「犬種差別」に終止符。米メリーランド州で27年ぶりにピットブルの飼育が解禁
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 生まれ持った犬種だけで「危険」と決めつけられる時代が、ついに終わりを告げようとしている。

 アメリカ、メリーランド州プリンスジョージズ郡で、27年間にもわたり施行されていた「ピットブル飼育禁止令」が撤廃されたのだ。

 これまで同郡では、「ピットブルは生まれつき暴力的で攻撃的である」という固定観念に基づき、飼育を法律で禁じてきた。

 しかし、最新の科学的知見や統計データは、その偏見が間違いであることを示している。

 2025年、郡議会は「犬種」という生まれで差別するのではなく、その犬が「実際に危険な行動をしたか」で判断し、管理する「飼い主の責任」を厳しく問う新しい法律へと舵を切った。

ピットブル飼育禁止で行き場を失っていた犬たち

 2025年11月17日、メリーランド州プリンスジョージズ郡で、27年間にわたって続いてきたピットブルおよび類似する犬種の飼育禁止令が解除された。ようやくピットブルたちが歓迎される日が戻ってきたのだ。 

 この禁止令は1997年に制定されたもので、郡の行政当局はピットブルを公共の安全に対する潜在的な脅威と見なし、郡内での飼育を違法とした。

 対象となったのは、アメリカン・ピット・ブル・テリアやスタッフォードシャー・ブル・テリアなどで、これらの犬種の特徴を持つ犬たちも規制の対象に含まれていた。

 この条例の影響は深刻だった。郡の動物保護施設では、保護されたピットブルたちは「譲渡不適格」と見なされ、長年にわたり新しい家族を見つけることができなかった。

 その結果、保護施設は深刻な過密状態に陥り、行き場のない犬たちであふれかえった。当初、彼らは外に出ることさえ許されていなかったという。

 年月が経つにつれ、保護施設を管轄する郡の対応も少しずつ変化していった。まずは施設内でスタッフが犬たちと接することが許可され、続いて2023年には郡の外への譲渡が認められるようになった。

 そして今回、動物管理条例の改正により、ついにプリンスジョージズ郡の住民がピットブルを家族として迎え入れることが可能になったのである。

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「生まれつき危険」は本当か? 科学が示す事実

 そもそも、なぜピットブルはこれほどまでに恐れられてきたのだろうか。長年、この犬種は「本質的に暴力的な動物である」という誤解にさらされ続けてきた。

 かつて人間が強くなるよう交配を繰り返し、闘犬として強制的に利用された歴史が、「攻撃的」というレッテルを強固なものにしてしまったのだ。

 しかし、そのイメージは科学的なデータとは矛盾している。

 アメリカ犬気質テスト協会(ATTS[https://web.archive.org/web/20200527052540/https://atts.org/about-atts/])のデータによると、正式名称「アメリカン・ピット・ブル・テリア」の気質テスト合格率は約87.4%である。

 これは温厚な家庭犬として知られるゴールデン・レトリバー(約85.6%)やビーグル(約79.7%)よりも高い数値だ。彼らは本来、非常に忍耐強く、人間に対して友好的な性格を持った犬なのである。

 また、アメリカ獣医師会(AVMA)[https://www.avma.org/resources-tools/pet-owners/dog-bite-prevention/why-breed-specific-legislation-not-answer]も「特定の犬種を規制する法律(BSL)は解決策ではない」と明言している。

 咬傷事故の統計を見れば、ラブラドール・レトリバーやゴールデン・レトリバーといった人気犬種も上位に含まれていることがわかる。

 飼育頭数が圧倒的に多いのが上位に挙がっている要因でもあるが、どのような犬種であっても、管理がおろそかになれば事故は起きるということである。

 ではなぜ、ピットブルばかりがニュースになるのか。それは彼らが筋肉質で力が強いため、ひとたび事故が起きると被害が大きくなりやすく、どうしても目立ってしまうからだ。

 アメリカンケネルクラブ(AKC)[https://www.akc.org/expert-advice/news/breed-bans-affect/]が指摘するように、「危険な犬」というのは無責任なブリーダーや飼い主によって生み出されるものであり犬種が原因ではない。

 今回の条例改正は、まさにこの科学的根拠に基づいた判断だった。

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巨額の税金が無駄に、ピットブルを愛する住民たち

 この禁止令を撤廃せざるを得なかったもう一つの大きな理由は、この法律が機能していなかったという事実だ。

 郡議会議長のエド・バローズ氏は、長年の厳しい禁止令にもかかわらず、実際には郡内に数千、数万匹のピットブルが、人目を忍んで飼育されていたことを明かしている。

 「現時点で禁止令は有効ですが、今日現在、およそ3万匹のピットブルがプリンスジョージズ郡で暮らしています」とバローズ氏は指摘する。

 「私たちはこの禁止令を守らせるための取り締まりや犬たちの管理費用として、年間300万ドル(約4億5000万円)を費やしてきました。これまでの総額は1億ドル(約150億円)にもなりますが、それだけの巨額を費やしてもなお、ピットブルを飼う人が後を多々なったのです」

 いくら税金をつぎ込んで禁止しても、ピットブルたちとの暮らしを望む人々を止めることはできなかったのだ。

 郡在住のタミカ・ネルソンさんも、そんな「隠れた生活」を強いられてきた一人だ。彼女は「今は有頂天です!」と喜びを隠さない。これまでは愛犬を散歩させるためだけに、わざわざ郡の外へ連れ出さなければならなかったという。

これまでは、ここで安心して暮らすことができませんでした。特定の犬種だけが厳しく禁止される一方で、他の犬の飼い主たちがちゃんと責任を果たしているとは思えませんでした。

どんな犬種であれ、すべての犬はリードにつなぐべきですし、すべての飼い主が『犬種』ではなく『正しい飼い方』という同じ基準で、公平に扱われるべきです

 また、規則を守るために愛犬と離れ離れになっていた人々もいる。

 郡の住人キース・ホランドさんは、禁止令のために愛犬「サノス」をバージニア州へ避難させていた。彼にとっても、愛犬との「長距離恋愛」はようやく終わりを告げることになる。

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「犬種」ではなく、「実際の行動」と「飼い主の責任」を重視

 11月17日、郡議会で全会一致で可決された新しい法律は、「生まれつきの犬種」で判断するのではなく、その犬が「実際に危険なことをしたかどうか」、「飼い主がきちんと管理しているか」を重視する内容になっている。

 このピットブル飼育禁止令は2026年1月に正式に解除される予定だ。

 バローズ氏はプレスリリース[https://www.wusa9.com/article/life/animals/pit-bull-ban-lifted-prince-georges-county/65-fa2e2d0e-7396-44a2-925b-fc775930b40e]で次のように述べている。

今日は私たちの郡にとって記念すべき前進の日です。この法律は、実際には脅威をもたらさない数え切れないほどの犬たちに対する非人道的な安楽死を防ぐだけでなく、本当に危険な犬に対する保護を強化することで、地域社会をより安全にするものです

 新法では、飼い主への説明責任を強化し、民事罰則を引き上げ、「危険な犬」の定義と要件を拡大することで、責任あるペット飼育への包括的なアプローチをとっている。

 つまり、犬の種類で差別するのではなく、無責任な飼い主に責任を取らせる仕組みだ。

 地元の草の根団体「プリンスジョージズ・ペット・ユニティ・プロジェクト」の事務局長ケイトリン・コンロイさんも、長年この法改正を訴え続けてきた一人だ。

 「長年、住民は公平で効果的な法律を求めてきました。この時代遅れの政策のせいで、私たちのコミュニティは評判、資源、信頼、そして命という大きな代償を払ってきました」と彼女は語る。「それは動物管理システムを疲弊させ、有意義な進歩を妨げてきたのです」

 もちろん、過去の襲撃事件を理由に禁止令の維持を求める住民の声も存在した。

ネルソンさんはそうした不安にも理解を示しつつ、だからこそ「教育」が重要なのだと強調する。

 「懸念を持つ人々の気持ちもわかります。ですが、だからこそ私たちは正しい知識を学び、犬たちについて深く理解する必要があるのです」

 イングリッド・ワトソン郡議会議員によれば、そうした教育を支援するためのさらなる法案も準備中だという。

 彼女が提出した法案が可決されれば、住民で構成される「動物福祉諮問委員会」が設置され、郡の動物たちのケアについて具体的な提言を行うことになるだろう。 

References: Pit bull ban lifted in Prince George's County after 27 years[https://www.wusa9.com/article/life/animals/pit-bull-ban-lifted-prince-georges-county/65-fa2e2d0e-7396-44a2-925b-fc775930b40e] / Pit bull ban to end in Prince George's County, with new permit plan in place[https://www.nbcwashington.com/news/local/prince-georges-county/pit-bull-ban-to-end-in-prince-georges-county-with-new-permit-plan-in-place/4017614/] / AKC[https://www.akc.org/expert-advice/news/breed-bans-affect/]

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