NASAが謎の恒星間天体「3I/ATLAS」の画像を公開、彗星である可能性が濃厚に
MROが撮影した3I/ATLAS Image credit:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona

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 太陽系外からやってきた謎の訪問者、恒星間天体「3I/ATLAS」は、その特異な軌道と奇妙な組成から、ハーバード大学の天文学者らが提唱する地球外知的生命体の宇宙船説をはじめ、様々な論争を巻き起こしてきた。

 NASAの探査機が3I/ATLASが火星に接近した様子を撮影した画像は、米国連邦政府の閉鎖という異例の事態により、公開が一時差し止められていた。

 そしてついに、NASAを中心とした15の宇宙ミッションが総動員して収集した大量の画像と観測データが公開された。

 さらにNASA担当者は「3I/ATLASが彗星である可能性が極めて濃厚である」と発表した。

 画像や組成データは、この天体が知的生命体の技術的な痕跡を持たない、単なる古代の氷塊であることを強く示唆しているという。

NASAが公の場で彗星説を主張

 NASAの副局長アミット・シャトリヤ氏は、今回の観測画像公開にあたり、ハーバード大学の天体物理学者アヴィ・ローブ教授らが主張する宇宙船説を、公の場で明確に否定した。

 シャトリヤ氏は「3I/ATLAS体は彗星のような見た目と振る舞いをしており、すべての証拠がそれが彗星であることを指し示している」と断言した。

 NASA科学ミッション局の副局長であるニッキー・フォックス博士も、観測結果を裏付けるように「彗星以外の何かであると信じさせるような、テクノシグネチャーは一切見当たらなかった」と語っている。

  テクノシグネチャーとは、例えば、天体の表面にある人工的な構造物や、不自然な電波信号など、宇宙人が作ったものだと推測できる証拠のことだ。しかし、3I/ATLASにはそういったものが一切見つからなかったという。

 科学者たちは、3I/ATLASが太陽系内の天体とは異なる見た目と振る舞いをしているからこそ、魅力的で科学的に重要だと認識している。

 この天体が宇宙船である必要はなく、古代の異星天体であるだけで、私たちにとっては大きな価値があるのだ。

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なぜ画像公開は遅れたのか?

 恒星間天体3I/ATLASが火星に接近したのは現地時間で2025年10月2日頃だ。

 火星周回軌道上のMRO(マーズ・リコネッサンス・オービター)に搭載されたHiRISEカメラは、その貴重な瞬間を捉えることに成功したが、画像が公開されるまでにタイムラグが生じた。

 その理由は、米国連邦政府の予算が議会で成立せず、一部の政府機関が閉鎖状態に陥ったためである。この閉鎖措置により、NASAの職員の一部が自宅待機となり、データの分析や公開作業が停止した。

 この不可抗力による遅延は、天文学者や議員からの激しい抗議を招く騒動に発展した。

NASAの火星探査機MROがとらえた彗星の兆候

 長らく非公表だったこれらの画像とデータが、政府閉鎖の終結を経て、2025年11月19日(現地時間)、ついに公開されたのだ。

 公開された画像の中で、NASA当局者が最初に強調したのがMROの画像だ。

 MROに搭載されたHiRISEカメラは、10月2日、3I/ATLASがMROから約3100万km離れた距離にあった際に画像を撮影した。

 シャトリヤ氏は、HiRISEの画像について説明する。「画像で3I/ATLASはぼやけた白いボールのように見える。そのボールは、彗星が太陽に向かって進むにつれて放出されたコマ(塵と氷の雲)である」

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15の探査機が連携して観測

 今回の観測は、地球から見えにくい角度にあったため、火星側や太陽の反対側に位置する探査機が重要な役割を果たした。

 ルーシー探査機は9月上旬、約6400万kmの距離から彗星の尾やガスの光の輪を撮影。NASAの「サイキ」探査機も同時期に観測を行った。

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 さらに、欧州宇宙機関(ESA)とNASAの共同観測衛星SOHOやパーカー・ソーラー・プローブも、10月中旬に3I/ATLASをとらえた。

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 合計でハッブル、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)、TESS、スウィフト、SPHEREx、パーサヴィアランス、MRO、MAVEN、エウロパ・クリッパー、ルーシー、サイキ、パーカー、PUNCH、STEREO、SOHOの15基が観測に参加している。

 特にジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とSPHEREx宇宙望遠鏡は、人間の目には見えない赤外線を使ってこの天体を撮影した。その画像には、3I/ATLASの成分がはっきりと映し出されていた。

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 こうした探査機同士の連携によって得られたデータは、将来、宇宙から飛来する物体から地球を守る「惑星防衛技術」の精度を高めるためにも役立つという。

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3I/ATLASに多く含まれるニッケルの謎

 NASAの天体物理学部門のショーン・ドマガル・ゴールドマン博士は、画像分析の結果、3I/ATLASが太陽に接近する際に放出されるガスと塵の雲の中に、豊富な二酸化炭素ガスが写っていることを確認したと述べた。

 さらに赤外線画像は、3I/ATLASの核に水の氷とともに二酸化炭素が存在することも示している。

 NASAの太陽系小天体担当の主任科学者トム・スタトラー博士は「3I/ATLASは通常の彗星と同じように二酸化炭素ガスと水を蒸発させている。しかし、水に比べてより多くの二酸化炭素を蒸発させている点は、非常に興味深い」と述べている。

 また、画像の解析によって、さらに奇妙な事実が視覚化された。

 3I/ATLASは太陽からかなり離れた極低温の場所にいたときでさえ、光るニッケルの蒸気を放出していたのだ。

 スタトラー博士によると、一般的な彗星からも鉄やニッケルは検出されるが、3I/ATLASの場合は鉄よりもはるかに多くのニッケルを放出しているという。

 なぜこれほど成分が偏っているのかは、今後詳しく研究すべき重要なテーマになるとのことだ。

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3I/ATLASは太陽系より古い星系から来た可能性 

 スタトラー博士は、この恒星間天体3I/ATLASの出生地について、 「確かなことは言えないが、この天体は私たち自身の太陽系よりも古い恒星系(星系)からやってきた可能性が高い」と語る。

 銀河系は広大で、星と星の間は遠く離れている。そのため、別の星系から太陽系までたどり着くには、気の遠くなるような長い時間がかかる。3I/ATLASは非常に長い間、暗い宇宙空間を旅していたことになる。

 私たちの太陽系が生まれるよりも前に誕生し、宇宙空間で冷凍保存されたまま運ばれてきた「タイムカプセル」のようなものである。

 博士は、この古代のデータが遠い宇宙の物語を伝えていることに感動をしているという。

 3I/ATLASは12月19日に地球に最接近する予定であり、さらなる撮影が期待される。

 科学者たちは、その正確なサイズさえまだ特定できていないが、3I/ATLASの最後の姿をとらえるまで、この恒星間天体の探求は続くことだろう。

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References: Arizona.edu[https://news.arizona.edu/news/u-mars-camera-gets-close-look-comet-interstellar-space] / Space[https://www.space.com/astronomy/comets/nasa-reveals-new-images-of-interstellar-comet-3i-atlas-from-across-the-solar-system-it-looks-and-behaves-like-a-comet]

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