宇宙は現実ではなく、誰かが作った仮想世界であり、私たちはその中に生きている。この考え方は「シミュレーション仮説」と呼ばれ、一部の研究者たちが支持してきた。
カナダを中心とする国際研究チームが、この問題を数学的に分析した。
その結果、宇宙はコンピュータのように決められたアルゴリズム(手順)だけで動いているわけではないことが分かった。つまり、宇宙の仕組みはどんな計算でも完全に再現することができず、プログラムでは説明できない現実の世界であると数学的に証明されたのだ。
この研究成果は学術誌 『Journal of Holography Applications in Physics[https://jhap.du.ac.ir/article_488.html]』誌に掲載された。
宇宙の仕組みを量子重力理論で検証
シミュレーション仮説とは、私たちが現実だと思っているこの世界が、実は高度な文明によって作られたコンピュータシミュレーションの中に存在しているという考え方である。
この仮説では、宇宙そのものが巨大な仮想空間であり、人間もその中の情報として存在している可能性があるとされる。
哲学者ニック・ボストロム氏が2003年に提唱し、科学者や技術者の間でも議論を呼んできた。
そこで、カナダのブリティッシュコロンビア大学オカナガン校のミル・ファイザル博士を中心とする研究チームは、アメリカ、イギリス、イタリアの研究者と協力し、宇宙の基本構造を数学的に調べた。
チームが用いたのは「量子重力理論[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8F%E5%AD%90%E9%87%8D%E5%8A%9B%E7%90%86%E8%AB%96]」と呼ばれるもので、アインシュタインの相対性理論(大きな世界の法則)と量子力学(原子や電子など小さな世界の法則)を結びつけ、重力や空間、時間がどのように生まれるのかを説明する最先端の理論である。
研究チームはこの理論をもとに、宇宙の根本にある法則がどのように成り立っているかを数理的に分析した。
ゲーデルの不完全性定理が導いた答え
研究の中で重要な鍵となったのが、数学者クルト・ゲーデルが1931年に発表した「ゲーデルの不完全性定理」である。
この定理は、どんな理論にもその理論の中では証明できない真実が必ず存在することを示したものだ。
研究チームはこの考えを宇宙に応用した。
しかし実際には、宇宙の根本法則の中には計算では扱えない要素が存在する。
ファイザル博士らは、この限界こそがシミュレーション仮説を否定する証拠であると結論づけた。
コンピュータでは表せない宇宙の現実
ファイザル博士は、宇宙をすべてコンピュータの手順で再現しようとする考えには根本的な欠陥があると述べている。
コンピュータはあらかじめ定められた命令を順番に処理するが、宇宙の現実にはそうしたアルゴリズムの枠に収まらない性質があるという。
共著者であり、アメリカのオリジンズ・プロジェクト財団のローレンス・クラウス博士は、物理法則は空間や時間の中に存在するのではなく、それらを生み出す側にあると説明する。
つまり、宇宙を動かしている根本原理そのものが、計算やシミュレーションの範囲を超えているということだ。
これまでシミュレーション仮説は哲学的な推測とされ、科学では検証できないと考えられてきた。しかしこの研究は、数学と物理学の手法を使ってその可能性を正面から否定した。
私たちの宇宙は、コンピュータの中で再現された仮想世界ではない。数式が導いたのは、宇宙そのものが独立して存在する現実の世界であるという結論だった。
たとえ人類をはるかに超える知性や技術を持つ存在があったとしても、この宇宙を完全に再現することはできない。
References: Jhap.du.ac.ir[https://jhap.du.ac.ir/article_488.html] / PHYS[https://phys.org/news/2025-10-mathematical-proof-debunks-idea-universe.html] / SCI[https://www.sci.news/physics/universe-simulation-14321.html]











