時速8万kmで飛来する彗星の破片が爆発、ポルトガル上空に現れた「宇宙の花火」
ESA Extras/Youtube

時速8万kmで飛来する彗星の破片が爆発、ポルトガル上空に現れ...の画像はこちら >>

 2025年11月2日夜、ポルトガルの空がまぶしく光った。時速8万km以上という驚異的なスピードで飛来した彗星の破片が大気圏に突入し、火球となって爆発したのだ。

その光は数秒間、夜空を昼間のように照らし出した。

 この現象は欧州宇宙機関(ESA)の観測ネットワークによって捉えられ、科学者たちは「彗星の破片が太陽の周りを回る軌道の途中で、ちょうど地球と同じ場所を通過したために起きた」と分析している。

高度97kmから突入した彗星の破片

  宇宙を漂っていた彗星の破片が、地球の大気圏へ飛び込んだ。

 その様子は、欧州宇宙機関(ESA)の「惑星防衛室」が運営するスペイン西部、カセレス県カサス・デ・ミリャンの流星観測ステーションによってとらえられた。

 この施設は、ヨーロッパ各地の夜空を常時カメラで記録し、流星や火球を自動検出する監視ネットワーク「AllSky7」の一部として運用されている。

 彗星の破片はポルトガル中部ルザ上空、高度97kmで初めて観測された。そこから約80kmの距離を進みながら大気との摩擦で急激に加熱され、数千度に達したとみられている。

 速度は時速8万1,000km。地球から月までをおよそ5時間で到達できるほどの速さだ。最終的に高度43kmで爆発した。

 なお、この火球はすべて空中で燃え尽きたとみられ、地表に隕石として落下した痕跡は確認されていない。

[画像を見る]

火球とはどんな現象?

 火球とは、通常の流れ星よりもはるかに明るく輝く流星現象のことをいう。

 流れ星は、宇宙空間を漂う塵や小石が地球の大気に突入し、空気との摩擦で燃えて光る現象だ。だが、火球はその中でも特に大きな破片によって引き起こされるため、光が格段に強く、金星よりも明るく見えることもある。

 天文学の世界では、金星と同じ明るさ(マイナス4等級)以上の流星を「火球」と呼ぶ。なかには昼間でも確認できるほど明るいものや、破裂音を伴う「爆発火球」と呼ばれるタイプもある。今回の現象もまさにその一例だ。

[画像を見る]

別の流星も観測されたが関連はなし

 観測のおよそ1時間前、この火球を記録した「AllSky7」のカメラが近くの空で別の流星を捉えていたが、軌道がまったく異なるため無関係とされている。

 スペインやポルトガルの流星や火球の軌道を追跡・解析している南西ヨーロッパ流星ネットワーク(SWEMN)には、今回の火球は彗星由来の破片が地球の軌道と交差し、地球がその交点の位置にいたため発生したとみている。

[動画を見る]

おうし座みなみ流星群のピークと重なった偶然

 興味深いことに、この日はおうし座南流星群[https://www.nao.ac.jp/astro/sky/2025/11-topics02.html]の活動がちょうどピークを迎えていた。

 おうし座南流星群は、毎年9月下旬から11月にかけて出現する流星群で、例年11月5日前後に最も多くの流星が観測される。

 出現数はそれほど多くないが、明るい火球が比較的多く出現するのが特徴だ。そのため、欧米では「ハロウィン・ファイアボール」と呼ばれることもある。

 しかし、今回ポルトガル上空で観測された火球の軌道は、おうし座南流星群のものとは一致していなかった。別の彗星が放出した破片が、偶然地球と交わった結果だと考えられている。

 隕石落下による被害がなかったようでよかった。夜空を照らすほどの閃光はほんの数秒の出来事だが、宇宙の花火のようで見ごたえがあったことだろう。

 私も一度でいいから空を明るく照らすほどの火球を見てみたいものだ。

【追記】(2025/11/11)地球から月までの移動速度に関する記述に誤りがありました。該当箇所を「約5時間で到達できる速度」と修正しました。

References: ESA[https://www.esa.int/ESA_Multimedia/Videos/2025/11/Bright_fireball_spotted_by_ESA_s_meteor_detection_station_in_Caceres_Spain]

編集部おすすめ