トルコ南西部の古代遺跡を結ぶ「リキア古道」をトレッキングしていたレカ・クリーグさんの後ろから、突然足音が聞こえてきた。振り向くと、そこには人懐っこい表情を浮かべたふわふわの犬がいた。
思わぬ犬の登場に喜んだクリーグさんは、軽く挨拶を交わして撫でたあと、再び歩き始めた。すると犬も彼女の後をついてくる。
険しい斜面を一緒に歩き、キャンプ地に着くまで犬は離れなかった。だがそこで、犬は他のトレッカーに追い払われてしまう。
それから3日後、寂しさを感じていたクリーグさんのもとに、あの犬が再び姿を現した。犬はクリーグさんに何かを感じ取っていたようだ。それはクリーグさんも同様だった。
この物語は、運命の出会いと再会を果たした女性と犬が、永遠の家族になるまでの物語である。
トレッキング中に出会った犬がどこまでもついてくる
レカ・クリーグさんがトルコのリキア古道(Lycian Way)をトレッキングしていたとき、一匹の犬と出会った。その犬は、まるで彼女に導かれるように、どこまでも後をついてきた。
クリーグさんは、その犬を愛おしく感じながらも、心のどこかで少し戸惑いもあった。
リキア古道は岩だらけで急勾配の道が続く過酷なルートだ。クリーグさんは無事に通り抜けることに全神経を集中しており、犬の世話をしながら歩く余裕などなかった。
自分のことで手一杯だったクリーグさんは、そのまま歩き続けた。だが彼女の不安をよそに、犬は彼女の後を離れようとしなかった。しかも忍び足で、姿を隠しながらこっそりとついてきていたという。
犬と自分を重ね合わせ涙があふれる
結局犬は、クリーグさんと共にキャンプ地までついてきた。食事を分け与えると、嬉しそうに尻尾を振り、すっかりくつろいだ様子を見せた。
クリーグさんもまた、犬の存在を愛おしく感じていたが、翌朝、近くにいた別のトレッカーグループが犬を追い払ってしまった。
ところが次の瞬間、犬が追い払った人たちの後をついていくのが見えた。その光景を見たとき、クリーグさんは犬との感情的なつながりを感じたという。
「追い払われても嫌がられても、犬はその人たちの後をついていったんです。それを見て、自分を見ているかのようでした。私も人に対する接し方が下手で、執着してしまうことがあるんです。彼は私の鏡のような存在だと感じました」と彼女は語る。
そのつながりに気づいた瞬間、クリーグさんの目には涙があふれた。
3日後、運命の犬と再会
その夜、クリーグさんは涙を流しながら眠りについた。翌朝も歩き続けたが、犬のことが気がかりで頭から離れなかった。
日が経つにつれて、「もう二度と会えないかもしれない」と感じるようになり、その思いは日ごとに強くなっていった。
そして3日後の朝、テントの外から物音が聞こえた。なんと外をのぞくと、そこにはあの犬が立っていたのだ!
「テントのまわりを歩く足音がして、そっとのぞいたら犬がいたんです。信じられなかった。そして本当にうれしかった」と彼女は話す。
再会を喜んだクリーグさんは、このオス犬に「リキアン」と名付けた。
それからというもの、リキアンはクリーグさんの隣を歩き、旅の相棒となった。
ときには前を走り、ときには後ろから見守るよう歩く。ふたりにしかわからない特別な絆が芽生えていた。
離れても、必ず女性の元に戻ってくる
トレッキングの途中で、リキアンが何度か姿を消すことがあった。好奇心のままに走り去ってしまうのだが、必ず最後には彼女のもとに戻ってきた。
リキアンもクリーグさんに特別な感情を抱いていたのかもしれない。犬は共感能力が高い動物だ。彼女の心を察知し、そばにいることを決めたのかもしれない。
そんな日々を送っているうちに、クリーグさんはますますリキアンに惹かれていった。
「彼が戻ってくるたびに、安心して、そして少し誇らしい気持ちになりました。彼はもう、完全に私の親友でした」とクリーグさんは語る。
クリーグさんが乗るバイクを追いかけるリキアン
トレッキングを無事終え、クリーグさんはバイクに乗せてもらい、町を離れることになった。
ところが、バイクが走り出して間もなく、後方に見覚えのある影が見えた。リキアンが追いかけてきたのだ。
「私たちが通り過ぎた瞬間、彼が私たちを見つけて、全力で走って追いかけてきたんです。止めようとしても諦めませんでした」とクリーグさんは振り返る。
リキアンは町の外までバイクを追って走り続けたため、心配になったクリーグさんはバイクを止めてもらった。
「その瞬間、もう彼と離れないと決めました。
そして永遠の家族に、リキアンがくれた生きる力
旅を終えたクリーグさんは、リキアンを家に連れ帰った。彼は正式な家族になったのだ。それからずっと今まで、リキアンは彼女の心の支えになってくれている。
「リキアンと出会う前、私は重いメンタルの問題を抱えていて、人との関わりを避けていました。でも、彼と一緒にいるうちに、人とつながる勇気が持てたんです」と彼女は話す。
リキアンは彼女の心を癒やし、再び人と関わる力を与えてくれた。トルコの古道での偶然の出会いは、やがて家族の物語へと変わった。
リキアンは、クリーグさんの心を読み取り、それを自分を通して写し出すことで、彼女を再び前へと導いてくれたのだ。











