中国南部で火葬に反対する住民らによる抗議行動が勃発

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 2025年11月、中国貴州省の村で、政府への抗議活動が勃発した。火葬を強制する政府に対し、土葬の伝統を守ろうとする村人たちが、抗議の声を上げたのだ。

 村では政府が、土葬された先祖の遺体まで掘り起こして火葬しようとしているという噂が広がり、村民たちは木の棒を手に政府職員の前に立ちふさがった。

 この動きは他の村々にも飛び火しており、農村部の各地で火葬政策をめぐる政府との摩擦が表面化している。

火葬を強制する政府に対し抗議行動が発生

 11月22日、貴陽市息烽県木杉村で発生した抗議活動は、県政府が最近になって、火葬を強制する政策を進め始めたことが原因とされる。

 村にやって来た職員が政策の内容を説明し、住民たちに書類への署名を求めたところ、住民たちは激怒し、口々にこんな怒号を上げたという。

  • 共産党が先祖の墓を掘り返すなら、まず習近平一族の墓を掘り返させろ!お前らにそんな勇気があるか?
  • もし無理やり墓を掘り起こそうとするなら、死ぬまで戦って阻止するぞ!
  • やれるものならやってみろ! 民衆がお前たちを許すと思うのか?

 村では政府が「搶屍隊(遺体奪取隊)」を派遣して、土葬されている遺体を掘り出して火葬するとのうわさも流れていた。

 先祖の墓と遺体を守るために、村人たちは木の棒を手に取って職員の前に立ちふさがったのだ。

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 同じ夜、木杉村から数km離れた水頭村でも、より激しい対立が起きた。この日村では葬儀が行われており、亡くなった村人を土葬にしようとしていた。

 そこへやって来た息烽県の副県長・強勇氏が、火葬するために遺体の引き渡しを求め、止めに入った故人の妹を暴行してケガを負わせたのだ。

 この出来事に激怒した村人が次々と集まり、人数は数百人規模に膨れ上がった。強勇氏や随行の政府職員、警察官は何重にも囲まれ、双方の衝突が続いた。

 膠着状態は翌日の未明まで続き、混乱の中、強勇氏はケガをさせた女性への治療費の支払いを約束し、現場から逃走したという。

 中国では過去にも、地方政府が搶屍隊を出動させ、遺体を掘り起こして火葬を強制した例があるそうだ。

 だが今回は村民の数が多かったため、政府は強制的に遺体を奪うことを断念したと伝えられる。

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ネットでは政府への不信感が噴き出す

 このニュースを見た中国の人たちは、政府への不信感を露わにしている。

  • みんな立ち上がって、伝統的な埋葬の慣習を支持しよう!
  • 墓を掘り返すなんて、天も人も非難する行為だよ
  • 同じ貴州人として誇りに思うよ
  • 結局は教育の問題だよ。本当はもう多くの中国人は目を覚ましている。ただ、国内では本当の情報が手に入らないだけだ
  • 今回は貴州が勝つに違いない。我が偉大な四川はいつでも参加する準備ができてるぜ
  • 共産党の「人民のためのサービス」なんて大嘘だ
  • 私の曾祖母は火葬したけど、結局通常サイズの棺を買って、骨壺や衣服、日用品を全部その棺に入れて埋葬した。土地の節約になんてならない。お偉いさんの墓が山の斜面を占有しているほうがよっぽど土地のムダだよ
  • 北京の八宝山(はっぽうざん)にある革命公墓も全部掘り返すべきだ。役人は好き放題に巨大な墓を作って、庶民には倹約を押し付けてる
  • 雲南出身だけど、自分のとこはずっと土葬で、各家庭が自分たちの墓地を買っている。そんなに高くもない。でも今は火葬になって、文化的に受け入れがたいだけじゃなく、必ず公営の墓地を買わされる。値段も高いし、しかも「賃貸」なんだ。何年か経てば、同じ場所に別の人が埋められるんだよ
  • 官が圧力をかければ、民が反発するのは時間の問題なのにな
  • 南方の人たちは本当に団結力が強いね
  • こうやって農民たちが団結するのを恐れているから、若者の帰郷を禁止するんだな
  • 結局、今の中国は依然として「人治」の国で、現代的な法治国家とは程遠いわけだ

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火葬強制はコスト削減にはつながらない

 実は火葬への移行そのものは、突発的な政策ではない。中国政府は1990年代から「土地資源の節約」や「文明葬」「倹約葬」などを掲げ、葬送の近代化を全国的に推進してきた。

 2003年に制定された「殯葬管理条例」では、耕地の少ない地域を火葬区域と定め、土葬の縮小と火葬の普及が基本方針として示されている。

 近年の墓地不足もあって、海への散骨や樹木葬、花畑への埋葬といった、環境にやさしい埋葬方法が、新たな選択肢として奨励されているそうだ。

 しかしその運用には大きな地域差がある。都市部では火葬が一般化しつつあるものの、農村部、とりわけ少数民族が多い山間地域では土葬が文化の中心に位置づけられてきた。

 貴州省にはミャオ(苗)族やプイ(布依)族が多く、「入土為安」つまり「土に入ってこそ安らかに眠れる」とする考え方が根強い。

 そこへ行政が火葬を強制してきたため、彼らの伝統や習俗の否定と受け取られ、大きな反発を呼んでしまったのだ。

 また、経済的な事情も無視できない。遺体を火葬するためには、火葬場まで運ぶ費用や火葬自体の費用、骨壺代などの費用がかかり、所得の低い農村の住民にとって負担が大きい。

 さらに多くの農村には、骨壺を保管する納骨堂のような施設がなく、結局は土葬に近い形で、墓地に再埋葬する必要がある。

 火葬と土葬の二重のコストが発生する構造が、政策への反発をさらに強めているのである。

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各地で広がる同様の抗議活動

 今回の息烽県での対立は、こうした背景が複雑に絡み合った結果として噴き出したものだが、火葬政策をめぐる衝突は近年、中国各地で相次いでいる。

 2024年には貴州省金沙県で、千人規模の村民が葬列を組んで土葬を守り抜いたほか、安順市平坝区では棺を村の入口に並べて封鎖線を築く騒動も起きた。

 また、今回の貴州省での抗議活動に先立つ11月9日、雲南省鎮雄県では村民が政府職員の妨害を突破し、集団で土葬を行ったそうだ。

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 米国の民間団体フリーダムハウスが運営する「中国異議監測(CDM、中国の抗議行動を記録する監視プログラム)」によれば、2025年に記録された農村部の抗議活動は661件に上り、前年から70%増となったという。

 同プログラムの研究責任者、スレイトン氏は次のように述べている。

抗議活動は、そこに非常に個人的な問題が絡んでいる場合、より大規模になって長期化する傾向があります。

それが個人の経済生活への深刻な打撃であれ、あるいは自身のルーツや先祖に関わる問題であれ、リスクを冒すだけの動機を強く感じるものなのです

周辺の市や県では、住民の抗議をきっかけに、書類上は火葬を推奨しつつも、実際には土葬も認める方向へと運用を切り替えた地域もあると報じられている。

 今回の抗議活動には外部からの支援も寄せられており、生きた豚一頭が差し入れられたほか、水や野菜も運び込まれ、炊き出しも行われているらしい。

 葬送のあり方は、家族や伝統の根幹に触れる問題である。ここで対応を誤ると、さらに埋めがたい溝を生む可能性もある。

 2025年12月3日現在、この問題に解決へ向けた動きはまだないようだ。今後の行政側の対応が注目されるが、解決の糸口はまだ見えてきていない。

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References: Protests erupt in China’s Guizhou province over cremation mandate[https://www.theguardian.com/world/2025/nov/25/protests-erupt-in-chinas-guizhou-province-over-cremation-mandate] / 云贵村民齐心反火葬千人守坟 网民捐助活猪(视频)[https://www.ntdtv.com/gb/2025/11/26/a104041769.html]

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