小さな脳に大きな能力 マルハナバチは「モールス信号」のような光のサインを覚えられる
Image by unsplash <a href="https://unsplash.com/ja/@vengadesh_sago" target="_blank">Vengadesh Sago</a>

小さな脳に大きな能力 マルハナバチは「モールス信号」のような...の画像はこちら >>

 丸くてふわふわした体が愛らしいマルハナバチは、高度な社会性と高い知能を持つことで知られているが、今回さらに驚くべき能力が明らかになった。

 まるでモールス信号を読み取るかのように、短い光と長い光の点滅の違いを覚えることができるのだ。

 イギリスのロンドン大学クイーンメアリー校の研究チームが行った世界初の実験で、ハチたちは甘いごほうびにつながる光のサインを正確に学習したことが示された。

 研究者たちは、体積がわずか1立方mmほどの小さな脳が、光の点滅している時間の長さを読み取り、記憶していたことに驚きを示している。

 この研究成果は『Biology Letters[https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2025.0440]』誌(2025年11月12日付)に発表された。

光の点滅の長さでサインを読み取るマルハナバチ

 ロンドン大学クイーンメアリー校の研究チームは、マルハナバチが光の点滅の長さと報酬と結び付けて学習できるかどうかを調べるため、巣箱から続く3つの区画を通り抜ける迷路装置を設計した。

 各区画の入口には透明の扉があり、ハチは入る前に約10秒間、扉越しにモニターに映る2つの円を見ることができる。

 円には短い点滅と長い点滅が表示されており、これはモールス信号の点(短い光)と長線(長い光)の仕組みをそのまま置き換えたものだ。短い点滅は文字E、長い点滅は文字Tに対応する。

 これまで、この2つの長さの違いを明確に区別できたのは、人間やハト、マカクなど一部の脊椎動物にしか確認されていなかった。

 研究チームは、短い点滅の先に砂糖水を、長い点滅の先には苦い液体を置き、3つの区画ごとに2つの円の位置を左右で入れ替えた。

 そのため場所の記憶は当てにならず、点滅の長さだけを手掛かりに選ぶ必要があった。

[画像を見る]

光の長さを正しく学習したマルハナバチ

 訓練を重ねると、ハチたちは短い点滅の先に砂糖水があると覚え、位置が変わってもまっすぐ短い点滅へ向かうようになった。

 研究チームが砂糖水を取り除いて匂いを完全に消しても、短い点滅を選ぶ行動は続き、点滅の長さそのものを記憶していたことが確認された。

 デイヴィッドソン氏は、自然界に規則的な点滅刺激がほとんど存在しないにもかかわらず、ハチがこの課題を正確にこなしたことに強い驚きを示している。

[画像を見る]

自然界にない光の刺激が理解できた理由

 研究チームが特に注目したのは、このような点滅する光がマルハナバチの自然環境にはほとんど存在しないという点である。

 野外でハチが出会う光は、太陽光や木漏れ日などであり、今回の実験のように規則正しく点滅する人工的な光ではない。

 にもかかわらず、ハチたちは短い光と長い光の違いを素早く学び、その情報を使ってごほうびのありかを判断することができたのには驚きだ。

 デイヴィッドソン氏は、この能力がもともと、花から花へと移動するときの動きのリズムや、仲間とのあいだで交わされる合図のタイミングなど、日常の行動の中で時間のリズムを利用していた可能性があると述べている。

 このような社会行動を営む上で必要な能力が、人工的な光の点滅にも応用できたのではないかという。

[画像を見る]

小さな脳に備わった高度な時間処理能力

 今回の研究が示したのは、マルハナバチが光の点滅の長さを見分け、その違いを行動の判断に生かしていたことだ。

 これは時間処理能力と呼ばれ、何かがどれくらい続いたかを感じ取り、行動の選択に生かすための仕組みだ。

 動物には昼夜のリズムを作る体内時計があるが、数秒以下の短い時間の違いを判断する仕組みはまだ十分に解明されていない。

 脳の中に複数の速さで働く時計のような仕組みがある可能性があり、今回の結果はその存在を示す手掛かりになる。

 体積が1立方mmほどしかないマルハナバチの脳でも、点滅の長さを正確に学習できたという事実は、昆虫のように少ない神経細胞しか持たなくても高い処理能力を発揮できることを示している。

[画像を見る]

小さな脳がAI研究に与えるヒント

 ヴェルサーチ博士は、脳が小さい昆虫と脳が大きい哺乳類を比較することで、時間処理能力がどのように進化してきたかを解明できると考えている。

 また、マルハナバチのような小さな脳が見せる効率的な処理のしくみは、AI(人工知能)の設計にも応用できる可能性があるという。

 人工ニューラルネットワークのようなAIモデルでは、性能を上げようとすると、どうしても規模が大きくなりやすいが、ハチの脳は最小限の回路で正しい判断を行っている。

 生物の脳の仕組みを参考にすることで、効率的で無駄の少ないAIを設計するための手掛かりになると研究者たちは考えている。

References: Royalsocietypublishing[https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2025.0440] / Sciencedaily[https://www.sciencedaily.com/releases/2025/11/251112011803.htm]

編集部おすすめ