地球最古の生命の痕跡が33億3千万年前の岩石に閉じ込められていた
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南アフリカの古い岩石に眠っていた地球最古の生命の痕跡を、最新のAIがついに解読した。

 アメリカ、カーネギー科学研究所のロバート・ヘイゼン氏ら国際研究チームが、南アフリカで採取された33億3千万年前の岩石「ヨセフスダール・チャートを分析したところ、生物が残した最も確実な化学的証拠を発見した。

 この研究で、初期の生命が残した、識別が極めて困難な微細な化学的パターンをAIが読み解けることが証明されたのである

 さらにこの発見は、生命のエネルギー源である光合成が、従来の記録より8億年以上も前から行われていた可能性を示唆しており、地球生命誕生の歴史を大きく書き換えることになるだろう。

 この研究成果は『Proceedings of the National Academy of Sciences[https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2514534122]』誌(2025年11月17日付)に掲載された。

南アフリカの岩石に残された生命活動の証拠

 カーネギー科学研究所の鉱物学者で宇宙生物学者のロバート・ヘイゼン氏が率いる国際研究チームは、南アフリカ・ムプマランガ州で発見された古代の炭素の化石残骸を分析した。

 その結果、33億3千万年前の珪岩「ヨセフスダール・チャート(Josefsdal Chert)」に含まれる炭素の断片が、地球上で確認された中で最も古く、そして最も確実に生命活動によって生成されたものであることが明らかになった。

 珪岩(けいがん)とは、砂岩が熱や圧力で変成してできた、石英を主成分とする非常に硬く緻密な岩石のことだ。

 研究チームはさらに、南アフリカとカナダでそれぞれ発見された25億2千万年前と23億年前の岩石を調査し、光合成の最古の証拠も発見した。

 これによって、光合成が始まった時期が従来の記録より8億年以上も遡ることがわかった。

 地球上の生命は想像以上に早い段階でエネルギーを生み出す仕組みを獲得していたことになる。

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識別を難しくする経年による岩石の変化

 ヘイゼン氏は「古代の生命は化石だけでなく、化学的な痕跡も残している」と語る。

 地球上で最初に誕生した生命は、微小な微生物だったと考えられている。その物理的な姿は、原始の湿地に出現してから数十億年の間に、時間の経過とともに熱や圧力、地質変動などによって劇的に変化してしまった。

 それでも、微生物たちは完全に痕跡を消したわけではない。

 その一例がストロマトライトと呼ばれる層状の岩石構造である。

 ストロマトライトは、光合成を行うシアノバクテリア(藍藻類が堆積物を取り込みながら層を作り、やがて岩石として化石化したものだ。

 現在もオーストラリアのシャーク湾などで観察されており、太古の生命活動の証拠とされている。

 また、黒色珪岩や頁岩、炭酸塩岩といった岩石にも、古代の炭素が封じ込められている。

 こうした岩石は、微生物の代謝活動で生成された炭素を保持している可能性があるが、長い年月の中で化学的に変質し、もとの構造が大きく損なわれている。

 そのため、これらの炭素が生命活動によって生じたものなのか、それとも非生物的な化学反応で形成されたものなのかを確実に区別するのは非常に難しかった。

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AIが不可能を可能にした「ジグソーパズル」戦略

 この難題を解くために、ヘイゼン氏が率いる研究チームは、カーネギー科学研究所の宇宙生物学者マイケル・ウォン氏、AI研究者アニルドゥ・プラブー氏と協力し、生命によって生じた古代の炭素を確実に識別する新しい方法を開発した。

 研究者たちはまず、比較的若い地層に残された試料を詳しく調べ、生物由来の分子が作り出す特有の化学パターンを抽出した。これらのパターンは、人間の目や従来の分析装置ではとらえきれないほど微妙な差を含んでいる。

 そこで彼らは、その“分子の癖”をAIに学習させた。AIは膨大なデータの中から人間では見落とすようなわずかなパターンの違いを見分け、生命の痕跡を高精度で識別できるようになったのである。

 ヘイゼン氏は「これは、数千枚のジグソーパズルのピースをコンピューターに見せて、元の光景が花だったのか隕石だったのかを尋ねるようなものだ」と説明する。

 AIは個々の分子そのものではなく、分子の種類や比率、結合の仕方といった全体の化学的な構成パターンを読み取り、そこから生物由来かどうかを判断する。

 その結果、AIはこれまで誰も見抜けなかったパターンを捉え、岩石の中に眠る生命の痕跡を浮かび上がらせることに成功した。

 この手法は、地球の過去を解き明かすだけでなく、他の惑星で生命の存在を探す研究にも応用できる可能性を秘めている。

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AIと熱分解分析を組み合わせ、太古の生命を高精度で検出

 研究チームは最終的に、現代の生物から古代の化石まで、合計406点の試料を集めた。

 その中には、ストロマトライトや、シリカ(二酸化ケイ素)の中に閉じ込められた炭素の痕跡なども含まれていた。

 これらの試料は「熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析(略称:Py-GC-MS)」という手法で分析された。

 Py-GC-MSでは、試料を高温で加熱し、有機物を小さな分子片に分解してから、それぞれの質量を測定する。

 この方法によって、試料に含まれる有機化合物の構成を分子レベルで明らかにできる。

 AIモデルは、この分析データを一つひとつ解析し、生命活動によって生じた化学的なパターンを探し出した。

 その結果、AIは90%を超える精度で、生物由来の信号を識別することに成功した。これは従来の技術では不可能とされていた精度である。

 AI研究者のアニルドゥ・プラブー氏は「AIは、長年研究されてきた試料に新しい視点を与える強力なレンズのようなものだ」と語る。

 たとえ岩石中の有機物が劣化していても、AIは古代の生命活動によって残されたわずかな分子パターンを検出し、その存在を明確に示すことができるのである。

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33億年前の地球に息づいていた生命

 研究チームが分析した岩石の年代は、現在からおよそ38億年前まで遡る。

 その中には、37億年前のグリーンランドで見つかった炭素や、35億年前のオーストラリア産ストロマトライトなども含まれていた。

 古い岩石ほど地質変化によって化学情報が失われ、生物的な信号は弱まっていたが、33億3千万年前のヨセフスダール・チャートの珪岩だけは明確な生命の痕跡を示した。

 しかし、これより古い岩石が生命と無関係だったというわけではない。

 炭素があまりに劣化しており、AIでも生命活動の痕跡パターンを識別できなかった可能性があるためだ。

 それでも今回の結果によって、科学者たちは33億3千万年前の地球にすでに生命が存在していたことを確実に示す証拠を手にした。これは、現在知られている中で最古の生命の痕跡である。

 そして、その起源はさらに古い時代にさかのぼる可能性が高い。

 ヘイゼン氏は「化学分析とAIを組み合わせることで、初期生命が残したわずかな分子の痕跡を読み取ることができるようになった。地球最古の岩石には、まだ語られていない多くの物語が眠っている」と語る。

 この研究は、地球の深い時間の中で育まれた生命の確かな証を、現代の科学が初めて読み取った成果といえる。

References: Carnegiescience[https://carnegiescience.edu/chemical-evidence-ancient-life-detected-33-billion-year-old-rocks] / PNAS[https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2514534122]

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