ココアに含まれるフラバノールが、座りっぱなしの健康リスクを軽減してくれる
image credit:unsplash <a href="https://unsplash.com/ja/@giancarloduarte" target="_blank">Giancarlo Duarte</a>

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 長時間座りっぱなしの生活が健康に悪いことは、もはや常識になりつつある。心臓病や脳卒中、糖尿病のリスクを高めるだけでなく、筋肉の衰えや肩こり、腰痛の原因にもなる。

 「座ることの悪影響」を防ぐには、こまめに立ち上がり、歩くことが推奨されているが、別の方法があるという。ココアを飲むのだ。

 イギリスのバーミンガム大学の研究によると、ココアに含まれる天然成分「カカオフラバノール」が、長時間座り続けた際に起こる血管機能の低下を防ぐことが確認された。

 興味深いのは、この効果が体力の高い人にも低い人にも共通して見られた点だ。今回の実験は18歳から45歳までの男性のみを対象に行われたが、デスクワークで働く人々にとっては希望を感じさせる研究だ。

 この研究は『Journal of Physiology[https://physoc.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1113/JP289038]』(2025年10月29日付)に掲載された。

座りっぱなしが体に良くない理由

 現代人の生活は「座り時間」が長くなっている。仕事でパソコンに向かい、車や電車で移動し、家ではテレビやスマートフォンを見ながら過ごす。だが、動かずに座っているだけでも体には確かな負担がかかっている。

 研究によると、座る時間が2時間増えるごとに肥満のリスクが23%、糖尿病のリスクが14%上昇するという。 さらに、加齢によって筋肉量と筋力が低下する「サルコペニア[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%9A%E3%83%8B%E3%82%A2]」のリスクも33%高まるとされる。

 血管の働きが悪くなるのも大きな問題だ。

 わずか1%の血管機能の低下で、心血管疾患(心臓病・脳卒中など)のリスクが13%上昇するという報告もある。

 さらにはうつ状態や不安を感じる頻度が高くなることも、2021年のアメリカの研究で指摘されている。

 これまで、「座りっぱなし」によるこれらのリスクを回避する方法として、座る時間を減らすこと[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/71/1/71_147/_article/-char/ja/]や運動習慣をつけることばかりが推奨されてきた。

 バーミンガム大学の研究チームは、食事を通じて血管を守る方法がないかを探るため、カカオフラバノールに着目した。

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カカオフラバノールとは

 カカオフラバノール(英: Cocoa flavanols)とは、チョコレートやココアの原料であるカカオ豆に含まれるポリフェノールの一種だ。ポリフェノールとは、植物が自分を守るために作り出す色や苦みのもとになる成分の総称で、古くから抗酸化作用などで知られてきた。

 カカオフラバノールはエピカテキンを主成分とし、これにカテキン、プロシアニジンで構成されている。プロシアニジンとは、エピカテキンとカテキンが手をつないで鎖のようになったものだ。

 欧州食品安全機関(EFSA)は、1日200mgのカカオフラバノールを摂取することが血管の柔軟性を保ち血流を正常に維持することを助けると意見している[https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/2809]。

 なお、フラバノールとは、カテキン類の総称である。カテキンと言えば緑茶を連想する人も多いだろう。確かに緑茶はコップ1杯(150mL)に対して120mgものカテキン類を含むが、そのうちエピカテキンはおよそ6%程度しかなく[https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/shokuhin-seibun/catechin.html]、カカオとは構成が大きく異なる。

 高カカオチョコレートの健康効果を調べた別の研究[https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/ptr.5665]では、ダークチョコレートそのものには血圧を下げる効果がなく、重要なのはエピカテキンの量であることが示されている。

カカオフラバノールを多く含むココアに大きな健康効果

 実験では、18~45歳までの健康な男性40人を対象に、最大酸素摂取量(VO2ピーク)によって体力の高いグループと低いグループに分け、それぞれにカカオフラバノールを多く含むココア(1杯あたり695mg、うちエピカテキンは150mg)、もしくはほとんど含まないココア(1杯あたり5.6mg)を一度に飲ませた。

 その後、2時間座り続けてもらい、腕や脚の血管機能を「上腕動脈血流依存性拡張(FMD)」という方法で測定した。

 なお、今回の研究では被験者がすべて若者から中年までの男性だった。研究チームによると、女性は月経周期によるエストロゲン(女性ホルモン)の変動が血管反応に影響を与える可能性があるため、今回は研究対象としなかったという。今後は女性や高齢者を含めた調査も行われる見込みだ。

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 実験の結果、カカオフラバノールを多く含むココアを飲んだグループでは、2時間座っても血管機能の低下は見られなかった。

 一方、カカオフラバノールの少ないココアを飲んだグループでは、腕や脚の動脈の拡張機能が低下し、血流が悪化、拡張期血圧が上がり、筋肉への酸素供給も減少した。

 共同研究者のサム・ルーカス教授はこう述べている。

体力が高い人でも、カカオフラバノールの少ないココアを飲んだ場合は、座ることで血管機能が一時的に低下しました。重要なのは、カカオフラバノールの多い飲料を摂取した人は、2時間座っても血管の働きが変化しなかったという点です

 つまり、体力の差よりもカカオフラバノール摂取のほうが、血管機能に大きく影響したということだ。

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ではどれくらい摂取すればよいのか?

 先ほども言及したが、EFSAはカカオフラバノールを1日あたり200mg摂取することが健康に寄与すると認可している。今回の実験では、それを大幅に上回る695mgを使用したが、まずは200mgを目安に摂取するのがいいだろう。

 ココアを選ぶ場合には、アルカリ処理(ダッチプロセス)が行われていないナチュラルタイプを選ぶほうが好ましい。アルカリ処理はココアのえぐみを減らすための工程であり、これによってカカオフラバノールの大部分が消失してしまう。「純ココア」「ピュアココア」を名乗っていても、実際にはアルカリ処理が行われているものが多いので注意が必要だ。

 アルカリ処理は19世紀のオランダ化学者バン・ホーテン[https://en.wikipedia.org/wiki/Coenraad_Johannes_van_Houten]が発明したもので、現在の「バンホーテン ピュアココア」もこの方法で処理されていると公式サイトに明記[https://www.kataoka.com/contact/vanhouten.html]されている。森永製菓のココアも製造工程のページ[https://www.morinaga.co.jp/yomu-cocoa/trivia/howto.html]でアルカリ処理を「行います」と記載されているが、一方で、ハーシーズのピュアココアは商品説明に「アルカリ処理をおこなっていない」と表示されている。

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 ただし、カカオフラバノールの含有量については明記されていない。ハーシーズの研究センターが出したある論文[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18710243/]によれば、アルカリ処理されたココアなら1杯(10g)あたり30~50mgであるのに対して、非アルカリ処理なら1杯あたり数百mgも含まれているそうだ。

 なお、こういったナチュラルタイプのココアはお湯や牛乳に溶けにくい傾向があるが、プロテインシェイカーなどで攪拌すれば比較的扱いやすい。スムージーに混ぜたり、カレーやビーフシチューの隠し味に使ったりもできる。

 より確実性を求めたいなら、カカオフラバノールの機能性表示食品である明治の「チョコレート効果 Wプラスカカオ72%」を食べる手もある。3枚(15g)あたり100mgのカカオフラバノールが含まれている。

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カカオ製品以外で補うには

 研究者のアレッシオ・ダニエレ氏は次のように述べる。

スーパーでもカカオフラバノールを多く残した加工方法のココア製品が手に入る。もしココアが苦手でも、エピカテキンのような成分は、果物やお茶を組み合わせることで簡単に取り入れられる。

 緑茶(煎茶)は濃さによるが1杯(150mL)あたり約5~10mgのエピカテキンを含む。リンゴには1個(200g)あたり約10~20mgのエピカテキンを含むが、そのほとんどはリンゴの果肉ではなく皮に含まれていることに注意が必要だ。

 何よりも継続的に摂取することが、座りっぱなしによる健康リスクを減らす現実的な方法かもしれない。

フラバノールとウォーキングで長期的な健康を支える

 さらに定期的に立ち上がったり歩くことでその効果が増す。

 主任研究者のカタリナ・レンデイロ准教授はこう締めくくっている。

座りがちな現代の生活では、フラバノールを多く含む食品や飲料を摂ることが、血管の健康維持に役立ちます。

さらに、短い散歩や立ち上がる時間を組み合わせれば、体力レベルに関係なく長期的な健康を支えられるでしょう

※コメントでのご指摘を受け、化学者バン・ホーテンに関して追記しました。

References: Birmingham.ac.uk[https://www.birmingham.ac.uk/news/2025/flavanols-in-cocoa-can-protect-blood-vessel-function-following-uninterrupted-sitting-study] / Is cocoa the cure for too much sitting? New study says yes[https://newatlas.com/diet-nutrition/cocoa-flavanols-arteries/] / Onlinelibrary.wiley.com[https://physoc.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1113/JP289038]

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