2025年10月8日、ドイツは警察に「危険な無許可ドローンの無力化」を認める法改正案を閣議決定した。ここでいう「無力化」とは、必要であればドローンを撃墜することを意味する。
その背景には、国内の軍事施設や空港、港湾、発電所といった重要インフラ上空で、ロシアのドローンによる偵察飛行の疑いが相次いでいることがある。
欧州では同様の法整備が進んでおり、「空の安全」をめぐる新たな基準づくりが静かに始まっているようだ。
ドイツ国内で目撃が相次ぐ正体不明のドローンたち
この改正案が提出された背景には、ドローンが空港周辺の上空を無許可で飛行し、航空管制の機体運航に支障を来すケースが複数報告されたことがある。
報道によれば、2025年前半だけでもドイツ国内で航空交通妨害関連のドローン事案が三桁に上ったという。
例えば2025年9月下旬には、ドイツ最北州のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州の発電所や造船所、大学病院、州議会の建物などの上空で、複数のドローンが目撃された。
これらのドローンは、ロシアの「シャドーフリート」の艦艇から発射された可能性が報じられ、ドイツ国内の警戒感が一気に高まるきっかけとなった。
また2025年0月2日には、ミュンヘン空港の上空で正体不明のドローンが目撃されたため、航空管制がストップする事態が発生。
その影響で17便が欠航したほか、15便が国内外の他の空港への着陸を余儀なくされ、約3,000人の乗客が影響を受けた。
ドイツ航空管制局(DFS)のデータによると、ドイツでは2025年1月から9月末までに、ドローン関連の航空交通妨害が172件記録されており、前年同期の129件、2023年の121件から目に見えて増加しているという。
こういった正体不明のドローンは、ここ数週間、ヨーロッパ大陸全体の航空交通を混乱させている。
空港だけでなく、病院や兵器工場、港湾施設、発電所などの重要インフラの上空で目撃される例が相次いでおり、各国の指導者たちはこの問題への対処に苦慮しているのだ。
当局はロシアによるスパイ・ドローンであると推定
ドイツ当局によると、これらのドローンは武装しておらず、監視・偵察目的で使用されていたと見られており、ロシアによるスパイ行為である疑いが濃厚だ。
ドイツのフリードリッヒ・メルツ首相は、この法案はドイツの安全性を高めることを目的としているとした上で、次のように述べている。
これらのドローン飛行のほとんどは、その背後ロシアがいるのではないかと、私たちは疑っているのです。
ドローンによる事件は私たちの安全を脅かしています。私たちはそれを許しません。今後、ドローンをより迅速に検知し、迎撃できるよう、連邦警察の権限を強化しています
この法案が可決されれば、ドイツはフランス、イギリス、ルーマニア、リトアニアなどの他の国々と足並みを揃えることになる。
これらの国々は、自国の領空に不法に侵入したドローンを排除するために治安部隊の権限を拡大している。
たとえばフランスはオリンピック対策で、警察や憲兵組織がドローンの検知から妨害・迎撃まで運用する枠組みを整えてきた。
イギリスでは警察にドローンへの着陸命令や押収といった、強い捜査権限を付与済みである。
また、ルーマニアは違法侵入ドローンの撃墜を可能にする国防省案を2024年に公表し、脅威レベルに応じた無力化を法制化する方針を提示。
リトアニアは2025年9月に、越境無人機に対し軍が撃墜できるよう権限を拡大する改正法案を可決した。
「撃墜」はあくまでも最後の手段
今回のドイツの改正案で想定されている措置は、まずレーダー・光学センサーによって位置を検知し、次にジャミングや電波妨害を行ってドローンの確保を狙う。
そして上記のどれもが成功しなかった場合の最終手段として物理的撃墜・回収を行うという、多層防御システムの導入を目指すものだ。
この法案は10月8日に閣議で承認され、現在は連邦議会での審議を待っている段階である。
だが施行までの課題は少なくない。
次に誤認を防ぐため、商用ドローンや救急医療用のドローンを正確に識別できるシステムの整備も欠かせない。
また、警察・州・連邦軍の間での責任分担や、撃墜による二次被害が発生した際の補償や監督の仕組みも明確にしなければならない。
さらに、現場で実際に運用する人員の訓練や、プロトコルの整備、必要な技術の習得も課題である。
アレクサンダー・ドブリント内務大臣は、次のように述べている。
この新法は、ドローンに対してどの組織が、どのような行動をとる権限を持つかを明確にするのに役立つものです。
今のところ、警察は樹木程度の高さで飛行する小型ドローンを、軍はより大型で強力なドローンに対処することが期待されるでしょう。
我々は既に、イスラエルやウクライナなど、ドローンに関してはるかに多くの経験を持つ国々と協議を行っていいます
政府は専門部隊の設置や新しい装備の導入を検討してはいるものの、実際の訓練や配備には時間を要するだろう。
冒頭で挙げた正体不明のドローンによる事案は、単なる航空トラブルではなく、情報戦やサイバー攻撃と結びついた「ハイブリッド脅威」としても懸念されている。
撃墜はあくまでも最後の手段ではあるが、空域の安全はそのまま国家の安全保障と直結する。
ドローンという新たな脅威に対し、欧州各国はそれぞれの「空のルール」を描き始めている。この法案は、その中での「国家」の対応を示す一つの事例となるだろう。
References: Germany draws up law to allow police to shoot down drones[https://www.theguardian.com/world/2025/oct/08/germany-draws-up-law-to-allow-police-to-shoot-down-drones]











