指を折って皮膚から突き出し爪代わりに。ケガエルの驚きの生存戦略

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 中央アフリカの川辺に生息するケガエルは、我々の想像をはるかに超える生存戦略を持っている。

 外敵に襲われると、足の指の骨を自ら折り、皮膚を内側から突き破って爪を作り出して、闘うための武器にするのだ。

 生き延びるためなら、自分の身体を傷つけることもいとわない。このカエルはそうやって、これまで種としての命を繋いできたのだ。

体表に生えた「毛」で呼吸するケガエルのオス

ケガエル(学名:Trichobatrachus robustus)は中央アフリカ(カメルーン、コンゴ民主共和国、ガボン、赤道ギニア、ナイジェリア、アンゴラなど)に生息するサエズリガエル科のカエルで、体長は約8~13cm。オスの方がメスより一回り大きい。

 ケガエルの名前の由来となっている毛のようなものは、皮膚の突起物が繊維状に伸びたもので、オスだけに生じる。

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 この突起には細い動脈が通り、体表面積をふやすことで水中での酸素の取り込みを助ける役割があると考えられている。

 カエルは肺だけでなく皮膚からも水中の酸素を吸収して呼吸している。

 ケガエルは森林の湿地帯や川沿いで生活しており、基本的には陸生だが、オスは水場で過ごす時間が長く、繁殖期には卵を守るため長時間水中にとどまることがあり、通常の皮膚呼吸だけでは酸素が不足しやすい。

 その不足分を補うために、この「毛」が発達したとみられている。

 一方、メスは長時間水に潜り続ける必要がないため、この“毛”を持たない。  

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危険が迫ると自分の骨を「爪」に変えて武器にする

  ケガエルは英語では「ヘアリー・フロッグ(毛深いカエル)」と呼ばれるほか、マーベルコミックのスーパーヒーローにちなんで「ウルヴァリン・フロッグ」というニックネームでも知られている。

 映画でも人気のウルヴァリンは鋭い爪を武器に戦うヒーローだが、このカエルがそう呼ばれるのにはわけがある。

 ケガエルも敵に襲われると“爪”を繰り出して応戦するのだ。これはオスだけでなくメスにも備わった防御能力で、繁殖とは関係のない生存のための仕組みである。

 ただし、ケガエルが繰り出すのは、我々が知るような「爪」ではない。

 指先の骨の先端が皮膚を突き破って外へ飛び出すもので、通常の爪のようなケラチンではなく、骨そのものだ。

 この骨の角は普段はコラーゲン質の鞘におさまっており、強い刺激を受けると筋肉が緊張して鞘が裂け、骨が皮膚を破って飛び出す。

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自らの骨を折って身を守る究極の防御戦略

 ケガエルの“骨の爪”についての研究は、アメリカのハーバード大学の研究チームによって行われ、2008年に『Biology Letters』[https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2610158/]誌に発表された。

 論文では、このカエルが外敵に襲われると自ら骨を折り、皮膚を突き破って爪のような武器を繰り出すという極端な防御戦略をとることが示されている。

 その中で、「カエルは自ら骨を折り、皮膚を突き破って爪を繰り出す」と説明されており、極端な防御戦略の一種であるとされている。

 危険が去ると、「爪」は傷ついた組織が回復し、骨が自然に元の位置に戻るのだが、それまでは突き出た状態のままだという。

 つまり、猫の爪のように出したり引っ込めたりが自在にできるわけではなく、危険が去ってもしばらくの間は出しっぱなしになるというわけだ。

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 両生類の形態学を研究している生物学者、デイビッド・ブラックバーン氏はこのように説明している。

これは暴力的ではありますが、非常に効果的な適応でもあります。このカエルは生き延びるために、ほんの少しの「快適さ」を犠牲にしているのです

 論文には、硬い骨でできた「爪」は、捕食者の皮膚を切り裂くほど鋭利であることも明記されている。

 実際にカメルーンやコンゴの住民たちは、このカエルを相手にする時は、素手だとケガをする恐れがあることから、槍やマチェーテなどの武器を使うのだそうだ。

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非常事態にのみ使う奥の手ならぬ骨の爪

 ケガエルがこの「爪」で相手を攻撃するのは、あくまでも危険が迫って追い詰められて時であり、基本的には大人しい性質のカエルなのだという。

 武器としての「爪」を使うのは、本当に追いつめられたときだけ。つまりこれは「攻撃」ではなく「最後の手段としての自己防衛」だと言えるだろう。

 なぜこのカエルが、自分の骨を武器として使うようになったのか、詳しいことはまだわかっていない。

 骨を「爪」として使った後、驚異的なスピードで周囲の組織が再生し、傷が埋め戻されることはわかっているが、その理由もまだ解明されていないのだ。

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 自らを傷つけてでも生き延びるという戦略は、迅速な組織再生能力があってはじめて成り立つものだ。

 小さな代償を伴う防衛戦略その迅速な治癒力こそが、この種がこれまで生き延びて来られた秘密なのかもしれない。

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 さて、このケガエルだが、日本でもペットとしてたま~に流通しているので、両生類を扱っているペットショップに行くと実物を見ることができるかもしれない。

 水槽には水場と陸地を両方用意してやればOKだが、飼育するのは少々難易度が高いカエルだと言われている。

 ネットを探すとケガエルを実際に飼育している様子なんかも出てくるので、興味のある人は見てみてほしい。

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References: This Frog Breaks Its Own Bones to Get Wolverine Claws[https://www.vice.com/en/article/this-frog-breaks-its-own-bones-to-get-wolverine-claws/?]

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