太陽系外からやってきた恒星間天体「3I/ATLAS」が、新たな変化を見せた。2025年7月から8月にかけて、この天体には太陽方向に伸びる尾が出現していたのだが、9月には尾の向きが反転したことがアメリカの研究者により確認された。
彗星のように塵やガスを放出していたことから、この天体は「彗星状の恒星間天体」とも呼ばれている。
その尾の向きが切り替わった理由について、天文学者の多くは自然な塵の挙動である可能性を示しているが、一部の研究者は、これは宇宙船の減速による噴射痕ではないかという説を唱えている。
太陽系外からやってきた恒星間天体「3I/ATLAS」
3I/ATLASは、2025年7月にハワイの望遠鏡ネットワーク「ATLAS」によって発見された天体だ。
太陽系の重力圏に入り込む一方で、明らかに太陽系外から飛来した軌道をたどっていることから、恒星間天体として分類された。
これまでに観測された恒星間天体は、2017年の「1I/オウムアムア」、2019年の「2I/ボリソフ」に続く3例目である。
この天体は、直径が数kmと推定されており、太陽に接近するにつれ表面から彗星のようにガスや塵を放出する活動も観測されている。
さらに、太陽系に入る以前は推定で約10ケルビン(-263℃)という極低温環境に数十億年さらされていた可能性があり、「銀河のタイムカプセル」としての注目も集まっている。
太陽方向に伸びる尾「アンチテイル」
発見から間もない2025年7月から8月にかけて、天文学者たちは3I/ATLASに奇妙な構造を観測した。尾のような塵の帯が、通常の彗星とは逆に太陽の方向に向かって伸びていたのである。
一般的に彗星の尾は、太陽の放射圧や太陽風によって押し流され、太陽と反対方向に伸びる。だがこの天体では、太陽側に尾のような構造「アンチテイル(反尾)」が出現していた。
この現象には二つの可能性がある。
ひとつは、地球から見た位置関係によって尾が太陽の方向にあるように見えてしまう視覚効果であり、多くのアンチテイルはこのタイプである。
欧州宇宙機関(ESA)は、「時折、彗星には太陽の方を向いているように見える『第三の尾』が現れることがあるが、これは『アンチテイル』と呼ばれ、実際には太陽と反対方向に伸びている尾が、地球からの見え方によって中心をはさんで左右に広がって見える錯覚である」と説明している[https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Rosetta/Comets_an_overview]。
もうひとつの可能性は、実際に塵の構造が太陽方向に広がっている「本物のアンチテイル」である。今回の3I/ATLASに関しては、本物のアンチテイルの可能性が高いとされている。
ハーバード大学のアヴィ・ローブ博士とエリック・ケト博士による、査読前の論文[https://arxiv.org/pdf/2509.07771]によれば、3.8天文単位(太陽からの距離約5.7億km)で観測された際、コマ(彗星のガス状の大気)は、明らかに太陽方向に細長く伸びており、これは単なる視覚効果では説明できない「真のアンチテイル」の可能性が高いという。
似た現象は1974年にも記録されていた
とはいえ、アンチテイルの観測例がまったく前例のないものかというと、そうではない。ペンシルベニア州立大学のジェイソン・ライト教授は、1974年に地球に接近したコホーテク彗星でも同様の構造が観測されていた[https://sites.psu.edu/astrowright/2025/09/29/3i-atlass-anti-tail-isnt-unique/]ことを指摘している。
コホーテク彗星は1973年3月7日にチェコの天文学者、ルボシュ・コホーテクによって発見された非周期彗星(一度太陽に接近した後は二度と戻ってこないか、戻るとしてもそれは数十万年も先になる)である。
さらに、NSF(米国国立科学財団)のマイケル・ブッシュ博士[https://bsky.app/profile/michael-w-busch.bsky.social/post/3lzwibrksac2l]は、「彗星の核が回転している場合、塵やガスの噴出が核の前方・後方のどちらにも起きうる」とし、太陽風で押し流される前の大きな粒子が、軌道に沿って広がることでアンチテイルのように見える可能性を説明している。
こうした粒子は、最終的に流星群の母体となる「流星体の帯」を形成することがある。
尾が彗星と同じ通常の向きへ変化
その後、9月に入ると、3I/ATLASの尾は太陽と反対側へと変化したことが、アメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校の物理天文学部教授、デイビッド・C・ジュイット氏と、天文学者であるジェーン・X・ルーの研究によって明らかになった。
一般的な彗星で見られるような、太陽風によって後方へ流れる塵の尾が優勢になっていたことが、スペイン領カナリア諸島の北欧光学望遠鏡などの観測によって確認されたのだ。
太陽に向かっていた異例の尾「アンチテイル」は消え、一般的な彗星と同じように、尾が太陽から背を向ける形で形成されるようになったのである。
この変化は、放出された塵の性質によって説明できると考えられている。
ローブ博士らの分析[https://avi-loeb.medium.com/the-anti-tail-of-3i-atlas-turned-to-a-tail-9ad2479b6633]では、この変化は放出された塵の性質によるものだという。半径100μmほどの大きめの粒子が、約5m/sという低速で放出されたため、太陽からの放射圧に反応するのに時間がかかった。
これにより、最初は尾が太陽方向に見え、その後になってから通常の尾が形成されたというのだ。
また、NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などによる光の分析(スペクトル観測)から、この天体が太陽に近づくことで二酸化炭素がガスになって噴き出していることがわかった。
これは、一般的な彗星でよく見られる「水の蒸発」とは異なる特徴で、3I/ATLASが太陽系外のとても寒い場所で生まれたことを示している。
ローブ博士の異説「宇宙船説」も再浮上
一方で、ローブ博士は、より突飛な可能性にも言及している。
同博士はこれまでも「オウムアムア」について人工物の可能性を示唆していた一人で、今回の尾の変化についても、「もしこの天体が減速中の宇宙船で、アンチテイルがブレーキの噴射痕だったとしたら、近日点に近づいたタイミングで尾の向きが変わるのは予想通りだ」と語っている。
これは、「テクノシグネチャー(高度文明の痕跡)」の可能性を示す現象であり、人工的な制御による減速や軌道変更の兆候としても捉えられるという。
もっとも、NASAやSETIを含む大多数の天文学者たちは、この天体が通常の彗星的な性質を持つ自然物であると考えており、「宇宙船説」はあくまで極端な仮説にとどまっている。
この貴重な観測のチャンスは間もなく終わる
3I/ATLASは、今後も太陽に近づき、10月29日には近日点を通過する予定だ。その後は観測しづらい位置へと移動するが、12月には再び地球から観測可能になる見込みで、さらに詳しい分析が期待されている。
なお、この観測と分析に関するプレプリント論文は、『「arXiv[https://doi.org/10.48550/arXiv.2510.18769]』(2025年10月21日付)に投稿されている。
References: Arxiv[https://arxiv.org/abs/2510.18769] / Interstellar Object 3I/ATLAS's Tail Appears To Have Changed Direction[https://www.iflscience.com/interstellar-object-3iatlass-tail-appears-to-have-changed-direction-81295]











