アメリカ・カリフォルニア州にあるデスバレーは、地球上でもっとも暑い場所のひとつだ。
北アメリカで最も標高の低い盆地であり、夏には気温が摂氏49度を超えることもある。
ミシガン州立大学の研究チームは、この植物が細胞や遺伝子の働きを素早く変化させることで、高温下でも光合成を続けていることを突き止めた。
研究者たちは、この驚異的な適応力を応用すれば、高温に強い未来の作物を生み出せるかもしれないと考えている。
この研究成果は『Current Biology[https://www.cell.com/current-biology/abstract/S0960-9822(25)01312-0]』誌(2025年11月7日付)に発表された。
灼熱の地で見つかった強い生命力を持つ植物
ミシガン州立大学の研究チームは、アメリカ・カリフォルニア州のデスバレーで、自生するヒユ科の双子葉植物、「タイデストロミア・オブロンギフォリア(Tidestromia oblongifolia)」を調査した。
この植物は、アメリカ南西部からメキシコ北部にかけての乾燥地帯に分布する砂漠の在来種で、地面を這うように広がる多年草である。
茎は赤みを帯び、葉は小さく楕円形で厚みがあり、表面が銀緑色に輝く。
乾燥と強い日差しから身を守るための構造を持ち、デスバレーのような高温で乾いた環境でも水分を逃さずに生き延びることができる。
真夏には気温が摂氏49度を超え、ほとんどの植物が数時間で枯死するデスバレーでも、この植物だけは青々と葉を保ち続けていた。
研究チームは、この驚異の生命力の秘密を解き明かすため、植物の細胞レベルの働きを詳しく分析することにした。
実験室で灼熱の環境を再現、爆発的に成長した植物
この研究を率いたスン・ヨン・スーリー教授と研究員のカリン・プラド氏は、デスバレーの過酷な環境を実験室で再現し、植物の反応を観察した。
通常の条件では発芽が難しかったが、気温と日照をデスバレーに近づけると、植物はすごい勢いで成長を始めた。
プラド氏は特注の植物の成長環境を人工的に再現する栽培装置を使い、昼夜の激しい温度差と強烈な日射を再現した。
その結果、タイデストロミア・オブロンギフォリアはわずか10日でバイオマス(植物が体内に蓄えた有機物の総量)を3倍に増やした。
一方で、耐熱性が高いとされていた他の植物は成長を止め、枯れ始めた。
研究チームは、この異常な成長力が、砂漠で進化した独自の適応メカニズムによるものだと考えた。
研究チームは、この植物を摂氏49度近い高温環境に2日間さらした。その結果、光合成の限界温度が上昇していることがわかった。
さらに2週間後には、最も効率よく光合成が行われる温度が45度に達しており、これまで知られているどの作物よりも高温下で活動できることが確認された。
スーリー教授は「この植物は、これまでに知られている中で最も耐熱性が高い」と述べている。
3. 高温でも光合成ができる理由
チームはさらにこの植物のしくみを詳しく調べるため、生理学的実験や遺伝子解析を行った。
その結果、細胞内のミトコンドリア(エネルギーを生み出す器官)が、光合成を行う葉緑体のすぐ近くに移動していることが確認された。
葉緑体はカップのような形に変化しており、これが高等植物では初めて観察された構造だった。
研究者たちは、この構造変化によって二酸化炭素を効率的に再利用し、光合成を安定させていると考えている。
また、この植物は高温にさらされると1日以内に数千の遺伝子の働きを切り替え、タンパク質や細胞膜を守るしくみを活性化させていた。
さらに、光合成に関わる酵素「ルビスコ(Rubisco)」を助ける酵素を増やし、45度という過酷な環境でも光合成を維持していた。
4. 砂漠の知恵が未来の農業を変える
研究チームは、この植物の仕組みを応用できれば、地球温暖化が進んでも作物を安定して育てられるようになるかもしれないと考えている。
そこで、タイデストロミア・オブロンギフォリアの遺伝子や細胞構造を分析し、将来的に高温に強い作物を開発する研究を進めている。
今世紀末までに世界の平均気温は最大5度上昇すると予測され、熱波が小麦やトウモロコシなどの主要作物に深刻な被害を与えている。
スーリー教授は「この植物は、植物がどこまで高温に適応できるのかを教えてくれる。もしこの仕組みを他の作物に応用できれば、食料危機を防ぐ大きな手がかりになる」と語った。
砂漠という最も過酷な環境で生き伸びる超高熱耐性を持つこの植物が、未来の農業を変えるヒントをくれるかもしれない。
References: CELL[https://www.cell.com/current-biology/abstract/S0960-9822(25)01312-0] / Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1104826]











