マダガスカルに暮らす小型のカメレオンの中には、鼻先が細く長く伸びた独特の姿をしたものがいる。
長らく「ピノキオ・カメレオン」として知られていた種で、奇妙な外見から世界中の爬虫類ファンを魅了してきたが、種としての分類は長らく曖昧なままだった。
ところが2025年に発表された研究で、これまで「ピノキオ・カメレオン」と一括りにされていたカメレオンには、実は複数の種が存在していることが明らかになった。
この研究成果は、学術誌『Salamandra[https://www.salamandra-journal.com/index.php/contents/2025-vol-61/2205-glaw,-f-,-s-agne,-d-pr%C3%B6tzel,-p-s-gehring,-j-k%C3%B6hler,-m-preick,-f-m-ratsoavina,-n-straube,-k-wollenberg-valero,-a-crottini-m-vences]』(2025年10月30日付)に掲載された。
「ピノキオ・カメレオン」という種を改めて整理してみた結果
アフリカ大陸の南東部に浮かぶマダガスカル島には、世界で知られているカメレオン236種のうち、40%以上が生息していると言われている。
その中に、英語で「ピノキオ・カメレオン」と呼ばれて来た、小型で鼻先の長いカメレオンがいる。文献には19世紀末から登場しており、存在自体は新種どころか、むしろ古参の部類である。
ところがこの「ピノキオ・カメレオン」の仲間は、長年にわたって分類が混乱した状態にあった。
鼻先の突起の形や向き、色、ギザギザの有無など、「見た目」の差だけを頼りにしていたためである。
よく似た個体が見つかるたびに、どれがどの種なのか曖昧なまま学名が割り振られ、複数の名前がごちゃまぜに使われてきたのだ。
19世紀にまずChamaeleon nasutus(のちの Calumma nasutum)が記載され、その後にはCalumma gallusという名前も導入された。
しかしこの2つの境界はあいまいなままで、鼻先の長い小型カメレオンの多くが「nasutumかgallusのどちらか」として扱われ続けてきた。
今回、マダガスカル産カメレオンを専門に研究してきた国際的な研究チームが、この「ピノキオ・カメレオン」たちを遺伝子と形態の両面から洗い直し、ようやく整理をつけたのだ。
「ミュゼオミクス」を駆使して古い標本のDNAも解析
この研究では、過去に採集された標本も重要な手がかりになった。中には1830年代の博物館標本も含まれており、そこからDNAを取り出すために使われたのが「ミュゼオミクス(museomics)」と呼ばれる新しい解析手法だ。
古い標本はホルマリン処理や乾燥でDNAが断片化しており、従来の方法では調べることが難しかった。
研究チームはミトコンドリアDNAの2つの領域(ND2、16S)を使って系統関係を再構築し、長年混在してきた「ピノキオ・カメレオン」の仲間を、4つの明確な系統に分けることに成功した。
「ピノキオ・カメレオン」には4つの種が混ざっていた
今回の研究の最大の成果は、長らく「ピノキオ・カメレオン」と呼ばれてきた個体群が、実は4つの独立した系統だったことを示した点だ。
まず、論文内で「A4系統」として扱われたグループのオスは鼻突起の根元が幅広く、先に向かって細くなるのが特徴だ。表面はなめらかで縁にギザギザがなく、少し斜め上向きに伸びる特徴的なシルエットをしている。
遺伝子解析でも形態でも、明確に独立した系統であることが示されたため、このグループは正式に新種「Calumma pinocchio(カルンマ・ピノッキオ)」と命名されることになった。
メスのCalumma pinocchioは鼻突起が短く赤~オレンジ色を帯び、体側に網目状の模様を持つ。他の近縁種のメスとは、体側の模様に明確な違いがあるという。
今回新たに記載された2種目が、Calumma hofreiteri(カルンマ・ホフライテリ)だ。こちらは従来、Calumma nasutumの一部として扱われてきた系統に相当する。
論文では「K系統」とされていたグループで、タイプ標本はタルザンヴィル近郊の森から採集されたオスの個体だ。
遺伝子解析と形態の再評価の結果、この個体群はC. nasutumの本来の定義から外れており、独立種とするのが妥当と判断された。
その一方で、古くからあるCalumma nasutum という名前は、タイプ標本に一致する別の系統(論文内の A1クレード)に限定して命名し直されることになった。
さらに、Calumma gallus の名も、本来のタイプ産地に近い地域に分布する A2 クレードに割り当てられた。
ここに属するオスは、鼻突起の上縁に小さなトゲが並び、ギザギザしたシルエットを持つ。この「ギザのある鼻」が、本家gallusの特徴というわけだ。
つまり今回の研究は「新種を追加した」だけでなく、長年あいまいだった2つの古い学名も整理し直すこととなった。
これにより、「ピノキオ・カメレオン」とまとめて呼ばれていたカメレオンたちは、以下の4つに明確に区別されるようになったのだ。
- もともとのCalumma nasutum
- タイプ標本に一致する本来のnasutumに限定
- もともとのCalumma gallus
- タイプ産地周辺のギザギザ突起を持つ系統に限定
- 新種のCalumma pinocchio
- 新種のCalumma hofreiteri
ピノキオの鼻の形は、意外と変わりやすい特徴だった
今回の研究から、鼻の突起の長さや形、色といった外見は、従来考えられていたよりも変化しやすく、近縁の系統間でも異なることが判明した。
遺伝子解析の結果、近縁な系統の間でも鼻の形状が大きく異なる例が見つかっており、こうした特徴は比較的短い時間スケールで進化し得ると考えられている。
論文の筆頭著者フランク・グラウ氏は、こうした違いは性的選択、特にメスの好みによって生み出されている可能性があると述べている。
マダガスカルのカメレオンはちょうど100種に
今回の2種の新種記載により、マダガスカルから知られるカメレオンの種数は、ちょうど100種になったという。
小さな島にこれほど多くのカメレオンがひしめく事実自体が驚きだが、その中には今回のように「古くから知られていながら、実は別物だった生き物」も少なくないのだろう。
論文の著者の1人はこう述べている。
ある種について、既にすべてを理解していると思い込みがちですが、それでもなお、予期せぬ発見は起こり得るのです
博物館の棚の中で、何十年もひっそりと眠っていた標本が、最新の DNA 解析技術によって“再び口を開く”ことで、私たちが見ている生物多様性の地図は、これからもじわじわと描き替えられていくのかもしれない。
References: No lie. The long-nosed Pinocchio chameleon is multiple species.[https://www.popsci.com/environment/pinocchio-chameleon-species/]











