アフリカ・ケニアにある野生動物の保護施設に、母親を失ったシマウマの赤ちゃんが保護された。ボンビと名付けられたその子は、ライオンの襲撃で母親を目の前で失い、自身も命からがら逃げ延びたという。
深い恐怖と心の傷を負ったボンビを、どうにかして安心させたい。そう考えた飼育員たちは、ボンビに仲間がいると思ってもらえるよう、ゼブラ柄(シマウマ模様)のコートを身につけてお世話をするという方法を試みた。
その作戦は見事に功を奏し、ボンビは少しずつ心を開いていった。今では保護施設にいる他の動物たちと仲良く過ごしながら、のびのびと日々を送っているという。
母を目の前で失った孤児のシマウマの赤ちゃん
2025年初頭、ケニア、ナイロビ近郊にある野生動物保護施設「シェルドリック・ワイルドライフ・トラスト[https://www.sheldrickwildlifetrust.org/]」に、まだ生まれたばかりの小さなシマウマの赤ちゃん、ボンビ(メス)が保護された。
保護直前、ボンビの母親はライオンに襲われ目の前で命を落としていた。ボンビ自身もかろうじて攻撃から逃れることができたが重症を負った。
そして彼女は、母を失った喪失感と、襲われた時の恐怖から、身体だけでなく心にも大きなダメージを受けており、施設に着いた当初、怯えて飼育員たちに近づこうとしなかった。
スタッフたちはボンビの心と体を癒し、彼女が安心して暮らせるにはどうすればいいかを考えた。
そこで、ボンビと接する飼育員はもれなくシマウマと同じ模様のコートを着ることにしたのだ。
シマウマは視覚で母親を認識する
シマウマは、視覚を頼りに暮らしている動物である。とくに赤ちゃんシマウマは、生まれてすぐに母親の体にある「縞模様」を目に焼きつけ、そのパターンを手がかりに母親を識別し、安心を得るとされている。
とはいえ、視力そのものが非常に優れているわけではない。人間ほど細かく色や形を判別できるわけではなく、どちらかといえばコントラスト(白と黒のはっきりしたパターン)や動きに敏感で、縞模様のような明暗の差を認識する能力に長けている。
視野は非常に広く、ほぼ340度を見渡せるが、これは敵から身を守るための草食動物としての適応だ。
飼育員たちは、シマウマの赤ちゃんが安心できる縞模様(ゼブラ柄)を身に着けることで、ボンビを怖がらせずにお世話ができるんじゃないかと考えたのだ。
作戦成功!ゼブラ柄のコートを着た飼育員に自ら寄ってくるように
この方法は想像以上に効果を発揮した。
最初はおそるおそる近づいていたボンビだが、日を追うごとに自分からすり寄ってくるようになった。
施設では複数の飼育員が交代でボンビの世話をしているが、誰もがゼブラ柄の衣服を着用して接するようにした。
これは、特定の人物に依存させることなく、「縞模様」=安心できる相手として認識させるためだ。
また、飼育員がいないときでも安心できるように、ゼブラ柄のコートをボンビの囲いの中に常に置いておく工夫も施された。
実際、ボンビはこの“模様の布”に寄り添って眠ることもあったという。
この取り組みは、シマウマが視覚で世界を認識するという本質に寄り添った方法で、ボンビは次第に恐怖心を和らげていった。
同じゼブラ柄でも一人だけ特別な飼育員
ボンビは、世話をしてくれる保護施設のゼブラ柄飼育員全員と絆を深めているが、やはり彼女にも好みがあるようで、ピーターさんという飼育員に特別な思いを寄せているという。
ピーターさんが姿を見せると、ボンビはすぐに駆け寄り、全身を使って甘えるように体をすり寄せる。
ピーターさんはそんなボンビを、たっぷりと時間をかけてなでてやり、首や背中をやさしく撫でるともううっとり。ボンビは彼に撫でてもらうのが大好きなのだ。
施設スタッフは、「もし可能なら、ボンビはピーターのコートの中に潜り込みたいと思っているんです。
他の動物たちとも仲良しに、新たな日常が始まる
ボンビが救出されてから6か月が経った。ボンビには、人間の友達だけでなく、たくさんの動物の仲間たちもできた。
シェルドリック野生生物保護団体のスタッフは、彼女を孤児になった他の動物の赤ちゃんたちの小さな「群れ」に紹介したのだ。
様々な種の赤ちゃんたちからなるその群れは、ボンビを温かく迎え入れてくれた。
今、保護施設に初めて来たときの、怪我を負っておびえていた赤ちゃんの姿はない。友達と走り回ったり、土の上を転げ回ったり、飼育員、特にピーターさんと仲良く過ごしたりしながら、毎日を過ごしている。
不安と孤独の中で始まったボンビの生活は、今では仲間に囲まれた穏やかな日々へと変わったのだ。
飼育員たちによる24時間体制のお世話のおかげで、ボンビは見事に回復したと、シェルドリック野生生物トラストは報告している。
ボンビが立ち直ることができた背景には、彼女の「目に見える世界」を大切にした飼育員たちの努力があったのだ。











