テキサス州でハンマーヘッドのコウガイヒルが増殖中、分裂するので切断しないよう注意喚起
ワタリコウガイビル Image by Istock <a href="https://www.istockphoto.com/jp/portfolio/CraigCordier?mediatype=photography" target="_blank">Craig Cordier</a>

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 アメリカのテキサス州北部で、ここ最近の豪雨をきっかけに、毒を持つ侵略的外来生物が一斉に姿を現し始めた。

 それは、コウガイヒルの一種(学名:Bipalium kewense)」だ。

英語ではハンマーヘッド・ワームと呼ばれる、陸生のプラナリアの仲間である。

 プラナリアの仲間ということもあって、体の断片さえあれば、分裂して新しい個体として再生してしまう厄介な生き物でもある。

 当局では不用心に素手で触れないよう住民に周知するとともに、安易に潰したり身体を切断したりしないよう警告している。

テキサス州で爆殖する、毒を持つコウガイヒル

 コウガイヒルは、名前に「ヒル」とつくものの、あの血を吸うヒルとは別の生き物だ。

 問題となっているのは、学名「Bipalium kewense」という種で、東京都公園協会で「ワタリコウガイヒル[https://www.tokyo-park.or.jp/park/hachijo/creature/detail/0397.html]」と紹介されている例もある、コウガイヒルの一種だ。

 体長は12~20cmほど。背面は淡い黄褐色で、黒く細い縦縞が3本、その間に太い縦縞が2本あり、首の付け根あたりには暗色の帯が入っている。

 英語ではハンマーヘッド・ワームと呼ばれており、ほかのコウガイヒル同様、頭の部分がハンマーのように半円形に広がっていて、その付け根が一番細い。

 コウガイビルの仲間は東南アジア原産と考えられているが、今では世界中に広がっており、南極大陸以外のすべての大陸に外来種として棲みついているという。 

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コウガイヒルの危険性

 このコウガイヒルが問題視されている理由のひとつは、粘液に毒性が確認されていることだ。

 北米で見つかったコウガイヒルのうち、Bipalium kewense と Bipalium adventitum の個体から、フグ毒として知られるテトロドトキシン(TTX)が検出されたことが、学術誌『PLOS ONE[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371%2Fjournal.pone.0100718]』誌(2014年6月25日)に掲載された。

 この毒は、獲物のミミズを麻痺させるために働くほか、防御の役割も持つと考えられている。

 この粘液が人の皮膚や粘膜に付着すると、かゆみや軽度の炎症を引き起こすことがあるとされている。

 さらに、犬や猫などのペットが誤って飲み込んでしまうと、嘔吐や体調不良を起こす可能性があり、注意が必要だ。

 こうした理由から、テキサス州の公的機関(Texas A&M AgriLife Extension[https://agrilife.org/])では、庭やベランダでワタリコウガイビルを見つけても、決して素手で触らないよう警告している。

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分裂・増殖するため、切り刻んではいけない

 コウガイヒルはプラナリアの仲間で、身体を切断したり潰したりすると、逆に数を増やしてしまうという厄介な性質を持つ。体の断片ひとつからでも新しい個体が再生してしまうのだ。

 テキサス州農務局のシド・ミラー氏は、現地メディアを通じてこう警告している。

このワタリコウガイビルを安易に殺したり、潰したり、切り刻んだりしてはいけません。断片から新たな個体が増え、3~4匹に増えてしまうからです

 温暖な地域では、分裂・再生が繁殖と同じ働きを持ち、条件がよければ1か月のあいだに数回起きることもあるという。

 移動中に体の後方が自然にちぎれ、地面に残った断片がそのまま新しい個体として成長するケースも報告されている。

 そのため、駆除する場合は「1匹丸ごと」を確実に回収し、袋に入れて48時間冷凍するか、塩と酢を混ぜた液体に浸すといった方法が推奨されている。

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 コウガイビルは移動するとき、体の後ろのほうが自然にちぎれて地面に残ることがある。まるで、歩きながら自分のしっぽを置き去りにしていくような感じだ。

 残された小さな断片はただの切断された肉片ではなく、言わば新しい個体が生まれるための「タネ」である。

 10日ほど経つと、ちぎれた断片の先端に新しい「頭」が形成され、やがて完全な一匹のコウガイビルとして再生する。

 しかもこの「断片からの再生」は、気候や条件がよければ1か月に数回起きることもあるという。

 だからこそ、駆除する際は「1匹丸ごと」回収した上で、適切な処置を行う必要があるのだ。

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日本にも生息しているコウガイビル 

 実はコウガイビルは、日本にも外来種として入り込んでおり、東京都内でも分布を広げているそうだ。

 ミミズやカタツムリなどを好んで食べるため、家庭菜園や庭で遭遇するケースが多いという。

 コウガイビルの仲間は現在約100種程度が知られているが、分類が難しく、どのくらいの種類がいるのかは正確にはわかっていない。

 中には30cmを超えるものや鮮やかな体色を持つものもいる。

 下の写真はマレーシアで見つかった個体だそうだ、庭いじりの最中にこんなぬめぬめとしたクリーチャーに遭遇したら、悲鳴を上げてしまうかもしれない。 

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 通常のヒルやナメクジと思って潰したり、体を切り離したりすると、このクリーチャーの無限増殖を招いてしまうかもしれない。

 万一遭遇してしまったときのために、「不用意に触らない」「切らずに丸ごと処理する」という点を、頭の片隅に置いておくといいと思う。

【追記】(2025/11/16)
 本記事では当初、対象を「ワタリコウガイビル」として記載していましたが、この種の和名は文献によって表記に揺れがあり、国内での呼称も統一されていないことから、表現をコウガイヒル類に改めました。

 また、毒性に関する記述については、北米で採取された Bipalium kewense および Bipalium adventitum からテトロドトキシン(TTX)が検出されたとする研究を確認し、参考論文へのリンクを追記しました。

References: Toxic, invasive hammerhead worms seen in North Texas; How to kill it & report it[https://www.nbcdfw.com/news/local/north-texas-hammerhead-worm-sightings/3861766/] / Hammerhead flatworm/ Hammerhead slug[https://tsusinvasives.org/home/database/bipalium-kewense] / Invasivespeciescentre[https://www.invasivespeciescentre.ca/hammerhead-worm/]

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