バットマン効果。ヒーローの姿を見るだけで、人はより親切になるという研究結果
Image by unsplash <a href="https://unsplash.com/ja/@serge_k" target="_blank">Serge Kutuzov</a>

バットマン効果。ヒーローの姿を見るだけで、人はより親切になる...の画像はこちら >>

 もしも突然目の前にヒーローが現れたら、あなたの行動は変わるだろうか?

 イタリア北部の都市ミラノで興味深い社会実験が行われた。研究チームはまず、妊婦のふりをした実験協力者を電車内に乗せ、次にバットマンのコスプレをした協力者を登場させた。

 すると、席を譲るなどの親切な行動をした乗客の割合が、バットマンがいないときに比べて約1.8倍に増えたという。

 研究者たちはこの現象を「バットマン効果」と名付け、この結果が 予期せぬ出来事が人の注意を日常から引き離し、意識を「今この瞬間」へ向けさせることで、人の優しさを引き出す可能性があると説明している。

 この研究成果は『npj Mental Health Research[https://www.nature.com/articles/s44184-025-00171-5]』誌(2025年11月3日付)に発表された。

地下鉄で行われた社会実験「バットマン効果」

 利他的な行動(他人を助ける親切な行為)や向社会的な行動(他人や社会全体に利益をもたらす行動)は、人が社会生活を維持していくうえで必要な要素である。

 しかし、どのような環境的な刺激が、私たちに親切心を起こさせるのかは、これまであまり詳しく調べられていなかった。

 そこで、サクロ・クオーレ・カトリック大学の心理学者、フランチェスコ・パニーニ教授率いる研究チームは、予期せぬ出来事(非日常性)が、人々の行動を変化させるかどうかの検証を行った。

 イタリア・ミラノの地下鉄の混雑した列車でフィールド実験を実施し、138人の乗客を対象に、普通の状況と、予期せぬ状況で行動が変わるかどうかを観察した。

 まず、妊婦のふりをした実験協力者が、普通の身なりをした研究者と共に電車に乗り込み、席に座らずに立っていた。

 すると、妊婦に席を譲った乗客は37.66%と、3人に1人をわずかに超える程度であった。

 次に、バットマンのコスチュームを着た協力者が、電車の別のドアから登場した。

 この予期せぬ遭遇に直面した乗客たちは、席を譲る可能性が大幅に高くなった。

 バットマンがいる状況では、席を譲った乗客は67.21%に上り、3人に2人以上が親切な行為をしたのである。

 この結果から、研究チームは予期せぬ出来事が人の注意を日常から引き離し、利他的な行動をうながすことを確認し、「バットマン効果」と呼んだ。

[画像を見る]

予期せぬ刺激で周囲に目が向きやすくなる

 この結果は、バットマンのような非日常の「予期せぬ刺激」が、乗客の利他的な行動を著しく増加させたことを示している。

 パニーニ教授は、この現象のメカニズムについて次のように説明する。

 我々の脳は省エネにできているため、普段は無意識のうちに習慣で物事を処理する「自動操縦」状態にある。

 この状態では、スマートフォンを見たり、ぼんやりと景色を眺めたりして、「妊婦の人が立っている」といった周囲の社会的合図を見逃しがちになる。

 しかし、非日常の象徴であるバットマンの出現は、私たちの注意を強制的に「今目の前にある現実」に引き戻す。

 日常の予測可能性が乱れることで、乗客は何も考えずに習慣で動く状態から解放され、周囲を明確に認識できるようになるのだ。

 その結果、目の前の困っている人にも気づきやすくなり、親切な行為につながったと考えられる。

[画像を見る]

見ていなくても発動するバットマン効果

 さらに興味深いのは、バットマンの登場に気づかなくても親切な行動を取った乗客が多かった点である。席を譲った人のうち44%は「バットマンを見ていなかった」と答えている点にある。

 これは、予期せぬ出来事が意識の外でも人の親切心を刺激する可能性を示している。 

 バットマンが出現したことによる場の雰囲気や変化が、人から人へと伝染し、「今この瞬間に意識を向けること」(マインドフルネス)を高め、親切心を促したと考えられる。

 パニーニ教授は、「心を積極的に集中させる訓練が必要な従来のマインドフルネスは異なり、この研究は予期せぬ出来事という状況的な中断だけで同様の効果を生み出すことを示した」と述べている。

 このことから、「目新しさ」や「予測不可能性」が、私たちの注意の切り替えを通して、他人への配慮や利他的な行動を促すメカニズムがあると考えられる。

[画像を見る]

バットマンが引き出した「ヒーローの心」

 また、バットマンというスーパーヒーローの姿が、乗客の中に眠る文化的な価値観、例えば「困っている人を助けるべきだ」とする道徳心の高まりを呼び起こした可能性もあるという。

 これはプライミング効果と呼ばれる心理現象と一致する。これは、先行する刺激が、その後の判断や行動に無意識のうちに影響を与える心理効果のことで、今回の場合、バットマンの姿を先に目にすることで、それに関連する考えや行動(正義感や優しさ)が引き出されやすくなる。

 つまり、バットマンの姿は、乗客の中に親切な行為を促すスイッチを入れる役割も果たした可能性があると、パニーニ教授は結論づけている。

 この発見は、公共の場で人間が本来持つ思いやりを引き出すために役立つかもしれない。

References: Nature[https://www.nature.com/articles/s44184-025-00171-5] / PHYS[https://phys.org/news/2025-11-batman-effect-mere-sight-superhero.html]

編集部おすすめ