何かうれしいことがあると仲間に伝え、その喜びを分かち合いたいと思うのは、人間だけに備わった感情ではないようだ。
うれしいという感情と、それを仲間に伝えたいという心の働きは、ほんの小さなマルハナバチにも備わっていることが、最新の研究で明らかとなった。
マルハナバチは甘いミツを見つけると、元気いっぱいに飛び回る。その姿を見た仲間たちまでも、つられるように動きが軽くなり、一緒に飛び回りはじめる。
ミツバチの仲間にも、気分を分かち合う仕組みがあるのかもしれない。
この研究成果は『Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adr0216]』誌(2025年10月23日付)に掲載された。
甘いごちそうがもたらすマルハナバチの変化
中国・広東省広州市の南方医科大学のホセ・E・ロメロ=ゴンザレス博士は、複数の研究機関と協力し、マルハナバチに喜びの感情があるのか、そしてそれを仲間たちに伝えることができるのかを調べた。
研究では、1匹のマルハナバチに甘くておいしい砂糖水を与えた。それを口にした個体は行動が変化した。
普段よりも活発に飛び回り、見慣れない花にもためらわず着地するなど、気分が高揚した動きを見せた。
うれしそうなマルハナバチを見て仲間の気分も上がる
すると、そのそばにいた他のマルハナバチまでが、砂糖水をもらっていないのに同じように活発に動き始めた。
仲間の行動を見ただけで、自分たちもうれしくなり、一緒になって喜んでいるような行動を見せたのだ。
研究チームは、この現象が単なるまねではないことを確かめるため、マルハナバチたちを透明な仕切りで分けて観察した。
互いに触れることも、匂いを嗅ぐこともできない状態にしても、仲間の明るい行動を見ただけで同じ反応が広がった。
つまり、視覚だけで気分が伝わっていたのである。
この「感情の伝染」と呼ばれる仕組みは、これまで哺乳類や鳥などの社会的動物でしか確認されていなかった。
今回の発見は、脳が小さい昆虫にも同じような反応が存在することを示している。
喜びの共有は生き延びるための戦略か
ロメロ=ゴンザレス博士らは、こうした行動の変化は、生存に関わる社会的な仕組みの一部である可能性を指摘している。
前向きな行動は新しい餌場を見つける助けとなり、仲間にもその意欲が伝わることで群れ全体の生存率が高まる。
喜びを共有することは、結果として群れの強さにもつながるのだ。
マルハナバチの高い社会性と知能
ミツバチ科に属するマルハナバチは、丸みを帯びた毛深い体が特徴で、一般的なミツバチよりやや大きい。働きバチやオスの体長はおよそ10~20mmほどだ。
北半球を中心に約250種が確認されており、冷涼な地域や高山地帯にも適応して生息している。花粉やミツを集める授粉者として、生態系を支える重要な存在でもあり、人間もその恩恵にあずかっている。
マルハナバチは非常に社会性が高く、知能の発達した昆虫としても知られている。これまでの研究から、その認知能力や行動の柔軟性が次々と明らかになってきた。
2016年にイギリスのロンドン大学クイーン・メアリー校が行った研究では、マルハナバチに「喜び」に似た脳の反応があることが報告された。
砂糖水を与えられた個体がより積極的に行動する傾向を示し、報酬が気分や意思決定に影響を与えている可能性が示唆された。
さらに2023年には、同大学の研究でマルハナバチが仲間の行動を観察して学ぶ「社会的学習」ができることも確認されている。
この結果から、マルハナバチには「文化」と呼べるような学習の共有と伝達の仕組みがあることがわかった。
つまり、彼らの集団は単なる本能で動いているわけではなく、互いの行動を観察しながら学び合い、それを仲間に伝え、発展させているのである。
今回の研究で見られた“喜びの共有”も、群れ全体の適応を支える重要な戦略のひとつなのかもしれない。
References: Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adr0216] / Psychologytoday[https://www.psychologytoday.com/us/blog/animal-emotions/202510/happy-sugar-filled-bumble-bees-feel-and-share-their-joy]











