イギリスの研究チームは、人間の手に「予知触覚」と呼ばれる新たな感覚があることを突き止めた。
これは、実際に触れる前に物体の存在を感じ取る能力で、人間の手に隠されていた未知の感覚だ。
実験では、砂の中に埋められた立方体を、指で砂をなぞるだけで察知できることが確認された。
この能力は、シギなどの鳥類が砂の下の獲物を見つける仕組みに似ており、人間の中にも眠っていた言わば「第7の感覚」である。
この研究成果は『IEEE International Conference on Development and Learning(ICDL)[https://ieeexplore.ieee.org/abstract/document/11204359]』(2025年10月21日付)で発表された。
人間が持っていた第七の感覚「予知触覚」
クイーン・メアリー・ロンドン大学とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームは、人間の手が実際に触れずに物体を感じ取る能力を持つことを発見した。
科学者たちはこれまで、人間の感覚を「視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚・固有受容感覚」の6つに分類してきた。
固有受容感覚とは、自分の体の位置や動きを感じ取る力のことで、目を閉じても自分の手や足がどこにあるか分かるのはこの感覚による。
今回の研究で見つかった「予知触覚(非接触触覚:リモートタッチ)」は、これら6つのどれにも当てはまらない。
実際に触れなくても物体を感じ取れるという点で、従来の触覚を超えた第7の感覚だと考えられている。
鳥類の持つ「予知触覚」
研究チームは、自然界のモデルとして海岸に生息するシギやチドリに注目した。
チドリ目に属するシギやチドリは、くちばしで砂の表面を軽く押すことで、砂の中を伝わる微細な圧力の波を感じ取る。
その波が砂の下に潜む獲物に反射すると、くちばしの先端にある感覚器官「ビル・チップ器官(bill-tip organ)」がその信号を受け取り、見えない獲物の位置を察知できる。
研究チームは、鳥類のこの感覚が人間にも備わっているのではないかと考えた。
そこで彼らは、人間の参加者に砂の中に指を入れ、埋められた立方体を探す実験を行った。
すると多くの被験者が、実際に触れる前にその位置を感じ取ることができた。
研究者らが砂の動きを物理モデルで解析したところ、人間の手は、物体に触れずにほんのギリギリの位置で、砂粒のわずかな動きや物体の表面で反射する微細な振動を感じ取っていたのだ。
人間とロボットの比較実験
研究チームは、人間の成績をAIを使ったロボット触覚センサーと比較した。
ロボットには、触覚のパターンを記憶しながら学習する「LSTM(長短期記憶)」というAIの仕組みが使われた。
人間とロボットが、どこまで小さな力の変化を感じ取れるかという物理的な限界を測定したところ、人間は検出範囲内で約70.7%の精度を記録し、非常に正確だった。
一方、ロボットは少し離れた位置にも反応したが、実際には存在しない物体を検出することが多く、全体の精度は40%にとどまった。
人間の予知触覚がロボット技術の未来を変える
研究を主導したクイーン・メアリー・ロンドン大学のエリザベッタ・ヴェルサーチェ氏は、「人間の予知触覚を調べたのはこれが初めてです。この発見は、人間を含む生き物が、どこまで周囲を感じ取れるのかという“知覚の境界”の考え方を変える可能性があります」と語った。
研究チームの一員であるジェンチー・チェン氏は、人間の予知触覚のしくみを応用することで、ロボットがより繊細な操作を行えるようになると語った。
ロボットの触覚がさらに研ぎ澄まされれば、遺物を傷つけずに見つける作業、視界が限られる砂地や海底、火星のような環境での探索に役立つ可能性がある。
そして我々も、心を研ぎ澄ませれば、壁の後ろに潜んでいる何者かの正体に気が付くことができるかもしれない。そう、ハンドパワーだ!
References: Ieeexplore.ieee.org[https://ieeexplore.ieee.org/abstract/document/11204359] / Ieeexplore.ieee.org[https://ieeexplore.ieee.org/abstract/document/11204359]











