えるのも、この果実の“怪しさ”を引き立てている要素だ。

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不気味な死者の指は食べられる

 見た目は口にしたくない印象だが、この「死者の指」は意外にも食べることができる。

 果実の中を割ると、黒く光るスイカのような種子がぎっしりと並び、それぞれが透明なゼリー状の果肉に包まれている。この果肉が唯一食べることができる部分だ。種や外皮は食べられない。

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 味の評価は人によって分かれる。

 英国・王立植物園キューの種子学者、ヴォルフガング・ストゥッピー博士[https://www.kew.org/read-and-watch/sweet-taste-dead-mans-finger]は「とても優しく控えめな甘みで、メロンやキュウリ、ライチを思わせる風味がある」と高評価を与えている。

 一方で、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学植物園の研究マネージャー、ダニエル・モスキン氏[https://web.archive.org/web/20110722230707/https:/botanicalgarden.ubc.ca/potd/2005/10/decaisnea_insignis.php]は「味は悪くないが、淡白であまり印象に残らない。食感はゼリーのようで面白い」と語る。

 植物データベース「Plants For A Future[https://pfaf.org/user/plant.aspx?latinname=Decaisnea+fargesii]」では「少し甘いが非常に淡白で、特においしいわけではない」と評価された。

 つまり、爽やかで優しい風味はあるが、強い香りや濃厚な甘さはなく、食用として好まれる果実ではなさそうだ。

 ただし注意が必要なのは、黒い種子の部分だ。果肉は食べられるが、種には軽い毒性があるとも言われており、安全性が十分に検証されていないため、口にしない方が良いとされている。

 果実を味わう機会があれば、ゼリー状の果肉だけを楽しむようにしたい。

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観賞用としての価値は高い

 デカイスネア・ファルゲシイは、そのユニークな果実のビジュアルから、観賞用植物として世界中の植物園や庭園で栽培されている。

 葉と果実のコントラストは美しく、特に秋にはひときわ目を引く存在となる。

 育てるには日向~半日陰の湿り気のある肥沃な土壌が適しており、寒冷地でも育てやすい。果実が実るまでには数年かかる場合もあるが、その怪しくも美しい姿に惹かれて栽培を始める人も少なくない。

 不気味な見た目と裏腹に、実際には食べられる果肉を持ち、しかも寒さにも強く、人の目を楽しませてくれる植物だ。

 もし庭に一本植える余裕があるなら、秋になるたびに話題をさらってくれる存在になるだろう。

 特にハロウィンの時期に果実を身に着けるんだから、野外デコレーションの1つにくわわりそうだ。

 日本でも通販などで「ブルーソーセージフルーツの種」として販売されている。

Amazon : ブルーソーセージフルーツの種(30粒)

References: KEW[https://www.kew.org/read-and-watch/sweet-taste-dead-mans-finger] / Thomasdstone[https://thomasdstone.blog/2017/10/16/plant-of-the-week-decaisnea-fargesii/] / PFAF[https://pfaf.org/user/plant.aspx?latinname=Decaisnea+fargesii]

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