尻尾で葉っぱをくるんと巻いて。キタオポッサムの巣材運びがかわいい
North Carolina Museum of Natural Science/Youtube

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 森の中に設置されたカメラがとらえたのは、お尻に大量の葉っぱをくっつけた、おとぼけ顔の動物がトコトコと歩いている姿だ。

 この動物は中央アメリカから北アメリカに生息するオポッサムの仲間「キタオポッサム」だ。

 歩いている途中にくっついちゃったのかな?それとも大きく見せるための飾りなのかな?と思うかもしれない。だがそうじゃない。

 実はこれ、高性能の尻尾を器用に使い、巣材になる葉っぱや小枝を巻き付けて、せっせと巣穴に運んでいるのだ。

 その一所懸命な姿はとてもかわいくて、とてもユーモラス。今回はキタオポッサムの「葉っぱ運搬術」に迫ってみよう。

器用な尻尾に巣材を巻きつけ、巣穴まで運ぶ

 北米唯一の有袋類である「キタオポッサム」の最大の特徴のひとつは、なんといってもその器用な尻尾にある。

 尻尾にはほとんど体毛がなく、表面はざらついたうろこ状の皮膚に覆われており、筋肉もよく発達している。

 木の枝に巻きつけて体を支えたり、バランスを取ったりするのはもちろん、物をつかむ能力も持ち合わせている。

 この尻尾の機能をフル活用し、葉っぱや枝などの巣材を巻きつけて巣穴まで運ぶという、「巣材運搬術」を行うのがキタオポッサムだ。

 そのやり方はというと、まずキタオポッサムは口で落ち葉や小枝を拾う。それを前足でつかむと、体をまたぐようにして後ろ足へと渡していく。

 そして、あらかじめくるんと輪のように巻いておいた尻尾の中に、巣材を押し込んでしっかりと固定する。その一連の動作は驚くほどスムーズだ。

 こうして尻尾に巣材を巻きつけると、おしりに大量の落ち葉をくっつけたような姿となり、そのままよたよたと巣穴に向かって歩き出す。

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 この「巣材運搬術」は、他のオポッサムや有袋類ではほとんど確認されておらず、キタオポッサム特有の習性だと考えられている。

 もちろん、運搬中にポロポロ落としてしまうこともあり、何度も拾い直しながら巣穴と巣材置き場を往復する。その一生懸命な姿に、ハラハラしながらつい応援したくなってしまう。

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せっかく作った巣も2~3日で住み替え

 こうしてせっせと巣作りをするのだが、彼らは一か所に長くとどまることがない。多くの場合、巣穴には2~3日しか滞在せず、すぐに次の場所へと移動する。そのたびに、新しい巣を用意しなければならない。

 それでも、ただ適当に落ちているものを運び入れているわけではない。

 キタオポッサムは巣材をきちんと選んでいる。寒さをしのぎ、外敵から見えにくくするために、断熱性や隠れやすさを重視して素材を選んでいるのだ。

 自然の素材では、枯葉や小枝を中心に使うが、ビニール袋や衣類の切れ端など、人間が捨てたものの中から、使えそうな素材を選んで持ち帰ることもある。

 巣穴にたどり着くと、キタオポッサムはまず自分の体をぐいっと押し込む。入り口はせまく、中は体にぴったり合うサイズになっている。

 中に入った後、尾に巻きつけていた巣材をひきずり込み、入り口をふさぐように詰め込む。

 こうして、外からは中の様子が見えにくくなり、寒さも防げるようになる。

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カサカサ音も警報装置に。眠りながら身を守る工夫

 キタオポッサムは夜行性のため、昼間は巣の中で眠っている。その間、身を守る手段は限られているが、素材の「音」をうまく利用している。

 たとえば、入り口付近に音の鳴りやすい落ち葉をあえて配置しておくと、誰かが近づけばカサカサと音がする。すると、熟睡中のキタオポッサムも異変に気づき、目を覚ますことができるのだ。

 逆に、外から聞こえる草刈り機の音、子どもが遊ぶ声、犬の鳴き声、エアコンの作動音などにはあまり反応しない。そうした音は日常の背景音として区別されているらしく、多少にぎやかでも安心して眠っていられるようだ。

 こうした巣作りの工夫と音への敏感さは、自然の中で生き延びるために編み出された知恵でもある。

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小さな体に詰まった、たくましい知恵

 キタオポッサムの葉っぱ運搬術は、見た目のかわいさだけでなく、移動生活に適応するための実用的な行動だ。

 何度も巣を作り変え、毎回必要な素材を選び、尻尾を使って効率よく運び、身を守る仕組みまで備える。

 そのすべてが、限られた体の機能を最大限に活かす工夫に満ちているのだ。

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キタオポッサムとは?

 キタオポッサム(学名:Didelphis virginiana)は、北アメリカから中央アメリカにかけて広く分布する、オポッサム属の有袋類だ。

 アメリカ合衆国、カナダ南部、メキシコをはじめ、グアテマラ、ベリーズ、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ北部などに生息している。

 アメリカ西部には元々生息していなかったが、人為的に移入された個体が野生化し、現在ではカナダ南西部にまで分布を広げており、北米唯一の有袋類となる。

 体長は頭胴長約35~55 cm、尾長25~50 cm、体重は約0.8~6.4 kgほど。灰色の体毛と、長くて裸の尾が特徴的で、見た目はネズミを大きくしたようにも見える。

 雑食性で、果実、昆虫、小動物、卵、死肉、さらには人間の出す生ごみまで、環境に応じてあらゆるものを食べる。

 夜行性で単独行動を好み、天敵に襲われると、「死んだふり」をすることでも知られている。

 これは、体を硬直させ、口を開け、ヨダレを垂らし、お尻から悪臭を放って、まるで死体のように見せかける防御行動だ。

 数分から数時間そのまま動かないこともあり、これによって多くの捕食者の興味をそらすことができる。

 寿命は野生で平均2~4年、飼育下では最大8年程度とされている。交通事故や捕食による死亡率が高いため、寿命は比較的短い。

 個体数は明確な推定値はないものの、非常に順応性が高く、生息域を広げており、現在はアメリカ合衆国内の都市部や郊外にも多数生息している。

 アメリカでは都市部の裏庭やごみ置き場でも見かけることがある身近な野生動物だが、その暮らしぶりを知ると、見た目のとぼけた印象とは裏腹に、たくましさと知恵に満ちた生き方をしていることがわかる。

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