動物界のお釈迦様とも呼べるカピバラは、温和な性質を持ち、どんな動物も受け入れ、そばに寄り添うことができる懐の深さをもっている。
驚くことに、獰猛な捕食者として知られるワニの隣でさえ、のんびりとくつろぐ姿が目撃されている。
本来なら格好の獲物になりそうなものだが、なぜワニはカピバラを襲わないのか?その生物学的理由について迫ってみよう。
世界最大のげっ歯類、カピバラ
カピバラは世界最大のげっ歯類で、体長はおよそ1mから1.3m、体重は35kgから65kgに達する。
南アメリカの東部から中央部にかけてのアマゾン川流域を中心とした温暖な水辺に生息している。
日中は湖や川、沼地のそばでのんびりと過ごし、主食であるイネ科の草や水草を食べて暮らしている。
カピバラは群れを作る社会的な動物であり、10頭から20頭ほどの集団で行動することが多い。性格は非常に穏やかで、他の動物が近くにいても気にせず過ごす。
その生息域はジャガーやアナコンダ、ワニといった上位捕食者が潜むジャングルの水辺と重なっており、危険地帯でもある。
ワニはめったに成獣のカピバラを襲わない
カピバラが生活圏とする水辺は、ワニ目アリゲーター科に属するカイマンの生息地と完全に重なっている。
カイマンは南米の淡水域の代表的な捕食者で、種によって大きさが異なるが、一般的な個体は体長1.5mほど、中には2mを超える個体も存在する。
強力な顎の力をもってすれば、近くでのんびりしているカピバラは簡単に捕らえられそうに思える。しかし、現実には成獣がカイマンの餌になることはまれだ。
フロリダ州ベスーン・クックマン大学のエリザベス・コングドン准教授は、IFLScience[https://www.iflscience.com/why-do-crocodiles-not-eat-capybaras-81643]の取材に対し「野生でカイマンがカピバラを狙うのは非常にまれな行動だ」と説明する。
もちろん、カピバラが絶対に安全というわけではない。コンドン博士によれば、食料が乏しい厳しい状況になれば、カイマンもカピバラを襲うという。
あくまで「日常的に」優先される獲物ではないだけなのだ。
ただし、これには悲しい例外がある。無防備な赤ちゃんカピバラだ。防御手段を持たない幼体は、ワニだけでなく、空からの猛禽類にとっても格好の獲物になってしまう。
ワニがカピバラを襲わない理由は意外と強いから
では、なぜ成獣のカピバラはほとんど襲われないのか。その理由は、彼らが「意外と強い」からだ。
カピバラはのほほんとしているように見えるが、その口には長く鋭い前歯が備わっており、噛む力も強い。ワニが襲い掛かれば、その巨体と鋭い歯で激しく抵抗し、ワニ側が大怪我をする恐れがある。
コンドン博士は、ワニにとってカピバラは「割に合わない獲物」なのだと説明する。
水辺には魚など、反撃のリスクがなくて食べやすい獲物がたくさんいる。わざわざ怪我をするリスクを冒してまで、厄介な相手を襲う必要はないというわけだ。
カピバラはワニが近くにいても落ち着き払っている。心に余裕があるからなのかもしれない。
コンドン博士はカピバラの持つ寛容な一面について、こう語っている。
「私の手元には、背中に鳥を乗せていたり、眠っている間にカメが背中で甲羅干しをしていたりする写真があります。動物園や飼育下でもよく見られる光景ですね」
博士によれば、カビバラは平和的な動物だという。 「食べるための草地と、涼むための池さえあれば、彼らはそれで十分ご機嫌なんですよ」
相手が脅威でない限り、誰とでも場所を共有する。そのおおらかな性格こそが、彼らが多くの生き物に囲まれている理由なのだろう。
最大の脅威は人間
カイマン、ジャガー、アナコンダ、オセロット、オウギワシなど、南米の猛者たちも、リスクとコストが見合う「特定の状況下」であればカピバラを捕食することがある。
だが、カピバラにとって、自然界の天敵以上に最大の脅威は人間だ。
南米の多くの地域社会では、カピバラは伝統的な食材として扱われている。一部の国では法的に狩猟が禁止されているものの、依然として野生個体は狩猟され、食べられているのが現状だ。
こうした野生個体群への乱獲圧力を和らげるため、近年では食肉生産を目的としたカピバラ牧場も登場しており、この種は意外にも商業的な畜産に適していることが判明している。
しかし、牧場で飼育できるほど温厚だからといって、そののんびりした態度を侮ってはいけない。
彼らは野生動物としての本能と武器を持っている。
References: Why Do Crocodiles Not Eat Capybaras?[https://www.iflscience.com/why-do-crocodiles-not-eat-capybaras-81643]











