粘土層に保存された化石が、白亜紀の恐竜の本当の姿をリアルに蘇らせた
エドモントサウルス・アネクテンスの幼体のミイラ化石 / Image credit:University of Chicago Fossil Lab

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 約6600万年前を生きた草食恐竜エドモントサウルスの化石が、アメリカ・ワイオミング州の地層から発掘された。

 この化石は、死後まもなく粘土を多く含む堆積層の中で体全体が薄い粘土の膜に覆われた。

 そのため、この膜に皮膚のしわや肉の形、ウロコ、首のトサカ、尾のトゲ、そして蹄(ひづめ)の形まで、体の外側の構造がそのまま立体的に写し取られていた。

 シカゴ大学の研究チームは、この化石をもとに恐竜の本当の姿を、これまでで最も正確に再現することに成功した。

 この研究成果は科学誌『Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adw3536]』(2025年10月25日付)に発表された。

堆積層の粘土が写し取った恐竜の姿

 アメリカ西部、ワイオミング州東部の荒野には、20世紀初頭から恐竜の「ミイラ化石」と呼ばれる化石がいくつも見つかっている地層がある。研究者の間では「ミイラ・ゾーン」と呼ばれてきた場所だ。

 シカゴ大学のポール・セレノ博士率いる古生物学チームは、当時の発掘記録と写真を手がかりに現場を再調査し、この「ミイラ・ゾーン」から、若い個体と成体の中間にあたる2体のエドモントサウルス・アネクテンス(Edmontosaurus annectens)を新たに発掘した。

 発見された化石はいずれも、骨のまわりに皮膚の跡や体の形が広い範囲で残っていた。保存されていたのは、死後まもなく体表に形成された厚さ0.25mm以下の非常に薄い粘土の層だった。

 この粘土は、恐竜の皮膚や筋肉の凹凸を細部まで写し取っており、まるで立体鋳型のように機能していた。姿そのものは失われていても、表面の形状だけが仮面のように残されていたのである。

 こうした現象は、死体が日光で乾燥したあと、突然の洪水によって泥や粘土が一気に堆積するという特殊な条件のもとで起きたと考えられている。

 体表に形成された微生物の膜(バイオフィルム)が、静電気のように周囲の粘土粒子を吸着し、皮膚や筋肉の形を精密に写し取ったのだ。

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エドモントサウルスは蹄を持っていた

 研究チームは、CTスキャンやX線分析などの手法を使い、粘土膜に刻まれた立体的な外部構造を詳細に解析した。

 特に驚きだったのは、後ろ足の先端にウマのようなくさび型の蹄(ひづめ)が確認されたことだ。

 3本の指の先端それぞれが蹄に覆われており、この立体形状は、同じ時代の地層から見つかった足跡化石と寸法や角度まで一致していた。

 前足は蹄の先で地面を支え、後ろ足はその後方にある厚みのある肉のふくらみで体重を受け止めていたと考えられる。

 セレノ博士は「これらのミイラ化石によって、陸上脊椎動物として史上初めて、恐竜に“蹄”の存在が確認された」と語っている。

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粘土膜が写し取った本当の姿

 蹄のほかにも、粘土膜にはエドモントサウルスの外見を知る多くの手がかりが残されていた。

 首から背中にかけては、背の中央に沿って筋肉がふくらみ、なだらかな線を描いていた。

 尾のつけ根に向かうにつれて、そのふくらみが細長い突起の列に変わり、尾の上では三角形のトゲが背骨1本ごとに対応して並んでいた。

 トゲはやや後ろ向きに傾き、互いに少し重なり合いながら一列に続いていた。この柔らかいトゲの列が背中から尾まで伸び、エドモントサウルス独特の背の形をつくっていた。

 体表には大小さまざまなウロコが広がり、その多くは直径1~4mmほどの小さな粒状のものだった。

 胴体の下部や尾の部分ではやや大きめの多角形のウロコが見られ、あばら骨の上には細かなしわが確認された。

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 これらの痕跡から、エドモントサウルスの皮膚は厚い装甲のようなものではなく、薄く柔軟性のある質感だったことが分かる。

 研究チームは、これらの立体的な痕跡をデジタル解析によって三次元的に復元した。首のトサカ、背中から尾にかけてのトゲ列、体を覆うウロコの配列、そして皮膚のしわのパターンまでが連続して再現された。

 これにより、骨格の推測に頼らず、実際の証拠に基づいて恐竜の体の外側の姿を描き出すことが初めて可能になった。

 セレノ博士は「これほど完全な外見情報をもつ大型恐竜の化石は、これまでに存在しなかった」と述べている。

 6600万年前を生きたこの草食恐竜の姿が、現代の技術によって立体的に蘇ったのである。

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恐竜の姿を再現する新たな手法

 恐竜の体を覆った薄い粘土膜は、6600万年前の一瞬をそのまま閉じ込め、皮膚のしわやトゲ、蹄の形まで写し取った天然の記録だった。

 研究チームは、この保存現象のプロセスを「粘土鋳型化(clay templating)」と名づけ、粘土が体表の形をそのまま写し取る、新しい化石復元の仕組みとして定義した。これにより、恐竜の外見を実際の証拠に基づいて再現できる道が開かれた。

 セレノ博士は「これは私のキャリアの中でも最高の成果のひとつだ。発掘から3D再構築まで、すべてが連携してひとつの物語を語ってくれた」と語っている。

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エドモントサウルス・アンネクテンとは?

 エドモントサウルス・アンネクテン(Edmontosaurus annectens)は、白亜紀末(約6600万年前)に北アメリカ大陸に生息していた、ハドロサウルス科の草食恐竜だ。

 体長は12mを超え、特徴的な平たいくちばしと多数の頑丈な歯を持ち、植物を効率よくすりつぶして食べていたと考えられている。

 名前の由来は、カナダ・アルバータ州の都市エドモントンにちなむ。二足歩行と四足歩行を併用していたと考えられており、同属には他にもエドモントサウルス・レガリス(E. regalis)などが存在する。

References: Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adw3536] / Uchicago.edu[https://biologicalsciences.uchicago.edu/news/dinosaur-mummies]

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