映画『ターミネーター』では、鋼鉄の肉体を持つ人型ロボットが人間に抵抗する未来が描かれていた。そんなフィクションのような世界が、いよいよ現実に近づいている。
韓国の研究チームが、自重の約4000倍を持ち上げることができる「人工筋肉」を開発したのだ。
この筋肉は人間のように柔らかく、必要に応じて硬くなる性質を持つ。力強さとしなやかさを併せ持つこの筋肉が、ロボットの未来を変えようとしている。
この研究成果は『Advanced Functional Materials[https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adfm.202516218]』(2025年9月7日付)に発表された。
人工筋肉の限界を超えた新素材
従来の人工筋肉は、柔らかくても力が弱い、または強いが硬すぎるという問題を抱えていた。
韓国、蔚山科学技術大学校のチョン・フンウィ教授率いる研究チームは、この「柔軟性と強度の両立」という長年の課題を克服する新素材を開発した。
二重構造が生み出す“しなやかな力”
研究チームが開発した人工筋肉は、「高性能磁気複合アクチュエータ(high-performance magnetic composite actuator)」と呼ばれる新しいタイプの素材でできている。
ゴムのように柔らかいが、必要なときには鉄のように硬くなる仕組みだ。
内部にはネオジム磁石の粒子が混じっており、磁力を使って外から筋肉の硬さをコントロールできる。
さらに、筋肉の内部では分子同士が二重につながっている。ひとつは強く固く結びつく“骨格”のような結合で、もうひとつは切れたりくっついたりできる“筋”のような結合だ。
この二重構造(デュアルクロスリンク構造」)のおかげで、重いものを支えるときは硬く、動くときは柔らかくなるという、人間の筋肉に近い動きが再現されている。
わずか1gで5kgを支えるパワー
この人工筋肉の重さはわずか1.13g。それで5kgの荷重を支えることができる。自重の約4400倍に相当する力だ。
さらに、収縮率(どれだけ伸び縮みするか)は86.4%に達し、人間の筋肉(約40%)の2倍以上となった。
また、「仕事密度(キロジュール:1立方メートルあたりのエネルギー量)」は1150kJ/m³で、人間の筋肉の約30倍にもなる。
ヒューマノイドロボットへの応用
この人工筋肉が実用化されれば、ヒューマノイドロボットの動きは劇的に変わるだろう。硬いモーターや油圧装置を使わず、人間のように柔らかく、しかし強力に動けるロボットが実現する可能性がある。
さらに、力を補助するウェアラブルスーツや医療用の義手・義足など、幅広い分野での応用も期待されている。
研究チームは、一軸引張試験という、素材を一方向に引っ張り、破断するまでの伸びと力を測定する試験方法でこの人工筋肉の強度を測定した。
その結果、この人工筋肉は長期間の使用にも耐え、繰り返し動かしても安定した性能を維持できることが確認された。
チョン教授は「この複合素材は、柔軟さと強度の両方を持ち合わせ、ソフトロボットや人と機械を直感的につなぐ新しい技術の扉を開く」と語っている。
SFの世界が現実に?スカイネットの予兆
映画『ターミネーター』シリーズでは、未来の人工知能「スカイネット」が人類を脅威と見なし、自ら兵器を作り出す姿が描かれていた。
しかし続編の『ターミネーター2』では、同じターミネーターが人間の守護者として再登場する。
破壊と保護、この二面性こそが技術の持つ本質なのかもしれない。
もしAIがこの人工筋肉を手に入れれば、知能とパワーの両方を備えた存在が生まれる。
人間を支え、危険な作業や災害救助で活躍するかもしれない。
鋼鉄の筋肉と電子の頭脳を持つヒューマノイドが歩き出すとき、その未来を希望にするのか、脅威に変えるのか。
その答えを決めるのはAIではない。技術を生み出し、使う人間自身の手に委ねられているのだ。
References: Onlinelibrary.wiley.com[https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adfm.202516218] / Humanoid robots could lift 4,000 times their own weight thanks to breakthrough 'artificial muscle'[https://www.livescience.com/technology/robotics/humanoid-robots-could-lift-4-000-times-their-own-weight-thanks-to-breakthrough-artificial-muscle] / Soft to steel: Tiny robot muscle lifts 4,000 times its weight, defying limits[https://interestingengineering.com/innovation/soft-to-steel-tiny-robot-muscle]











