サメの中でも特に巨大で、映画『ジョーズ』のモデルにもなったホホジロザメ。その名前に恐ろしいイメージを抱く人は少なくないだろう。
思わず「逃げて~!」と思わず叫びそうになる映像が話題となっている。カリフォルニア沖でカヤックに忍び寄るホホジロザメ。だがサメにカヤックを襲う気配はまったくない。
このサメは2025年に入ってから何度もカヤックに近づいている同じ個体だという。カヤックを認識しているようだ。挨拶するかのように近づき、そばを泳ぐのを楽しんでいる様子だ。
見覚えのあるホホジロザメ、何度もカヤックのそばに現れる
映像を撮影したのは、海洋生物の観察と記録をライフワークにしているカルロス・ガウナさん。彼はこれまでにも何度か、このホホジロザメと遭遇していた。
「今年だけで数回見ている。このサメは、模様も体の形も動き方も同じなんだ。性格も他のサメと比べて好奇心旺盛だ」
今回の映像でもそのサメは、特に警戒する様子もなくカヤックに接近し、しばらくその横を泳ぎ続けた。威嚇や攻撃の兆候は一切見られなかったという。
ホホジロザメが人に近づく理由
ホホジロザメは、その大きさやメディアの影響で「人を襲う恐ろしいサメ」として知られているが、実際には彼らが人間を「獲物」と認識して襲うケースは極めて少ない。
研究者たちは、ホホジロザメが人間に近づく理由の多くを、好奇心や誤認による接近と考えている。
ホホジロザメによる人間への攻撃は世界全体で年間10件未満とされており、そのほとんどが「食べられるかどうか試し噛んでみた」ことによるものだという。
サーフィン中の人間の姿勢やウェットスーツ、足ヒレの動きが、ホホジロザメにとって、獲物であるアザラシやオットセイに見えることがあるという。
また、船から飛び込む音や、サーフィン中のパドリングの音も、アザラシが出す音に似ているため、獲物と勘違いして寄ってくることがある。
それでも稀に空腹である場合や、危険を感じた場合は人を襲うこともある。その場合、大きな顎、鋭い歯、捕食能力の高さから、致命的な傷を負うことも少なくない。
好奇心旺盛、ホホジロザメのもう一つの顔
今回のケースでは、人間側が接近してくるホホジロザメが同じ個体であることを認識できていた。そのため、ある程度行動を予測でき、サメに襲う意図がないことが分かっていたからこそ、至近距離での接近にも冷静に対応できたのだという。
では、なぜホホジロザメは同じカヤックに近づいたのだろうか? それは、このサメの持つ高い好奇心と認知能力によるものかもしれない。
近年の研究[https://www.researchgate.net/publication/365471146_Smart_sharks_a_review_of_chondrichthyan_cognition]では、個体差はあるものの、サメ類にも学習や記憶といった認知能力[https://xray-mag.com/content/cognition-sharks]があることが報告されている。特定の物体や環境に慣れたり、過去の経験を通じて「危険ではない存在」と判断する個体もいるとされる。
ホホジロザメは、音や振動、電気信号を感じ取る高度な感覚器官を持ち、周囲の状況を非常に繊細に把握している。
今回の個体も、これまでの接近で何も起こらなかったことを学習し、このカヤックを“危険ではない対象”として認識していた可能性がある。
まるで見覚えのある対象に再び近づいていく行動は強い好奇心の現れであり、私たちが普段知ることのない、彼らのもう一つの顔を見せてくれたのかもしれない。
ホホジロザメについて
ホホジロザメは、ネズミザメ目ネズミザメ科に属する大型の肉食性サメで、世界中の温帯海域に広く分布している。日本近海でも稀に目撃されている。
体長は平均4~5m、大型の個体では6mを超え、体重は1tを超えることもある。地球上で最大の肉食魚類とされる。(シャチも大きいが哺乳類だ)
流線型の体と強力な尾びれをもち、時速60km以上で泳ぐことができる。
背中は灰色、腹は白く、この体色のコントラストが「ホホジロ(頬白)」という名前の由来となっている。
主な獲物はアザラシやオットセイなどの海生哺乳類で、若いうちは魚やエイなども捕食する。
寿命は長く、メスは最大70年近く生きるとされているが、成熟に時間がかかるうえ、産む子の数も少ない。そのため、個体数の回復が困難とされている。
現在、ホホジロザメは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に分類されており、乱獲や混獲、フカヒレ漁などが生息数減少の主な要因となっている。
References: Youtube[https://www.youtube.com/watch?v=RhFUvVZLnUQ]











