地球上の人口は現在、国連の推定で約82億人とされている。しかし、実際にはこれを上回る可能性があるという。
フィンランドの研究チームが新たな手法で農村部の人口を推定した結果、従来の統計が実際より最大84%も少なく見積もっていることが明らかになった。
この結果が正しければ、世界人口の総数そのものが大きく変わる可能性がある。ただし、専門家の間ではこの推定を巡って意見が分かれている。
農村部の人口は半分しか数えられていなかった?
フィンランド、アールト大学のヨシアス・ラング=リッター氏らの研究チームは、ダム建設によってどれくらいの数の人々が移転したのかをを調べていた。
その過程で、自分たちの推定した人口が、公式統計と大きく食い違っていることに気づいた。
そこで研究チームは、1980年から2010年の間に完成した35か国・307件のダム建設プロジェクトを対象に詳細な分析を行った。
各プロジェクトで移転した人々の数を、その地域の移転前の人口として扱い、世界の主要な5つの人口データセットと比較した。
その結果、最も精度が高いとされるデータでも平均で53%、最大で84%も実際の人口を過少評価していた。
ラング=リッター氏は「これほどの差があるとは予想していなかった」と語っている。
世界人口は公式統計より多い可能性
国連の公式推定では、世界人口は約82億人とされている。だが研究チームは、この数字が控えめすぎると考えている。
ラング=リッター氏は具体的な総人口を示していないが、「現在の人口推定は保守的であり、実際にはこれよりかなり多い可能性がある」と述べた。
誤差の主な原因として、農村部の国勢調査が不完全であること、また人口モデルが都市部のデータをもとに作られていることが挙げられる。
研究チームは、こうした偏りを修正することで、農村地域が公共サービスや政策の面で不利益を受けることを防げると指摘している。
公共政策やインフラ計画に及ぶ影響
人口データは、交通インフラの整備、医療施設の配置、災害対策など、多くの分野で政策決定の基礎となっている。
ラング=リッター氏は「これらのデータセットは幅広い分野で利用されており、誤差があれば影響は大きい」と話す。
もし農村部の人口を大幅に過少評価しているとすれば、政府のサービス提供や社会インフラ計画に抜本的な見直しが必要になるかもしれない。
この研究結果を疑問視する専門家の意見
一方で、この研究結果を疑問視する専門家も少なくない。
スウェーデンのストックホルム大学のマルティン・コルク氏は、「地域レベルの誤差があっても、それが国全体の人口統計を左右するとは限らない」と述べている。
イギリスのサウサンプトン大学のアンドリュー・テイタム氏は、研究で過少評価されたとされた「WorldPop[https://www.worldpop.org/]」データセットを統括しており、2010年以前の衛星画像の精度の低さが誤差の一因だと説明する。
「過去にさかのぼるほどデータの精度は落ちる。それはよく知られていることだ」と語った。
香港科技大学のスチュアート・ギーテル=バステン氏も、調査データの多くが中国やアジア地域に偏っている点を指摘し、「それを世界全体に当てはめるのは無理がある」と述べた。
正しく人口を調査するために必要なこと
ラング=リッター氏は、対象地域の多様性を理由に「今回の研究は全体の傾向を示すサンプルになっている」と主張している。
一方で、ギーテル=バステン氏も「農村地域でのデータ収集を強化し、より精密な人口把握方法を開発する必要がある」という点では意見が一致している。
ただし、世界人口が数十億人単位で増えるという主張については、多くの専門家が慎重な姿勢を崩していない。
テイタム氏は「もし50%も過少評価しているなら、それは世界を揺るがす発見であり、これまでの何千ものデータと矛盾する」と述べた。
人口統計は、社会のあらゆる仕組みの基盤となる情報である。
この研究は『Nature Communications[https://www.nature.com/articles/s41467-025-56906-7]』誌(2025年3月18日付)に掲載された。
References: Nature[https://www.nature.com/articles/s41467-025-56906-7] / Newscientist[https://www.newscientist.com/article/2472604-have-we-vastly-underestimated-the-total-number-of-people-on-earth/?utm_medium=social&utm_campaign=echobox&utm_source=Twitter#Echobox=1742292164]











