リスはどうやって埋めたドングリを見つけるのか?驚異の記憶力と窃盗戦略
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 秋になると、リスたちは冬に備えて大量の木の実を地面や木の中に隠す。あまりの多さに、「リスは木の実を隠した場所をほとんど忘れてしまうので、それが発芽して森になる」という話が語られるほどだ。

 私もこの話を長いあいだ信じていたのだが、実際にはそうではない。

 アメリカの生物学者によると、リスは鋭い嗅覚や視覚、そして高度な空間記憶を駆使して、自分の貯蔵場所を正確に見つけ出すという。

 回収率は種によって異なるが、およそ80%以上に達し、発芽して木になる種子はほんの一部にすぎない。

 リスはどのようにして、膨大な隠し場所を正確に記憶し、厳しい冬を生き抜いているのだろうか?その驚くべき生存戦略に迫ってみよう。

リスは埋めた木の実の80%を忘れるって本当?

  アメリカのコメディアン、サラ・シルバーマン氏は、2021年にNetflixで配信されたスペシャル番組『A Speck of Dust』の中でこう語っている。

 「リスは埋めた木の実の80%を忘れてしまうんです。木はこうやって育つんです!」

 この話は腑に落ちる。ふさふさした尻尾を揺らしながらせわしなく動き回り、様々な場所に木の実を隠していたら、そりゃ忘れるだろうと思うからだ。

 それでもリスたちも生き延びてるわけだし、物忘れ達人の私にも希望があるとすら思えてくる。

 だがこれはあくまでも誇張であり、逸話にすぎなかったようだ。

 アメリカ・メイン州にあるニューイングランド大学で野生動物の行動を研究する生物学者、ノア・パールット博士は、「リスは驚くほど記憶力に優れている」と語る。

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鋭い嗅覚と記憶で木の実を探し出すリスたち

 パールット博士の研究によると、リスは、嗅覚や視覚、空間記憶を組み合わせて貯蔵した木の実を探しているという。

 ほかのリスの動きや残したにおいの痕跡まで手がかりにして、持っている感覚の総動員して探し出すそうだ。

 特に重要なのが空間記憶だ。

 1980年にアメリカの都市部で行われた観察では、ハイイロリスが隠した木の実の約85%を正確に見つけ出していた。つまり、10個のうち8~9個を自力で掘り当てていたことになる。

 1999年の実験では、研究者がリスを混乱させるために偽の木の実の隠し場所を用意した。

 見た目も匂いも本物とそっくりにしたが、リスたちはほとんど間違えず、本物の貯蔵場所を掘り当てた。

 さらに、2023年に実施された都市公園に住むアカリスの研究[https://link.springer.com/article/10.1007/s11252-023-01360-w]では、人や他のリスが多い競争環境でも、大半の木の実を短期間で回収していたことが確認された。

 また、リスの記憶は数週間から最長2か月ほど持続することがわかっている。

 リスは木の実の種類によって回収の順番を変えており、発芽が早いシロガシのドングリを先に食べ、発芽の遅いアカガシのドングリを後に残す傾向があるという。

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雪国のリスは木の中に隠す

 餌を隠し、貯蔵する行為を動物行動学では「貯食行動」というが、まさにリスが木の実を貯めこむ行動がこれにあたる。

 リスは木の実を地中に埋めるだけではなく、様々な場所に貯蔵する。

 積雪の多い場所では、リスは木の幹の空洞や枝の間に木の実を隠す。雪を掘る手間を避けるためだ。

 人間の生息地に住むリスは、人工物も利用する。電柱に大量のどんぐりを備蓄したり、車のボンネットに詰め込むリスもいる。

 ハイイロリスのような樹上性のリスは「散在型貯蔵者(scatter-hoarder)」と呼ばれ、広い範囲に分散して食料を隠す。

 一方、アカリスは「貯蔵庫型(larder-hoarder)」で、一か所にまとめて蓄える傾向がある。

 ハイイロリスの行動範囲は約6~8エーカー(サッカー場4面分ほど)に及ぶ。この広さを記憶できるのは、空間認識能力が非常に発達している証拠だ。

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時には仲間の貯蔵した木の実を盗むこと

 リスは自分の木の実を覚えているだけでなく、他のリスの行動も注意深く観察している。

 パールット博士は「リスは縄張りを持たず、互いの貯蔵行動を見て盗みを働く」と説明する。

 博士の観察によると、リスは頭の中に「色分けされた地図」を描いているという。

 自分の貯蔵場所と、他のリスの貯蔵場所を別々の色で記憶し、木の上など高い位置から地面を見下ろして、その地図と照らし合わせながら位置を確かめている。

 まずは他のリスの貯蔵場所に行って盗みを試み、うまくいかなければ自分の貯蔵庫を掘り出すのだという。

 また、他のリスに見られているときは「偽の埋蔵」を行うこともある。

 口の中に木の実を隠したまま、埋めるふりをして相手を欺くのだ。

 こうしただまし合いがあっても、リスたちは大きな争いを起こさず、互いに共存している。

 あの小さな体からは想像もつかないほど賢く、したたかに生きているようだ。

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記憶と知恵で冬を生き抜くリスたち

 リスたちは盗み合いをしながらも、結果的に均衡を保ち、冬を生き延びている。

 効率よく隠し、覚え、取り出すことができるため、活動の合間に休息や仲間との交流を楽しむ余裕すらある。

 パールット博士は「ハイイロリスは一日の多くを休んで過ごしている。それだけ貯蔵と盗みの仕組みがうまくできている証拠だ」と語る。

 リスは単なる愛らしい小動物ではなく、観察力と記憶力を武器に、厳しい自然を生き抜く知恵を持つ生き物なのだ。

 それでも残ったわずかな木の実が発芽し、新しい木として育つこともある。リスの行動は、自然の生態系にも少なからず貢献しているのだ。

References: Popsci[https://www.popsci.com/science/how-squirrels-find-nuts/]

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