インドで発見された新種の巻貝に「宮崎駿」氏の名にちなんだ学名が付けられる
image credit: <a href="https://conchsoc.org/sites/default/files/jconch/45/4/2025-45404.pdf" data-type="link" data-id="https://conchsoc.org/sites/default/files/jconch/45/4/2025-45404.pdf" target="_blank">Amrut Bhosale et al., 2025, Journal of Conchology</a> <a href="https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/" data-type="link" data-id="https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/" target="_blank">CC BY 4.0</a>

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 インド・マハーラーシュトラ州の森の中で、新種の陸生巻貝が発見され、「ラゴチェイルス・ハヤオミヤザキ(Lagocheilus hayaomiyazakii sp. nov.)」と命名された。

 この名前は「人間と自然のつながりを描き続けてきた宮崎駿監督の世界観に敬意を表して」つけられたものだという。

 インドの森に棲む、巨匠の名を冠した小さな生き物。その正体に迫ってみよう。

  この研究成果は英国・アイルランド貝類学会の学術誌『Journal of Conchology[https://conchsoc.org/sites/default/files/jconch/45/4/2025-45404.pdf]』(2025年10月14日)に掲載された。

インドで発見された新種の「ヤマタニシ」

 この新種は、インドの自然保護NPO「タッカレー野生生物基金[https://thetwf.org/](TWF)」の研究チームがスリランカの研究者と共同で発見し、認定されたものである。

 TWFはインド亜大陸の西海岸に沿って走る西ガーツ山脈で生物多様性調査と保全を柱に活動しており、今回の発見もそのフィールドワークから生まれた。

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 今回発見された新種は、正確に言うとカタツムリではなく、ヤマタニシの仲間である。この2種は陸に住む貝という点では似ているが、種としてはちょっと違う。

 カタツムリは「柄眼目」に属しているが、ヤマタニシは「原始紐舌目」で、この2種にはいくつかの明確な違いがある。

カタツムリ(柄眼目)
・蓋がない(乾燥時は粘液の膜で殻口をふさぐ)
・目は大小2対のうち、大きい方の触角の先端にある(小さい方は嗅覚器官)
・肺を使った空気呼吸(陸上生活に適応)
・雌雄同体(1個体にオスとメスの生殖器がある)

ヤマタニシ(原始紐舌目)
・蓋がある(殻口を完全に閉じて水の外でも乾燥を防ぐ)
・目は1対で触角の根元にある
・外鰓(がいさい)を使った水中呼吸(外套腔内に鰓をもつ)
・雌雄異体(オスとメスが別々)

 このヤマタニシ科のLagocheilus属は、これまで下の地図にある赤く塗られた部分で確認されていたそうだ。

 今回新たに新種が発見されたのは、マハーラーシュトラ州のティラリという場所で、地図上では黄色い星で示されている地点である。

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 本種は西ガーツ山脈北部におけるLagocheilus属の初めての記録であり、その分布域をこれまでよりも約540kmも北拡大したことになる。

 採取された個体の殻の大きさは4.2~5.6mm、幅は4.1~5.2mmで、指先にちょこんとのるほど小さい。若い個体はその表面に産毛のような短い毛が生えているのが特徴だ。

 新種とされた根拠は、これで知られていた近縁種とは殻の形や表面の構造、上記の産毛の有無など明確な違いがあったためである。

 ヤマタニシの仲間には、「フチカザリヤマタニシ(Scabrina laciniata)」など、毛の生えた種が存在するが、Lagocheilus属で確認されたのはこれが初めてのようだ。

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「自然とのつながり」に敬意を表し、宮崎駿氏の名を献名

 TWFの研究チームは、この新種になぜ宮崎駿氏にちなんだ名前が付けられたかについて、次のように語っている。 

この驚くべき陸生巻貝はティラリの半常緑樹林に生息しており、西ガーツ山脈の森の葉の茂った茂みや岩場で見られます。

今回発見された新種は、伝説的な日本のアニメーターで映画監督、そしてスタジオジブリの共同創設者である宮崎駿氏にちなんで名付けられました。

彼の映画は人間と自然のつながりを美しく捉えており、まさにこの発見は、私たちの森に隠された驚異を明らかにするものだからです

 TWFの創設者であるテジャス・タッカレー氏は、この新種の生息地は非常に限られており、森林伐採や山火事の脅威にさらされているとし、このまま生息地の縮小が続けば、絶滅の危機に瀕する可能性があると警告した。

 さらに、地元の生態系におけるこの陸生巻貝の役割と、西ガーツ山脈におけるこのような固有の種を保護することの重要性を理解するためには、さらなる研究が必要だと付け加えた。

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他にもある、有名人の名前が献名された生き物たち

 ところで宮崎駿氏本人は、自分の名前が新種のヤマタニシにつけられたことをご存じなのだろうか。

 動植物の学名をつける場合、「献名」と言って、有名人や命名者にとっての恩人など特定の個人の名前をつけることがある。

 もちろん、有名人やスターの名前を献名することも行われていて、例えばこんな人たちの名前が学名に登場している。

クモ
Calponia harrisonfordi(ハリソン・フォード)
Kootenichela deppi(ジョニー・デップ)
Eriovixia gryffindori(ハリー・ポッターの「グリフィンドール」)
Heteropoda davidbowie(デヴィッド・ボウイ)
Pachygnatha zappa(フランク・ザッパ)


Agra schwarzeneggeri(アーノルド・シュワルツェネッガー、甲虫)
Neopalpa donaldtrumpi(ドナルド・トランプ、蛾)
Kaikaia gaga(レディーガガ、ツノゼミ)
Scaptia beyonceae(ビヨンセ、ウマバエ)
Pheidole harrisonfordi(ハリソン・フォード、蟻)
Aedes (Finlaya) togoi(東郷平八郎、蚊)

その他
Gnathia marleyi(ボブ・マーリー、ウミクワガタ)
Tachymenoides harrisonfordi(ハリソン・フォード、蛇)
Sibon irmelindicaprioae(レオナルド・ディカプリオ、蛇)
Phyllonastes Dicaprioi(レオナルド・ディカプリオ、カエル)
Hucho perryi(ペリー提督、イトウ)
Aegrotocatellus jaggeri(ミック・ジャガー、三葉虫の化石)

 基本的に、献名する際は、由来となる人物本人の許可は必要ないそうだ。だが現実には後でいろいろ揉めることがあるので、存命の人物の名前をつける場合、事前に了解をとっておいた方が良いだろう。

 例えば2016年、自分が発見した新種の昆虫に、中国の習近平国家主席の名前を献名した中国人の研究者がいたのだが、中国当局によって国内のネット上からその情報が削除[https://www.afpbb.com/articles/-/3093699]されてしまったらしい。

 今回の新種に関して、宮崎駿氏がご存じかどうかはわからないが、もしご本人がこのヤマタニシに出会った時、森に棲む新しいキャラクターが生み出されたりしたらいいな。

追記(2025/10/28)カタツムリとヤマタニシの違いの項目に誤りがあったため、訂正して再送します。

References: Researchers discover new species of hairy snail in Tilari forest region[https://timesofindia.indiatimes.com/city/kolhapur/researchers-discover-new-species-of-hairy-snail-in-tilari-forest-region/articleshow/124587995.cms]

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