巨大な鹿にコウノトリ!送電鉄塔をアートに変えるプロジェクト
image credit:GP-Design for Austrian Power Grid

巨大な鹿にコウノトリ!送電鉄塔をアートに変えるプロジェクトの画像はこちら >>

  私たちの暮らしに不可欠な送電用の鉄塔は、自然の景観になじみにくい設備だが、オーストリアでその形状を大胆アートにする試みが話題だ。

 現地の送電事業者が公開中の「Power Giants(パワー ジャイアンツ)」は、オーストリアの9つの各州に象徴的な動物を割り当て、その姿を模した鉄塔を巨大彫刻のようにデザインするプロジェクト。

 すでに試作モデルが事前試験を通過し、国際的なデザイン賞まで受賞している。

 大きく目立つインフラを景観になじませ、工学と芸術がまじりあう新ランドマークに変貌させる挑戦に注目が集まっている。

動物形の鉄塔をデザインに「Power Giants(パワー ジャイアンツ)」

 話題のプロジェクト「Power Giants(パワー ジャイアンツ)」は、オーストリアの送電事業者APG(Austrian Power Grid) が、同国全土の9つの連邦州それぞれに象徴的な動物形の鉄塔を設置するという構想だ。

  すでに2つの連邦州向けの設計試験が始まっており、コウノトリとオスの鹿(牡鹿)の試作モデルが用意されている。その2種にも各州にちなんだ意味が込められている。

・コウノトリ(ブルゲンラント州):渡り鳥として「再生と渡り」を象徴。同州の都市ルストは「コウノトリの街」として知られる。

・牡鹿(ニーダーエスターライヒ州):アルプスの森を象徴し「力と伝統」を表す。

[画像を見る]

[画像を見る]

 その他の地域、ケルンテン、オーバーエスターライヒ、ザルツブルク、シュタイアーマルク、チロル、フォアアールベルク、ウィーンにも、象徴的な動物を割り当てる予定だ。

 巨大な動物たちが送電線を支える姿は、遠くからでもすぐわかり、写真映えもばつぐん。斬新なランドマーク型インフラ案として注目されている。

現実的な安全も念頭に試験も実施

 APGによると、現時点では設置計画はなく、コンセプトとして提示されている段階だが、鉄塔の見ためだけでなく、現実的な安全まで念頭に置いており、すでにあるテストモデルについては、有限要素解析(FEA)や風洞試験で安全性を検証済みとのこと。

[画像を見る]

 また構造安定性と高電圧性能についても、あらかじめ試験が行われており、設計も欧州で送電線新設時に参照される共通仕様、欧州規格EN 50341を考慮している。

 さらにモジュール化された鋼材ラティス構造とし、保守性や互換性を確保するなど、ただの思いつきにとどまらず、実際に機能する送電鉄塔の可能性を探っている。

[画像を見る]

鉄塔を「邪魔者」ではなく「地域の象徴」に

 従来の鉄塔は「自然の景観を損ねる存在」として、あまり歓迎されてこなかった。

 だがAPGはその課題を逆手に取り、鉄塔を「邪魔者」ではなく「地域の象徴」に変える戦略を採用した。その狙いについても以下のように公表している。

自然志向のデザインにより、地域のビジネスや観光を強化し、送電網拡張の受容性を高めることを目指しています

送電塔に工夫を凝らす試みは世界各地で

 送電塔の設計に工夫を凝らす試みは世界各地で行われている。

 こちらも実現には至たってないが、ユニークかつ印象に残るデザインとして話題となった代表例のひとつが、アイスランドの 「Land of Giants™」だ。

 国際的なデザインスタジオ Choi+Shine Architects が2008年に提案したLand of Giants™[https://choishine.com/Giants.html]は、従来の鉄塔をわずかに変えて、人型の巨大な彫像のように見せるもの。

[画像を見る]

 丘に面したものは「登る巨人」の姿勢、さらに長い区間では「背を伸ばす巨人」や「重さに耐える巨人」の姿を模すなど、設置する環境に合わせてポーズが考えられてるところも面白い。

[画像を見る]

 およそ45m級の鉄塔が「歩く巨人」として景観に溶け込むアイデアは、観光資源として期待もできる、と注目された。

[画像を見る]

 このデザインは、のちに国際的な賞も受賞。ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館やカナダ科学技術博物館に模型が展示されている。

 一方、イギリスではアートではないが 「T-Pylon[https://bystrup.dk/filter/built/T-Pylon]」という新型鉄塔 が導入され、従来よりスリムで高さ約35メートルの設計に刷新された。

[画像を見る]

 送電およびガス供給事業者 National Gridが採用したこの鉄塔は、資材削減や景観調和を意図しており、BBCでも「従来の鉄塔よりも現代的で、視覚的負担を減らす」[https://www.bbc.com/news/uk-politics-66404487]と報じられている。

 またドイツでは 「Strommast der Zukunft(未来の送電鉄塔)」 というプロジェクトのもと、電磁的な影響や設置面積を減らす新素材・新形状の試験が行われている。

 こうした事例と比べると、APGの「Austrian Power Giants」は、アート的な美観の追求のみならず、地方の文化や動物の象徴を組み込む点で独自性が際立つ。

[画像を見る]

 そのように地域に根差した「文化的固有性」を鉄塔のような巨大なインフラに反映させるアイデアはなかなかに興味深い。

「写真映えなら賛成」「観光資源に」の声

 さてこのプロジェクトへの反響は…というと、ユーザーからは賛否両論、さまざまなコメントが寄せられている。

  • 地域の観光資源になりそうだし、写真映えするなら賛成!
  • 動物の形だったら、景観に溶け込んで面白いと思う
  • コストや投資回収はどうする気だ?無駄遣いに見える
  • こうやって未来の考古学者を混乱させるのか…

 また専門家や有識者からはこんな見解も。

  • コストや効率を持ち出す人は、この機能美あふれる彫刻の感情的価値を理解していない (国際的なプロダクトデザインYanko Design サイトの編集者 サラン・シス)
  • アート化した送電塔に地域のアイデンティティを反映することで、住民の誇りを刺激する観光資源になり得る (環境技術関連オンラインメディア Green Technology Investments )

世界が注目するランドマーク型送電塔のさきがけ

 Power Giantsのデザインは、2025年ドイツのデザインセンターが主催する、世界的にも権威あるプロダクトデザイン賞 レッド・ドット・デザイン賞[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3%E8%B3%9E](電化・脱炭素コンセプト部門)を受賞。

 そのミニチュア模型は、シンガポールにある同賞関連の展示施設 レッド・ドット・デザイン・ミュージアム で2026年10月まで一般展示されている。

 そんなわけでオーストリアのPower Giantsは、世界のインフラ設計者までもが注目するランドマーク型送電塔のさきがけといえそう。

 実際に建設されるかは未定だが、新たな成長産業として観光資源の発掘が世界的なブームのこの時代、技術的な検証も順調にいけば、オーストリアの新たな見どころって形でいつか紹介されるかも。

References: Newatlas[https://newatlas.com/architecture/austrian-power-giants/] / Red Dot[https://www.red-dot.org/de/project/austrian-power-giants-83082] / Mymodernmet[https://mymodernmet.com/austrian-power-giants/]

編集部おすすめ