アメリカで毎年行われている「ヒーロー犬賞」で、2025年は元野良犬のセラピードッグがその栄冠を手にした。
この犬の名前は「サージェント・ボー(ボー軍曹)」。
彼は2023年に地元の学校で起きた銃乱射事件のあと、恐怖に震える子供たちの傍に寄り添い続け、その後も地域にとって大きな慰めとなった。
残念ながら、ボーは今年になって膝の関節の靭帯を損傷したため、警察での任務からは退いたが、その後も地域の学校を回って子供たちに癒しを与え続けているという。
元野良犬出身のセラピードッグ
サージェント・ボーは現在4歳の雑種犬で、テネシー州ナッシュビルを拠点に活動してきたセラピードッグだ。
彼はもともと、フロリダ州で路上生活をしていた野良犬だったという。だが2022年に保護された後も、ボーにはなかなか引き取り先が見つからなかった。
そこでボーは、現地の保安官事務所が行っていた「Paws and Stripes College」というプログラムに参加することに。
このプログラムは、保護犬の中から適性のありそうな犬を選び、受刑者が訓練係となって、ワーキングドッグ(使役犬)としての訓練を行おうというものだ。
ボーはセラピードッグ候補としての訓練を受けた後、テネシー州のナッシュビル警察(MNPD)に「異動」。
ここでさらにセラピードッグ養成プログラムに所属し、訓練を終えた後はセラピードッグとしての任務に就くことになった。
この養成プログラムは、元野良犬を対象に、トレーニングを行ってセラピードッグを要請するためのものだ。
「学校担当」のセラピードッグに就任
プログラムを提唱したのは、当時ナッシュビル警察で、スクール・リソース・オフィサー(SRO)、つまり学校に配属される警察官をしていたフェイ・オーカートさんだ。
私がサージェント・ボーに出会ったのは、Paws and Stripesでの初日の訓練が終わる間際でした。実際に直接会って触れ合うまでに、8時間もの長い時間を過ごしたことになります。
その前の週には、受刑者たちが彼と一緒に働いている写真や動画を見ていました。私が彼に会ったのは、2022年12月12日のことでした。
当時は知る由もありませんでしたが、彼との出会いが私の人生と、33年間のキャリアを大きく変えることになったのです
SROとは、地域の防犯活動の一環として、学校内に常駐したり、校内や学校周辺のパトロールを行ったりする学校担当警察官のことである。
校内で発生するトラブルや犯罪に対処し、学校生活の安全を守るのが任務であり、そのための訓練も受けている。
ご存じの通り、アメリカでは度々学校内での銃乱射事件が発生しているほか、学生の間でドラッグの売買や暴力などのトラブルが起こることも多い。
そこで警察官を配置して、何かあった場合に生徒たちの安全を守るとともに、法的な対応が取れるようにしているのだ。
フェイさんはハンドラーとして、ボーの訓練を担当。その後正式にセラピードッグとなったボーは、フェイさんとペアを組んで正式に任務に就くことになった。
地元で発生した銃乱射事件で、子供たちの大きな助けとなる
ふたりは地域の学校を回って、トラウマを抱えた子供たちや大人に寄り添った。そして3か月後、ふたりの間に信頼が築かれ始めたころ、大きな事件が起こった。
2023年3月27日の朝、市内にあるコベナント・スクールで銃乱射事件[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%99%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E9%8A%83%E4%B9%B1%E5%B0%84%E4%BA%8B%E4%BB%B6]が発生し、9歳の生徒3人と職員3人の、合わせて6人が命を奪われたのだ。
上司からすぐに電話が入り、やがて到着し始める子供たちのために、サージェント・ボーを連れて(子供たちと家族の)再会地点で待機するよう指示されました。
私たちはその時点で、3か月という短い期間の間でたくさんの現場を経験してきましたが、これはこれまでで最も感情的に厳しい出動になるだろうと覚悟しました。
私は2人の孫たちのことを思い浮かべ、コベナント・スクールの子供たちを守り、慰めてあげたいと思いました。もし自分の孫たちが同じ状況に置かれたら、同じようにしてほしいと願うでしょう
犯人は同校の元生徒であったエイデン・ヘイル(28)だったことが判明した。
この悲劇で、地域は混乱と悲しみに包まれた。特に生徒たちが受けたショックははかり知れないほど大きかった。
ボーは子供たちが乗った避難用のバスに乗り込んで、恐怖で震える子供たちが体を預けられるよう、その傍らに身を寄せた。
その後は学校への登下校時にも子供たちに寄り添い続けた。ボーは「最も暗い時期」にあった地域社会にとっての、ささやかな拠り所となったのだ。
この時、フェイさんは子供達に、サージェント・ボーの写真やプロフィールが印刷されたトレーディングカードを配ったそうだ。混乱の最中、子供たちはそれを大事そうに握りしめていたという。
このカードは大成功でした。子供たちが学校に戻ったあと、多くの保護者から「子供と再会した瞬間、あなたからもらったボーのカードを嬉しそうに見せてくれた」と聞かされました
フェイさんは、任務中冷静さを保てたのは、ボーのおかげだったと語っている。
生存者たちが経験した凄惨な悲劇は、天地を揺るがすほど衝撃的で胸が張り裂けるほど悲痛なものでした。
私はその間、ボーのおかげで自分の感情を抑え、家族との再会を待つ不安定な状況下で、子供たちにとっての心の支えとなれたのです。
何が起こったのかを理解できずにいる子供たちに、安心と安全を与えてくれたボーの仕事は、警官としての私だけでは提供できなかったものでした
事件後も、フェイさんとボーは少なくとも週に一度はコベナント・スクールを訪問し、子供たちのケアを続けたという。
また、地域の他の学校も訪問して、子供達に寄り添い、彼らの安全を真もr続けた。任務に就いて以来、ボーは285回以上もの派遣任務を経験。
アメリカンケネルクラブ(AKC)から、訪問回数200回以上の犬に贈られる「セラピードッグ・エクセレント」の称号を獲得したそうだ。
全米からノミネートされた犬たちの中の「ヒーロー犬」に
今回、ボーが受賞した「ヒーロー犬賞(American Humane Hero Dog Awards)」は、アメリカの保護団体American Humane Society[https://www.americanhumane.org/]が毎年実施している賞で、災害派遣や警察、軍務での活動のほか、セラピーや介助など、人間のために特別な貢献をした犬を表彰するものだ。
一般からのノミネートや投票を経て、部門ごとの受賞犬が選ばれ、最終的にその年の「ヒーロー犬」が決定される
American Humane Societyのロビン・ガンザート代表は、ボーの受賞にあたって次のようにコメントしている。
私たちは、サージェント・ボーを最新の「ヒーロー犬」として選出できたことをとてもうれしく思います。
彼とフェイさんにとって、この称号はまさにふさわしいものです。彼らはナッシュビルの人々が極めて困難な時期を過ごす中で、子どもから大人まで多くの人に慰めと感情的な支えを届けてきました。
その存在は、希望と安全の力強い灯台であり、この賞が称えようとしている資質そのものなのです
しかし2025年1月、サージェント・ボーは前十字靭帯を損傷し、現役の警察セラピードッグとしての活動を終えることになった。
彼を失いたくなかったフェイさんも一緒に警察を退職し、現在ボーはフェイさんとその夫とともに、彼女の自宅暮らしている。
それでも、彼は今も毎週コベナント・スクールを訪れるほか、月に1回ほどは他の学校にも顔を出して、子どもたちの心を和らげる役目を続けているそうだ。
今年のヒーロー犬賞は、サージェント・ボーのほかにも、4匹のファイナリストたちが選ばれた。
それぞれ、視覚障害のある退役軍人を支えるガイド犬や、電子機器の匂いをかぎ分けて証拠を探す警察犬、任務と家庭の両方で活躍する軍用犬、生まれつきの障がいを抱えながら人々を励ます保護犬だ。
ヒーロー犬賞の授賞式は、2026年1月9日にフロリダ州パームビーチで行われる予定で、サージェント・ボーと4匹のファイナリストが招かれるそうだ。
References: Meet the Winner of the 15th Annual American Humane Hero Dog Awards®[https://www.americanhumane.org/press-release/meet-the-winner-of-the-15th-annual-american-humane-hero-dog-awards/]











